↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第3部 【王を貫けプリンセス】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/47

1:幼馴染の行方

それは暗雲立ち込める、湿気で肌のべたつく夜だった。

空を切り裂いたような断崖絶壁を背に、少女は彼と対峙する。


勝てる未来などありはしない。少女の水は、彼を押し流すにはあまりに弱く。その治癒は、雷のごとき打撃による傷を癒すことはできない。


負けたら死ぬ。全てが終わる。それは少女にはあまりに恐ろしい現実で。


だからあの日。烈嶺ソールフィネッジの頂で。



何もかもを投げ出した少女は、慣れ親しんだ地表に別れを告げ────



********



「本当に行くのか? また、キミ達だけで」

「もう、そうするしかないよ」


経緯を聞いたエルディード・レオンズは、事態の重さに手をわななかせる。

正午を回らぬ内に、私達は既に出立準備を整えていた。



「エーネが攫われた。犯人は一人しかいない」



ライグリッド・モリアデス。


守護者グレイザーを拉致し、エーネをも拐かした恐るべき大罪人。


「エーネさん、大丈夫かな……」

「気配すら感じなかった」


痕跡を残さずエーネを攫い、補足もされずに街を去るなど人間業ではない。

ただ、腑に落ちないのは────


「何故、エーネを狙った?」


ザンが憎々しげに吐き捨てた。


「奴は『腕に覚えがある者』を狙うと聞いた。あいつは戦闘は不向きだ。情報に齟齬があるな、毒刃少女(ポイズン・ガールズ)?」

「……睨んだって無駄よ。とっくに結論が出ているじゃない」


鎖に繋がれたマニー・エーションは、昨日に続き沈痛な面持ちで。


「エディネア・モイスティは、一人になったところを狙われた。あんたやダイナより優先してね」


初めからわかっているだろう、と言わんばかりの口調だった。



「個人的に付け狙われるような理由があった。つまりモイスティは、()()()()()()()()()()()()。違う?」



違う、わけがない。私は後悔で胸がいっぱいになる。


「そう。そのことについて聞くために、昨日エーネを追った。あと少し……ほんの少しだけ早ければ、今頃!」

「ふ、フレイさん落ち着いて。鉢合わせたら殺されてたかもしれないわ」


レトアの気遣いも耳に入らない。感情の抑えが効かなくなっていた。


「ホールでパニックになったエーネを見て、ザンは帰ろうって言った。だけど私はマニー達を倒すことを優先して……その結果がこれだよ!!」

「フレイ、だがお前は……!」

「エーネは不安なまま一緒に戦ってくれて、それなのにっ!!」


結果的に、私はエーネを見捨ててしまった。


また、取りこぼすのか。この期に及んで、自分はまた────



「冷静になるのです、ダイナさん」



涙が溢れる寸前、レイティ・ロベインの毅然とした声がそれを阻んだ。


「あなた方のおかげで、我々は救われました。モイスティさんがいたから、傷を癒し、綺麗な水を飲むことができた。それを否定しては、あなた達の頑張りそのものを損ねてしまいます」

「っ……」

「俺も同じ思いだ。お前は正しかった」


ザンはエルドとレイティを交互に見て、力強く言い放つ。



「二つの街を。この人たちが築く世界を、守れたんだからな」



目元を拭った私は、小さく頷いた。昨晩心の中で問いかけた、大切な事実を忘れていたようだ。


「じゃあ、頑張ろうね」


こんな時でも、マインドはあっけらかんとしている。


「人外同士の戦いなんて、燃えるじゃないか」

「……なあお前、機人の中ではそこそこってとこだろ? ぶっちゃけ人間の十倍ってほどでは」

「あー、それ以上言われると、僕シュレッケンに永住しそう」


私は思わず笑ってしまった。ザンも笑顔だ。

と、無言だったピューレが私に向き直り、


「はい、これ」


同じく鎖に繋がれた手を伸ばして、黒いカバンを差し出してきた。


「これ……光銃!? 三人分も!?」

「通信機も入ってる。少しばかりのお気持ち。お姉ちゃんが、あの話をした責任を感じてて」

「か、感じてないわよ! 余計なこと言わないで!」

「ありがとうね! 助かるよ」


心からの謝辞を伝える。ピューレが目を細め、マニーは少し赤面した。


「けれど正直リスクが高すぎる。キミの魔法をもってしても勝てるかどうか」

「わかってる。だから……今回は『救出作戦』だよ」


目標は敵の撃破ではない。エーネとグレイザーの救出だ。

ライグリッドに勘づかれないよう、全員でソールフィネッジから離脱する。後のことは、二人を救い出してから考えれば良い。


「それでも馬鹿げてるわ。脅威は説明したはずなのに、たった三人で行くなんて」

「だって、軍を向かわせても危ないだけだし、エルドさんもレイティさんも復興で忙しいし。それにマニー」


学園の屋上での出来事を思い出しながら、私は声を潜めた。


「もし妹が同じ目に遭ったら、そっちもそうするでしょ?」

「…………そうね」


「三人だけじゃないわ」


自嘲気味に笑うマニーに被せるように、幼い声が上がる。



「あたしも行く。あたしもフレイさん達と一緒に、エーネさんを救うわっ!!」


「れ、レトア!?」



私とレイティが素っ頓狂な声を上げた。

その反応を予期していたらしいレトアは、ぶんぶんと首を振る。


「無駄よ、もう決めたの。ママと群都市でやり直すことが、償いの道だと思ってた。でもエーネさんも、あたしを助けてくれた一人なの!!」


少女は母に抱き着いた。レイティの瞳が困惑と諦観に揺れる。


「お願いママ、行かせて! あたし、誰かの力になりたい!!」

「…………」

「ママっ!!」

「……約束、できますか?」


レイティは涙を落としながら、愛する娘と額を合わせた。



「また、私の前で笑ってくれると。ずっと、幸せでいてくれると!!」


「うん、ママ……! 絶対無事に帰るからねっ!!」



尊いやり取りを見て、私の中にある記憶が蘇った。

そう、つい最近のことだ。私もエーネと約束をした。


────『ただ……誓ってください。誰も、傷つかないで済むんだって。みんな幸せでいられるって……!』


いや、約束ではなく『誓い』だったか。

いずれにせよ、私も果たさねばならない。今度こそ、守るために。


「すまない。ボクは、共に行けそうにない」

「良いんだエルド。また心配をかけるな」

「二連続は辛いね。でもボクにも、彼の帰還に備えて街を守る仕事がある」


ザンはエルドに手を差し出した。彼女もそれを固く握り返す。

かつての敵との、紛れもない友愛の証だった。


「信じているよ、ザン。必ず二人を、あの魔境から救い出してくれ」

「ああ。今度また手合わせでもしよう。あの投擲、練習しておくよ」

「ボクのアイデンティティだから、それはやめてほしいな」


出立直前、皆で最後の一時を過ごす。


「ねえ、レオンズさん。この鎖痛い」

「……もっと厳重にしても良いのですよ?」

「!? 厳しすぎる……!」

「ピューレさん、当たり前よ。あたし達が何をしたか考えれば……」

「でも、レトアには甘い。きっとロリコンなんだ。私の中で、レトアはギリギリロリだし」

「ろ、ロリじゃないわよっ!!」

「ピューレ・エーション、反省の色は無しですか」

「うっ、ゴメンナサイ」


しょうもないやり取りが繰り広げられているかと思えば────


「娘が心配かしら? ロベイン」

「……あなたに話すことはありません」

「手厳しいわね。でも喜んであげるべきよ。あんたの教えが、真に人を救うかもしれないんだから」

「そう、かもしれませんね」


この場にエーネがいないことが、どうしようもなく口惜しい。

私が俯いていると、マインドがそばにやってきた。


「こういう時、あまり会話に加われないのが寂しい」

「そう? マインドって何か面白いから、きっとみんなウケてくれるよ。私も昔は輪に入れるタイプじゃなかったし……」

「芸人じゃないんだけどね。でも、そっか。フレイも」


マインドは普段ほとんど動かない口角を上げ、上目遣いになる。


「何か、親近感湧くなぁ」

「……!!」


私の中に刻まれている台詞だった。自然と顔が熱くなり、そして思い直す。


(……ありがとうマインド。いつも、心の支えになってくれて)


「フレイ、そろそろ」

「うん」


その時を感じ取ったのか、全員が会話をやめた。


「取り返してくる。大事な人を」

「何かあったらすぐに逃げてください。無益な戦いは厳禁です」

「ママ、心配しすぎだって……」

「はい、気を付けます」


門の先、一面に広がる草原を見据える。奥にはやや枯れた荒地も見えた。


ソールフィネッジは遠い。エーネはまだ、この近くにいるはずだ。



「待っててね、エーネ」



例え何があろうと、あの笑顔をこの手で取り戻してみせる。



フレイング・ダイナの名に懸けて。



********



『ふむ、少し遅かったか』

「ゼノイさん!」


フレイ達が発ってしばらくした頃。

エルドの通信機に、群都市で待つゼノイ・グラウズから連絡が入った。


「お久しぶりですね、グラウズ市長」

『その名で呼ばれるのは久しぶりだね。貴女もご壮健で何より』


挨拶を済ませた彼は、ふと声を潜ませて。


『事情は全て伺っている。此度の戦は、単なる救出戦で終わりそうにない』

「どういうことかしら?」

『備えが必要だ。私が改めて、『最高の作戦』を提供しよう』



遥か彼方から、老指導者は烈嶺の頂を視ていた。



『我々の手で人命を守る。総力戦の始まりだ』

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


・ブックマーク追加

・下の☆☆☆☆☆を★★★★★に!


を是非よろしくお願いします! 強いモチベーションに繋がります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。