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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第2部 【銀の心の救世主】

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20:後ろの正面だあれ

「田舎者のあんた達が知らなかったのは当然よ」


マニー・エーションは、遠い目をしたまま嘆息する。


「でも、これほどの事件を引き起こしたあたし達が放置されてたのが、何よりの証拠」


その言葉で点と点が繋がったような気がした。私の中にも、思い当たる節が複数ある。



────『助けは来ねェ。もっとも、王都は元より戦力が期待できる状況にねぇが』

────『王国は今大変なことになってて────隣国と同盟を結んでおかないと、外敵から身を守れないの』



王国軍の壊滅。それが、一連の惨状を助長させるきっかけだったのだ。



「確かに、あなた達は強い」


いつになく剣呑な面持ちで、ピューレが後を継いだ。


「グレイザーも王都では、辺境の覇者として認知されてた。でもモリアデスは、あなた達が束になっても絶対に勝てない」

「ど、どういうことだ……!」


呻くように尋ねるザン。焦燥の色がありありと見て取れる。


「そいつは魔法使いなのか? よほど強力な力を────」

「魔法使い……か。それなら、もう少しやり用はあったのかもね」


首を振るマニーの表情は諦観に近かった。


「モリアデスは魔力を持たない、生物学的には人間の男よ。守護者を攫ったのは間違いなく奴ね。目的は不明だけど……ここ最近彼は、腕に覚えがある者ばかりを狙った、『連続誘拐事件』を起こしているの」

「誘、拐……!?」

「これでもまだ大人しい方よ。存在自体が脅威である奴は、ついに国に目をつけられ……数ヶ月前、王都とソールフィネッジは全面戦争を行った」


戦争。国家を揺るがす大事件が、直近で────


「機人兵団を含む王国軍は惨敗。軍務長官も深手を負った。第一王女が奴と和平を結んで、ギリギリ国は保っているけれど」


それももう、時間の問題だという。


「それほどの相手なのよ。何ならあんた達も、確実に狙われる」

「……ねえ、二人は王都から来たんでしょ? 大丈夫だったの?」

「あたし達は、第一王女の魔法で転送されたわ。国で唯一の『空間移動魔法(テレポーテーション)』の使い手だから」


中々便利な魔法のようだ。世の中は広い。


とりあえず、状況はわかった。極めて最悪であるということが。


「……ありがとうね、わざわざ教えに来てくれて」

「べ、別にあんたらのためじゃないわ。死なれたら寝覚め悪いから……」

「お姉ちゃん、古い」


テンプレのやり取りを繰り広げる姉妹。意図して深呼吸を繰り返すと、パーティの喧騒も再び耳に入るようになる。

一旦話に区切りがついたかのように思えた、その時。



「ご、ごめんなさい……っ!」



今まで一言も喋らなかったエーネが、小さく手を上げた。


「何かしら────って、あんたっ……!」


その顔は、マインドの肌より真っ白だった。一切の血の気が引いている。

脳裏に、あのホールでの出来事が蘇った。


────『はあ、っ、はあっ……ち、違っ、()()()は、あいつ、は……!!』


「えっ、エーネ……!!」

「わ、わたし、具合が悪くて……その……へ、部屋で休んでくるっ!!」


過呼吸気味になりながら、脱兎のごとく駆け出す少女。手を伸ばすも、振り返ることすらしない。


「き、急にどうしたのよ」

「すごい顔色だった。怖がらせた、かな」

「……違う」


吐き捨てるように言って、ザンは目を閉じた。


「あいつはずっと怯えてた。でも頑なに理由を言おうとしないから……きっといつか話してくれるって」

「それで、待ってたってわけね」

「…………」



エディネア・モイスティ。彼女がどこからか辺境に現れて、八年が経つ。



今思えば、当時の彼女も怯えていた。今よりいっそう人見知りで、すぐに顔を赤くして。定期的に泣いてしまって。


それでも寂しさを厭うエーネはずっと、私達のそばにいた。


「追わないの?」


機人マインドは静かに問う。


「きっと彼女も待ってる。君達が手を差し伸べるのを」

「でも……エーネはずっと、自分の事を隠して」

「僕がこの街で学んだのは」


射抜くように目を見開くマインド。造り物のはずの瞳は、今も昔も澄んでいた。


「互いの心を通じ合わせる大切さだ。後悔するくらいなら、僕は君達に、全てを聞いてきてほしい」


友の秘密に触れること。それは、これまでの関係を損なう危険を孕む。

それを何より恐れているのは、他でもないエーネのはずなのだ。


けれど。

彼女の敵があまりに強大で、助けを求めているのだとしたら。



手を、差し伸べなければ。あの日戦った彼のように。



「……行こう」


私の視線は、同じく覚悟を決めた義兄を捉えていた。


「エーネに話、聞こう。それで……みんなで相談したいな」

「異存は無い」


二人同時に、マインド達に向き直る。


「ごめんねみんな、用事ができちゃって」

「構わないよ、僕は」

「聞いてきなさいな。あたし達もそろそろ、留置所に戻るから」

「うん……またね」


はにかむ幼馴染の顔を、必死に思い浮かべる。



大丈夫だ。エーネはきっと、まだ遠くへは行っていない。



********



「はあっ、はぁ……ッ!」


ミニドレスはとても動きやすかった。自分でも信じられないスピードで宿に戻ったエディネア・モイスティは、勢いそのままベッドに倒れ込む。

汗で張り付く布地が気持ち悪いが、着替える気力も湧かない。


(わたし、何して……バカ……っ!)


溢れる涙で枕を濡らしながら、布団を強く握り締める。


耐えようとした。けれど無理だった。

過去を思い出すだけで足がすくみ、全てが敵に思えてくる。


あれから八年。成長した体、強まった魔力……多少なりとも身に付いたはずの自信。

自分はもうすぐ十八になる。仲間内で最年長だ。顔つきは中々垢抜けないけれど、それでも少しずつ大人になっていく。


なのに────


(行きたくないっ、行ってほしくない……! グレイザー、今すぐ何でも無い顔で帰ってきてください……!)


フレイは絶対に諦めない。きっと最終的には、赴くことになるはずだ。



エーネの全てを変えた、あの忌まわしきソールフィネッジへ。



────『一緒に行こう、フレイ!』


旅に同行すると決めた時、変われると思った。

心から大切に想うフレイに、恩返しができると。治癒師になって多くの人間を救う夢に向け、一歩踏み出せると。


それが今や、過去に逆戻りだ。


「……でも」


わずかに残った勇気が、最近の記憶を呼び起こす。


エーネはいつだって支援に回る。フレイやザンのように強敵を打ち倒すこともできないし、マインドのような必殺の光線もない。


自分の弱さが不甲斐ない。いつもあと少しの力が足りない。

ハンガーズに立ち向かった時、もうこんなことはしたくないと思ってしまった。研究所の罠に嵌った時も同様だ。


それでも……可能性を感じてしまう気持ちを、止めることができない。


「わたしは。わたし、は……ッ!」


そうだ、今の自分なら。フレイ達となら。


あの日、生きることを諦めなかったように。もう一度だけ、立ち上がる力を。



(伝えよう……みんなに)



冷え込んだ体を抱きながらの、決意。

徐に起き上がり、ドアに触れる。奥で大好きな皆が笑っている予感がした。


かつて起こったこと。自分の正体、願い。その何もかもを話したい。

きっと受け入れてくれる。共に戦ってくれる。



きっと、本当の自分を────




「ねえ」




全てを凍らせるその声は、これほどの月日を経ても変わらない。

エーネはノブを回せないまま、乾いた口から魂が抜けるのを感じた。


「随分イイ格好だね。恋人の所にでも行くのかい?」


音も無く開いていた窓。夜風が、ほとんど剥き出しの肌に染みる。


それはエディネア・モイスティが、全ての希望を失った瞬間だった。


「綺麗になったね。探したんだ。本当に、探したんだよ……」


甘く、撫でるように彼は言う。

エーネは涙を貯めた目を、光を失ったまま背後へ向けて。


「ラ……イ……」


「この時を待ってた。ようやくだ、うふふっ」


かろうじて漏れ出た声は、幼馴染には届かない。



最後に認識したのは、襲い来る真っ白な手と、忘れ難い怨敵の笑顔だった。




「見つけたよ、()()()




全てが、無に帰す。



********



「……エーネ?」


戸を叩いても返事は無かった。寝てしまったのかと思ったが、心配性な彼女が戸締りをしないのはおかしい。

だから私はドアを、開けた。


「……え」


無人の室内、全開にされた窓。ベッドには涙の跡。

それ以外におかしな部分は無い。にも関わらず、彼女はいなかった。


「っ!!」


「エーネっ!!」


ザンが顔を引きつらせると同時に、私は窓に駆け寄った。

ここは三階だ。最悪の想像がよぎるが────


真下にはただ、可愛らしい植物が顔を覗かせているだけだった。

人の痕跡なんて、ただの一つも残っていない。


「ッ……!」


わずかな安心と、それを覆い尽くす焦燥感。


「さ、探そう。エーネを探そう、ザン! ぼうっとしてないで!!」

「……フレイ、お、恐らくこれは」

「い、一旦、マインド達に連絡して。私は、は、繁華街の方に行くっ!!」


ドアを突き破る勢いで飛び出し、私は己に言い聞かせるべく叫んだ。



「いるはずだよ……この街にっ!! だってエーネは……私達の幼馴染はっ!! 勝手にいなくなったりしないんだからッ!!」



状況はすぐにレイティに届き、急遽捜索隊が作られた。

あらゆる建物のあらゆる階。上は学園の屋上から、下は避難豪に至るまで。


探し、探し、探し尽くす。


「嘘だよ、こんなの……!」


じゃれ合って笑う姿。照れて縮こまる姿。勇気を出して水を纏う姿。


あらゆるエーネの記憶が、全て────幻影だったかのように思えて。



「どこにも、いない」



新たな一日を告げる日が昇り、ハンガーズ本隊が到着した頃。

探知を繰り返し、エネルギー切れになったマインドが、今にも機能停止しそうな声で言う。



それは、私が膝をつくには十分すぎる言葉だった。



「どれだけ探知をしても、エディネア・モイスティの姿は見当たらない。彼女はもう、シュレッケンにはいない」

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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を是非よろしくお願いします! 強いモチベーションに繋がります!!

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