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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第2部 【銀の心の救世主】

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35/47

19:警告

「……家族と向き合う、か」


レトアが去り、会場の空気が落ち着いた頃。

どこか上の空で、銀髪の幼馴染はそんな風にこぼした。


「エーネ?」

「あ……何でもないです。えっと、飲み物取ってくる」


エーネはそそくさと歩き出した。心なしか、少し疲れているような顔だ。


(まあ、激動の日々だったもんね。それはそれとして……)


村を出て以来ずっと一緒だった彼女の目が、ようやく離れた。

今こそ、千載一遇の好機。


「ザン、ザンっ」


私は義兄の際どい腰布を引っ張る。


「頼むからそこはやめてくれないか? どうしたんだよ」

「私、ちょっと出かけてくる。エーネが戻ったら誤魔化しといて」

「どこ行くんだよ。その……ヘソ出しのままでか?」

「う、うるさいっ! 決まってるでしょ!」


まさか忘れているのか?



「もうすぐエーネの誕生日! プレゼント!! 今買わずにいつ買うの!?」



誕生日。その刺激的なワードに、ザンが珍しく青ざめた。


「ま、まずい……フレイ、俺も一緒に」

「ダメ! 二人で抜けたら怪しまれるじゃん!」

「くっ、時間的に今夜は無理そうか……」


全く、これだから男子は。


マインドにも一言伝え、私は会場を抜け出した。

体を前のめりにしながら街を巡る。やはりかなり恥ずかしいが、彼女の喜ぶ顔を思えば……!


戻ってくる頃には、すっかり宴もたけなわだった。


「お待たせ! ごめん長くなっちゃ────って、どなたですか?」


フードを被った不審者が二人、料理を手に皆と会話していた。

隙間から覗く薄紫色の髪を見とめ、呆れ返る。


「あ、フレイ! 心配しました」

「ごめんごめん。えーっと、何をしてたかっていうとね……」


説明する前に、エーネは心配そうに私の胴体に目をやった。


「お腹壊したんですよね? そんな格好だし……今夜はあったかくしてね」

「え!? う、うん、ありがとー……」

(ザン!? 適当すぎでしょ!!)

「すまん……全然思い付かなくて」


「ちょっとちょっと」


結局無視を決め込んでいると、不審者の方から話しかけられた。


「何シカトしてんのよ」

「な、何か気まずくて」

「こっちはあんた達に会いに来たの!」


声を潜めるマニー・エーションは、不満を垂れながら肉を頬張った。妹も黙々とサラダを食べている。久しぶりのご馳走なのかもしれない。


「ちなみにどうやって脱出したの?」

「お姉ちゃんが、看守を色仕掛けで。文字通り一肌脱いだ」

「それが科学者のやることかよ」

「使えるものは何でも使うのよ。あたしったら、美貌にまで恵まれたの」


マニーはローブ姿だが、それ越しでも優れたプロポーションが見て取れた。

癪なので言わないけれど。


「そんなことよりダイナ、あんたも答えなさいよ」

「何を?」

「『恋愛事情』よ。ちょうどその話になってたの。誰かと付き合ったこと、ある?」

「え、ええっ!?」


いきなり何を聞いてくるのだ。


「付き合うって、その、デートとかする……みたいな?」

「あんたいちいち確認するわね。それ以外に何があんのよ」

「……それは、無いけど」


小声で答えると、マニーは勝ち誇ったような顔になった。


「あら、そう! じゃあんた達全員、何もかも未経験ってわけね!? へぇー、そう! まあ、お子様だししょうがないわね!」

「何で君が王子と付き合えたのか、僕は疑問でならないよ」


様子を見る限り、全員同じ質問をされたらしい。こっぴどく負けた意趣返しに、回りくどい嫌がらせをしてきているのだろう。

……多分、本来は無害な人なのだろうとは思う。


「とはいえ、キスくらい経験しておかないと後で苦労するわよ? 流石にそれくらいはあるわよねぇ?」


わかりきった問いを繰り出すマニー。エーネは恨めしそうに口を結び、マインドは肩をすくめる。



一方────思い切り動揺した私は、自分でもわかるくらい真っ赤になって唇を押さえた。



「……えっ?」


三人の声が重なる。


「……………………あるわけ?」


「ど、どういうことっ!?」


凄い勢いで、エーネとマインドが同時に掴みかかってきた。エーネはともかく、マインドの鉄製の手は普通に痛い。


「え、えっと、その」

「だ、誰と!? 村の誰かですか!? ま、まさか、まさかっ……!?」

「興味ある。すごく興味があるよフレイ。ぜひ紹介してほしい!!」

「そ、そうじゃなくて……!」


というか、恥を忍んで初恋の人の話をしたのに、何で気付かないの!?


「な、何よ、やることやってんじゃない。ふふ、反応的に相手はあんたね?」

「……ノーコメントだ」


ザンは全員から顔を背けている。


「ざ、ザンですか!? やっぱり好きなの、フレイ!? こ、転んで口が当たったとかは無しだからね!!」

「エーネってほんとに鈍ちんだよね!! 終わりッ! この話終わり!!」


たまらず強引に締めくくってから、私は二人を引き剥した。


「それより二人とも! こんな話のために来たんじゃないでしょ!?」

「そうだよ、お姉ちゃん」


心底興味無さそうに野菜を頬張っていたピューレが、ようやく口を開いた。


「フレイング・ダイナも、戻ってきた。そろそろ本題に」

「……そうね」


ニヤニヤしていたマニーは、打って変わって真顔になる。

空気が一変したのを察知し、ようやくザンも振り返った。



「単刀直入に聞くわ。あんた達、これからどうするつもり?」



それは復興作業の最中、私なりに考えていたことだった。


マインド・ダイナの意思を継ぎ、偉大な存在────王になる。

それが私の至上命題だった。目的を偽って村を飛び出し、グレイザーの殺害を目論んでいた。


けれどもう、わかる。私は道を誤った。


無論、王になる夢を捨てたわけではない。

けれど、エーネの涙、ザンの告白────夢にまで見た少年と同じ温かみが、過ちに気付かせてくれた。私は行き過ぎていたのだ。


ザンは薄々勘付いていた。けれどエーネは未だに、無垢な私を信じている。

謝らなければ。恐怖を押し殺してここまで付いてきてくれた、健気な幼馴染に。安心できる村に帰って、またお泊りでもしながら。



けれど────



「グレイザーを、助けに行きたい」



たった一つだけ、私には仕事が残っている。償うための仕事が。


何者かに連れ去られた本来の協力者、守護者グレイザー。彼の安否は依然確かめられていないのだ。


「やっぱりね」

「ゼノイさんが言ってた『王都方面の脅威』とか……マインドの話も考えると、居場所は大体わかるよ」


ここから更に北にある大地────



「『烈嶺』ソールフィネッジ。グレイザーは、そこで捕まってるんだよね?」



ふと、エーネが身じろぎした。安心させるため、その手を握る。


「まずは明日、エルドさんと話し合う。作戦とか決めて、必要だったらハンガーズと一緒に行くよ」

「フレイ……」

「あ、もちろん行きたい人だけね? みんないっぱい戦ったし、何だったらこの街で遊んでても────」


「やめなさい」


マニーの声は、本気で私達を案ずるものだった。ピューレも既に皿を置いている。

会場の喧騒が、一瞬別世界のものに思えた。


「群都市やここを、()()()()()()()()()()()()……あそこに近づくのだけは、絶対にやめなさい」

「それは、危険だからってこと?」

「ええ、そうよ704。でも再起動されたあなたは知らない。今、()の危険度は……かつてないレベルに引き上げられた」


彼女の言には、王都を知る者としての重みがあった。


「ブレイン砲は元々、奴の襲撃に備えて作ったわ。設計では何倍も大きかったけど、人手が足りなくてね」

「奴って……?」

「ソールフィネッジ────陸の孤島に居を構える、戦闘民族の里。長が世襲制なこと以外は何もかもが実力主義で、ついた呼び名は『烈嶺(れつれい)』」


乾いた息を吐くマニーのこめかみを、一筋の汗が伝った。



「全てを統べる若き首領────ライグリッド・モリアデスは。()()()()()()()()()()()()()()()、まごうことなき『人外』よ」

★読んでくれた皆様へのお願い★


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