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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第2部 【銀の心の救世主】

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6:君達がそれを望むなら

ひび割れた顔、造り物の瞳、濁った声。全てが人間とは程遠いのに。

艶のある黒髪が、幼くも凛々しい表情が……心を激しくざわつかせる。


一体、どうして。()()()()()()()()()()()()()()


「何故あなたが?」


光銃の残骸をしげしげと眺めながら、ピューレは口を開いた。


「私達を、裏切ったの?」

「まさか。僕はいつだって自分に正直だ」

「……血の無い体で、血迷ったね」


機人は屋根から飛び降りた。心配になるような高度だったが、華麗に着地し、前腕の射出口をピューレに向ける。


「でも、何故だろうね。この子を放っておけなくなった」

「わ、私……?」

「珍しい髪色に惹かれたのかな。これって、タイプってこと?」

「電力切れはしてない、か。もう一発あるね」


ピューレが歯ぎしりする。彼女でもこんな表情をするのか。


「許されると思わないで。毒刃少女(ポイズン・ガールズ)は、決してあなたを逃さない」

「…………」

「みんな、撤退。奴の光線は高威力。体が『破損』したら、怒られちゃう」


市民達が後退を始める。ピューレも踵を返して歩き出した。


……逃がすものか。背中には装置の効力が及ばない可能性だって。


「【静謐の炎よ(サイレント・フレイム)】!」

「!!」


ピューレは瞬時に振り返り、先ほど同様手で受け止めた。装置がありながら本能で火を恐れるのは、彼女のわずかな人間味だ。


結局傷は与えられなかったが、火の粉で白衣が一部黒ずんだ。


「……不具合?」


訝しげな顔をしたまま、彼女は奥へ去っていった。


「どう? 助かった?」


心ここにあらずの状態でいると、黒髪の機人はすぐ近くまで来ていた。


私と顔半分ほどは背丈の差がある。フォルムは十二、三歳の少年だ。

そう。声と顔の模様を除けば、全てがあの時のまま。


「あ、何か可愛いかも……」

「お前……ッ、何者だ……!?」


窮地を脱して和んだエーネに対し、ザンは憎しみの視線を送る。


そして私は────さっきからずっと、顔が熱い。


「ザン、どうしたんですか? フレイも……って、か、顔真っ赤!」

「自己紹介は後にしようよ。みんな、ついてきて。良い場所があるんだ」

「あ、マインド……っ」


手を引かれ、思わず口にしてしまった。


「マインドって、僕の名前?」

「え、あ……えっ、と……」

「いいよ、それで」


機人は不格好に口角を上げた。微笑んでいるのだと、少し遅れて気付く。


「マインド。何だか良い響き。君は?」


恥ずかしくて、でも胸が高鳴って。



ああ、なのにどうして。マインドは、私を覚えてないの?



「私……フレイング・セイ────ダイナ。ふ、フレイって呼んで」

「あ、え、エーネですっ! こっちはザン!」

「フレイ、エーネ、ザン……うん、わかった」


再び握られた手は、鉄製なのに温かみを感じられた。


少年に導かれ、死都と化した街を練り歩く。

私達が辿り着いたのは、古風な温泉宿だった。


「ここは人気な場所だった。お湯に浸かれて、ご飯も出る」

「ご、ご飯!? ってことは、温泉にも入れたり……」

「訂正するよ。お湯が死んでる事以外は、完璧な場所だ」


げんなりするエーネをよそに、マインドは奥へ進む。

最終的に、明らかに客用でない小部屋に案内された。隅にはガタガタと揺れる謎の箱がある。結構怖い。


「これは温泉を管理する装置だよ。で、ご飯はここ」


マインドが指差したのは、装置の横に開けられた小さな穴だった。


「さっき一発やったからね。空腹で満身創痍なんだ」

「え」

「いただきまーす」


そう言うや否や。彼は穴に口をつけ、()()()()()()()()()()()()()()()


全員がドン引きする中、鉄製のボディが銀色の光を帯びていく。


「さあ、君達もどうぞ」

「食えるかっ!!」


確かに人間用のご飯とは言ってなかったけれど!


「えー? 折角貴重な電気だっていうのに」

「期待して損した……というかデンキって?」

「あ、機械のためのご飯ですか?」

「そんな感じ。エーネにはこれを」


マインドは小さなボトルを取り出した。


「油。体に塗ると気持ち良いよ」

「何でこれが要ると思ったの!?」


何となく彼の性格がわかってきた。今朝の喋り方も、多分怖がらせて楽しむための演技だったのだろう。


思えば『彼』も、こんなひょうきんな一面が────


「おい」


ザンの、冷たい地響きのような声が伝わった。


「お前ら、いつまで遊んでいるつもりだ」

「あ、遊んでな……ごめんなさい……」

「ちょっと、そんな風に言わなくても」


私は縮こまる年上を気遣うが、彼は返事もしない。


「機人、質問に答えろ」



次の瞬間。あろうことかザンは抜刀し、切先をマインドの首元に向けた。



「ザンッ!!」

「口を挟むな、フレイ!!」


突然の修羅場に、マインドはただ呆けているだけだ。


「もう一度聞く。お前は何者だ」

「僕はマインド。一応……戦闘兵器?」

「違う。それはお前の名じゃない……!」


ザンは明らかに苛立っていた。おろおろするエーネを落ち着かせ、私は無言で成り行きを見守る。


「どこから来た? 目的は」

「出身は王都。今は、ピューレ・エーションの実験協力者、かな?」

「やはりあちら側なんだな。そもそも機械が何故話せる?」

「知能がプログラムされてるから。計算も得意」

「あの攻撃は!」

「【煌電破壊砲エレクトリック・マグナム】のこと? 格好良いでしょ」

「た、確かにカッコよかった……! マインドらしいし……」

「フレイ、また怒られますよ!」


彼の回答は要領を得ない。だが、はぐらかしている感じも無かった。


「……ザン、ちょっと大人げないよ」


私はやんわりと切り出した。


「私達……っていうか私がだけど、この子に助けられたんだよ? まずはお礼言うべきだと思う」

「お前は良いのかよ、フレイ……!」

「……それは」


良い、とは言えない。私にも聞きたいことはあった。


「機人。お前の行動には一貫性が無い。だからお前を信用しきれない」

「一貫性?」

「フレイを助けてくれたことは、感謝してる。だが────」


ザンは一度深呼吸し、切ない声で。



「お前はどうして、シュレッケンの市民達を見捨てた?」



その問いに、エーネもはっとして目を見開いた。


「その気になれば奴らと戦えたはずだ。フレイと他の人間との差は何だ」

「…………」

「お前は本当に……誰だ? フレイだから、助けたのか?」


最後の質問は、少しだけ涙声だった。



「その顔、俺は今でも夢に見る。お前は……『あいつ』なのか?」



永い時間を経て。

機人マインドはしずしずと口を開いた。


「僕は、生まれた時から機人。君が言う『あいつ』が誰か、わからない。でも、機人は()()()()()()()()()()()()()から」

「…………!!」

「ピューレは僕に執着していた。初対面の僕に、何度も感謝を述べて。僕も彼女のためになりたいと思った────けど」


彼は困惑に眉を傾けた。


「今朝、君達を見つけてさ。その考えが揺らいだ。どうしようもなく、君達を愛おしく感じた」


ザンは俯いている。事情を知らないエーネも真剣な面持ちだ。


「守らずにはいられなかった。フレイ、()()()()()()()()はずの、君を」

「わ、私は……」

「こんなの初めての事だ。だから僕も、教えてほしい」


マインドの造り物の瞳に、私とザンは本物を視ていた。



「君達は、どんな人間なの?」



三人で顔を見合わせる。代表として切り出したのは私だった。


「私達は、ただの村娘と……村息子? だよ。今まで辺境の村で、静かに生きてきたんだ」

「村息子はやめないか?」


けれどかつて、そんな私達の人生を大きく変えた少年がいた。



「マインド・ダイナ────私の、初恋の相手なんだ」



ついに言ってしまった。

口元を覆い、遠慮ゼロで私を凝視するエーネから、私は熱された顔を背ける。


「私達のお兄ちゃんだった。みんな、マインドが大好きで」

「…………」

「でも、たくさんの人を助けるために……死んじゃった。エーネが村に来たのは、マインドと入れ替わり」

「そう、だったんですね……」

「ねえ、マインド……覚えてないかな」


涙が溢れてくる。様々な思い出が蘇って、頭も胸もいっぱいになった。

もう、抑えられない。



「一緒に笑って、私の頭を撫でてくれたこと。覚えて……ない……っ?」



今だけは、使命も何もかも忘れて────私は泣いた。


幼馴染の前で恥ずかしいから、頑張って声は抑えたけれど。というか、何故か既に涙濡れのエーネに慰められている。


「ぐすっ……あれ、ザンも少し」

「俺は泣かない。考えている、だけだ」


また幾ばくか経ち、エーネが神妙に問うた。


「ぐすっ。その、マインドは……助けてくれるんですか?」

「え?」


それは私が、無意識に遠ざけていた問いだった。



「わたし達と一緒に、戦ってくれるんですか?」



機人の少年は目を細めた。銀の心の奥に残る、わずかな記憶に縋る────そんな私に。



「君達がそれを望むなら」



マインドは、とても人間らしい微笑みを見せた。


「!? なっ、何か変な感じがします……くすぐったいっていうか……」

「……エーネってさ、実は結構エロいことばっか考えてるでしょ?」

「ち、ちがっ……!? てかそういうのはフレイでしょ!?」

「わ、私は関係無いじゃん!」


こんな話をしている場合じゃない!


「ねえ、ザン。良いよね?」

「……お前が、そう望むなら」

「あははっ、何それ真似じゃん」


私はそっと手を差し伸べる。懐かしい顔で見上げてくる、愛しき人外へ。

趣ゼロの部屋だけれど、案外こんなものだろう。


きっと私は────この時を待ってたんだ。



「一緒に行こう、マインド。シュレッケンを解放しに!!」



『楽しみだね、フレイ。奴らを殺して、王になった自分を証明する時が』



耳元で囁く悪夢を、今だけは見て見ぬフリをした。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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を是非よろしくお願いします! 強いモチベーションに繋がります!!

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