5:煌電破壊砲
なりふり構わぬ渾身の不意打ちに、仲間達が唖然とする中。
直進する炎は、見事にピューレの体を穿つ。
(倒した……っ!)
弾ける火炎と共に、視界が金色に包まれた。確かな手応えに息を呑む私だったが、
「……これが、あなたの魔法か」
「────え」
「効かないよ。魔力で出来ていても、所詮炎は炎」
煙の中から、無傷のピューレが姿を現した。
(今、手で受け止めて……!?)
「攻撃の意思あり、だね」
「……っ、今更話し合いは無駄そうだな」
動揺を押し隠すように吐き捨てるザン。
ピューレ・エーションは、姉を想起させる嗜虐的な表情を浮かべた。
「安心して。一人残らず、息の根を止めるから」
ピューレは更に、懐から武器も取り出した。小型で持ち手のある、非常に殺傷力の高い代物だ。
言うまでもなく、それは私にとって因縁深い────
「け……拳銃!?」
「違う、これは『光銃』。スペックは比べ物にならない」
「二人共避けてっ!!」
エーネとザンも、形状から性質を察したらしい。
全員でかがむと、頭上を真っ白な光が尾を引いて通過した。
「どう? お姉ちゃんの『魔法』を使った光線は」
「……喰らえ!!」
瞬間、ザンが近くの研究器具を振りかぶり、カーブさせながら放り投げた。
「んぐっ!?」
不意を突かれ、胴部分に攻撃を浴びたピューレ。そのまま尻餅をつく。
「ナイス! 今なら……!」
「ダメだ、一旦逃げるぞ! あの武器で誰か死んだらどうする!」
「は、はあっ!?」
「ううっ、ご、ごめんなさいっっ!! わたしのせいでッ!!」
「い、いや私も名前言いかけちゃったから……!」
まさかのザンに制され、エーネはこの調子だ。
確かに魔法も防がれたし、こうなっては……!
そうして研究室から飛び出し、建物の裏庭に辿り着いた私達だが────
「ま、待ち伏せされてるーーーー!?」
花や装飾の美しい、憩いの場であったはずの庭園は。今や柵の代わりに、生気の無い市民達が周囲を囲んでいた。
「抵抗は無駄だよ」
追いついたピューレが再び光線を放った。避け切れず、光が私の頬を掠る。
「フレイっ!!」
「だ、大丈夫……!」
二人の叫びに何とか応える。私を庇うように立ったザンは、刀を抜いたまま怒号を放った。
「毒刃少女、目的は何だ!! 何故あの街を狙う!?」
「それは、お姉ちゃんに聞いて。あと、私達をここに送ったのはライウさんだし」
「えっ……!?」
ライウ。その単語に、エーネだけが強く反応した。
「エーネ、知ってるの!?」
「は、はい……間違いじゃなければ、ですが」
ごくりと唾を飲んだ彼女は、言葉を詰まらせながら。
「ライウ・テンメイ……雷の魔法を操る、この国の第一王子です!!」
「別にわたしは元王族とかじゃないですけど!」と、エーネが早口で続ける中。
唖然とした私達は、思わず動きを止めていた。
王族が────この街を襲わせたというのか?
「まあ、あなた達は知らなくて良い。ここで終わりだから」
ピューレが上空に手をかざす。マニーの遺伝子が組まれた薬は当然、妹とも共鳴し────
「さあみんな。敵を血祭りにあげて」
「【炎の防壁】!!」
全方位からの攻撃を、ザンが器用に捌いてくれる。隙を見て、私はいつぞやのように三人を囲む炎を展開した。
これで安全かと思われたが────
「ちょ、ちょっと!? 何か壁越しに殴られてない!?」
「え!? や、火傷とかしたりは……」
「するに決まってるでしょ、これ火の塊だよ!!」
私達は一斉に青ざめた。耳を澄ませば、肉の焦げる音が聞こえてくるのだ。
「当たり前だよ」
ピューレはさも当然のように、機械的に話した。
「命令は絶対。意思の無い彼らに、止まることはできない。その肉体が朽ちるまでね」
「う、嘘だろ!?」
このままでは市民が死んでしまう。だが、防壁を解除すれば私達は……!
「絶対、誰も傷つけたりしない……!」
「え、エーネ?」
「フレイ! ば、バリアを解除してくださいっ!!」
銀髪の少女は体を震わせながら、淡い光を身に纏った。
「今回はっ、一味違いますっ!!」
考えるまでも無かった。幼馴染を信じた私は、魔法の行使を取りやめる。
再び日光を浴びた瞬間、周囲に数多の水流が出現した。しかし以前と異なり、市民達を押し流すような危険なものではない。
此度の水は上に向かって伸び、巨大な水柱を形成していた。直接害は無いが、分厚い水を突き進むのはそもそも困難である。
「ナイスっ! こ、これなら────」
「まさか、魔法使いが二人もいるなんてね」
しかし、彼女の決意を嘲笑うかのように。
魔法に巻き込まれながらも、ピューレは何食わぬ顔で棒立ちしていた。
「でも、『魔力遮断装置』の前では、無意味」
「や、やっぱり効かない……!?」
「それに、お姉ちゃんには装置も必要ない。【光の使い手】マニー・エーション……魔力持ち同士は、互いに干渉できないから」
「!!」
「まあ、炎は怖いから……一応、火避けの薬塗ったけど」
淡々と語りながら、ピューレは私の眉間に狙いを定める。
噴射で離脱しようにも、すぐには集中できない。二人の助けも間に合わないだろう。
まずい、今度こそ────!
「お別れだね」
「フレイーーーーっっ!!」
仲間の悲鳴をよそに、科学者は再び嗜虐的な笑みを浮かべた。
死を身近に感じた瞬間、古の記憶が思い起こされる。
────『い、いやだよ……行かないでっ!!』
────『ごめんね、フレイ、ザン。誰かがやらなきゃならないんだ』
────『ほ、ほかの人でも良いだろ! おれに剣を教える約束だって……!』
決して忘れられない、出立の時。最後まで少年は笑顔だった。
────『みんなが僕の助けを求めてる。わかるんだよ、今が戦う時だと』
私も後悔は無い。大好きな彼のように、信念のために戦ったのだから。
敵は殺せなかったけれど。大好きな幼馴染を残していなくなってしまう────その事実が、心の底から申し訳ないけれど。
あの人に褒めてもらえれば。少しだけでも、私は……
「私……頑張ったよ。マイン────」
「ピンチみたいだね?」
落命の数舜前。遥か頭上から、濁った声が聞こえた。
全く違う声質のはずなのに。それは、在りし日と変わらぬように思えて。
「助けが必要かい?」
「……う、嘘……だ……」
「【煌電破壊砲】」
視界を極太の光線が通過した。宙を穿つ一撃が、文字通り光の速さでピューレの銃を粉砕する。
愕然とする彼女をよそに────
実験体『CODE704」は、涼しい顔で仁王立ちしていた。
「な、なん…………で……」
あの声を、眼差しを。私は一生忘れないだろう。
「マイン、ド……?」
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