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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!【毎日投稿】  作者: 今江彰人
第2部 【銀の心の救世主】

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20/29

4:無毒な妹

「行ったか」

「いや行ってないです。後続が……」

「あー、もうっ!!」


死都となった街で繰り広げられる、無慈悲なステルスゲーム。

壁際に身を潜めながら、私は悪態をついた。


「いくらなんでも多すぎるって!!」


建物の外にも中にも、洗脳された市民が無数にいる。熱気の有無を除けば、ビートグラウズの喧騒にも劣らないだろう。


私達の現在地は、街の市役所。この辺りでマニーを見失ったのだった。


「そもそも彼らは、侵入者を識別できるのか?」

「うーん……でも、一応見張ってはいますよね?」

「ひとまず、無事な人間はいなそうか」


無事な人間と言えば……


「この街の元々のリーダーって誰だっけ。行方不明なんだよね?」

「ゼノイさんから聞いただろ。名前は────」

「フレイ、グッドタイミングです」


エーネに袖を引っ張られる。


「あそこの壁にあるの、肖像画じゃないかな?」


近づくと、それは確かに肖像画だった。目つきの鋭い金髪の女性の下に、達筆な字で肩書が書かれている。


「『女帝』レイティ・ロベイン。すごいあだ名……」

「四十歳くらいですか? かっこいい人ですね」

「お、シュレッケンの異種格闘技大会で優勝してるらしい。しかも三年連続」

「……何で市長って強豪揃いなの? 話が違うんだけど」


そこで、数人の足音が聞こえてくる。すぐにこの場を離れなければ────


「……ん?」


と、私は触れた肖像画に違和感を覚えた。奥から振動が伝わってきている。


まさか────まさかっ!!


「ね、わかる?」

「た、確かに揺れてます……!」

「昔読んだことある……こういうのって、裏側の仕掛けを押したり、壊したりすると通路が開くんだよ!」

「見た所仕掛けは無いが────」

「私、ご都合な能力だけじゃなくて、ご都合な運まで手に入れたんだ……!」


私は既に有頂天だった。遠く思えたあの女が、すぐ近くに感じられる。


仕掛けが無いなら、破壊するまで。


「もう待ってられないよ! 今度こそやるんだ、私の敵を!!」

「おい────!」

「で、でもさっさと倒したいのは賛成ですっ……!」

「エーネ!?」


「【静謐の炎よ(サイレント・フレイム)】!」


物静かに放たれた蒼炎は、瞬く間に肖像画を焦がした。同時に壁の一部も削り取られ、奥に通路が現れる。

さらば、声も知らぬ市長の絵よ。生きているなら必ず救うから。


「やったっ!!」

「警戒心は無いのか、お前……!」

「お化け以外なら平気!」


動くものしか認識されないと信じ、壊した壁は放置だ。

臨戦態勢で突入する私達を待ち受けていたのは────


「……誰もいない?」

「フレイが言ってたの、これかな?」


そこは薄暗い部屋だった。

まず目に付いたのは、身の丈を超える巨大なカプセルだ。唸り声のような音を立てながら、得体のしれない紫の液体を泡立てている。


「結果的にはビンゴ……恐らく、研究室だ」


確かに、頭の痛くなるような書類の山が散見されるし、大事そうに保管された容器群もある。ここが敵の根城の一つであることは疑いようも無かった。


「こ、このカプセル? の液体をばら撒いてたってこと?」

『うーん、厳密に言えば、これは試作品です。新研究所にある失敗作……その更に前段階の』

「え、どっかに書いてあった?」

『報告書ですか? 私が管理してますが……』


ん? 先ほどから会話が噛み合わないっていないような……


「エーネ、元々変わった喋り方だけど、今日はいつにも増して────」


ゆるやかに首を横にやると、幼馴染は既に半泣きだった。もう何度目かの、この世の終わりのような顔だ。


「え……今のって、エーネの声じゃ……」

「ふ、フレイ。後ろだ」


珍しくザンも震え声だった。私は時間差で、言葉の意味を理解する。


「……せーのっ」


何となくリズムを取り、一斉に振り返ると、そこには。



『あ、おはようございます。結構良い天気ですね』



()()()()()()()()()、尋常ではない何かがいた。



「びゃああああっ!?」

『うえええええっ!?』


絶叫する私とエーネ。それに驚き、これまた甲高い声でひっくり返る相手。


「バカ! でかい声出すな!!」

「だ、だって、ついに、お、お化けがっ……!!」

「あああああっ!! 終わり! もう終わりですーーーーっ!!」

「そしてお前は諦めが早い!!」


『あの、ごめんなさい。起こしてほしいです』


不毛な言い合いは、仰向けに倒れ伏した甲冑に中断された。

女性の声だ。それも、物凄く聞き覚えがある。


助けられた彼女が甲冑を脱ぎ捨てると、無造作に伸びた薄紫色の髪が露わになった。姉とお揃いの白衣に、あまり似ていない眠たげな瞳────


毒刃少女(ポイズン・ガールズ)の、ピューレ……!!」


「ふぅ……侵入者を感知したのに、なーんだ。優しい子達ばっか」


既に構えている私達とは対照的に、ピューレはとても落ち着いていた。


「あの仕掛けを見破るなんて。でも感知システムを、甘く見ちゃダメですよ」

「ッ……!」

「それで、どうして侵入を?」


もう良い。こうなってはどの道手遅れなのだ。


「好奇心かな!! 私達、科学者? 志望で!」

「なるほどー。実は私、科学者なんです」


ヤケクソに言い放った私に、ピューレはへらっと屈託なく笑う。


……あれ?


「私、ピューレ・エーションです。皆さんは?」

「!? ふ……フローラ……ディアンナ、です」

「……ゼン・サイラスだ」


和やかな自己紹介が始まってしまった。敵だと気付かれてないのか?


「そっちのお嬢さんは?」

「えっ!? あ、えと、エ……そ、ソフィネア? 苗字はモイ、モリ────モイスチャーですっ!」

「ふむふむ……聞き覚えがある気もしますが、とにかくよろしくです」

「今ので怪しまれないのすごいな」


しかも苗字はほぼ一緒である。流石に恥ずかしかったのか、エーネは赤くなって俯いていた。


「あの、ここって何の部屋なんですか?」

「私の元研究室です。人間を操る薬と……実験体『CODE:704』を研究していました」


そして私達は知った。


実験体の正体は、王都で運用される軍事人型兵器、【機人】であるということを。


────『下手人は、強靭な軍事兵器を扱うとも聞く』


いつかのグレイザーの言葉が脳裏に蘇る。


「機人は、人間の十倍強いんです。意思があるので、こっちも操れたらなと」

「え、できるんですか?」

「いいえ。でも、もうお姉ちゃん、侵攻を始めるから。研究は打ち止め」


ピューレはクスクス笑いながら、



「すごく楽しみなんです。お姉ちゃんが、本懐を遂げる日が」



心の底から楽しそうに言ってのけたのだった。


なんて純粋な笑顔なんだろう。マニーとは違い、ただ無邪気で……しかし同じく邪悪だ。


「その、洗脳ってどうやって維持してるんですか? たまに解除したりとかは……」


ここでエーネが口を開いた。ナイス質問だ。


私達の目的は、敵の無力化及び、市民の洗脳解除。

事が成せれば、私がある方法でエルド達に合図を送る。それに伴い、ハンガーズ(飢えた群衆)が街に乗り込む手筈だ。


確実に勝つため、今は少しでも情報が欲しい。


「あの薬には、お姉ちゃんの遺伝子を組み込んでます。なのでお姉ちゃんと彼の脳とは、()()()()()()。コントロールも、一苦労みたいです」

「の、脳ってそういう仕組みだっけ……?」

「詳しい仕組みは、説明しても難しいでしょう」


ピューレは微笑んでから顎を引いた。


「解除も、お姉ちゃん次第です。そう願うか……お姉ちゃんの脳の機能を一時的に弱めるような、『物理的な要因』が生まれるとか」


これだ……!


私は思わず拳を握る。具体的な洗脳法など、疑問はまだあるが、今は良い。


「ピューレさん、ありがとう。参考になったよ!」

「いえいえ。次は壁を壊さず、直接訪ねてくださいね」


愛想笑いを浮かべて踵を返す。

このまま、密かにマニーを襲撃しにいけば────!


「あ、足元に瓦礫が。フレイ、気を付けてください」

「おっとっと。ありがとうエ────」

「おい!!」


「…………え?」


文字通り、背筋が凍り付いた気がした。

恐る恐る振り向くと、ピューレ・エーションのゆるふわな表情は抜け落ちている。


「フローラさんでは、なかったのですか?」

「あっ、あだ名です! ちょっと無理あるかもだけど気に入ってて────」

「……聞き覚えがあるんです。それも、最近のこと」


彼女に瞳に、毒が宿る。


「やっぱり私、浅はかですね」

「……!!」

「本当の目的は? そういえば、炎も検知された……やっぱり魔法によるもの?」


どうやら、今度こそ終わりらしい。


ああ、まさかこんなに早く……



「あなた、フレイング・ダイナ。『彼』と同じ苗字の────」



「【火炎鉄砲(フレイム・バレット)】!!」



直接、悪を討てるなんて!!

★読んでくれた皆様へのお願い★


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