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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!【毎日投稿】  作者: 今江彰人
第2部 【銀の心の救世主】

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3:退く道は無い

数多の被害者を尾行し、私達は街の中枢に辿り着いた。

ビートグラウズと違い、白いレンガ造りの建物が連なっている。オフィス街というやつだろうか。


「大丈夫だエーネ。すぐ戦いにはならない」

「う、うん……」


先ほどからエーネの精神状態が少し心配だ。

緊張というより、何か根源的な恐怖に怯えているような……


(エーネ、もう少しだけ耐えて。きっとグレイザーが……)


やがて市民達は奥行きのある建物に入っていった。そのまま巨大な地下ホールに出る。

講演場より頼りない、仄暗い照明の中でも……最奥に佇む『奴』は良く見えた。


(あぁ……)


私は心で嘆息する。


(あそこに立つのが、グレイザーだったらって……心から思うよ)



「ボーイズ・エン・ガァールズ!!」



それは、この世の全てを足蹴にするような声だった。



「みんな、調子はどう? 毒刃少女(ポイズン・ガールズ)の長官、マニー・エーションよ!!」



薄紫色の巻髪を肩まで垂らし、紅い瞳を煌々と輝かせる女。端正な顔立ちと、白衣越しでも妖艶なスタイルは、人々の視線を釘付けにする。

その魅力を帳消しにする恐怖の科学者は、満面の笑みで奴隷に語り掛けた。


「反応無しは悲しいわねぇ……ほら、ちゃんとあたしを讃えて?」


市民達が規則的に手を叩き始めた。意思もなく、ただ命じられるままに。

これだけ会場が揺れているのに────講演場と違い、一切の熱気を感じない。


「うっ、き、気持ち悪いです……!」

「フレイ、わかってるよな」

「……うん」


私もわきまえている。市民が大勢いる中、不意打ちはリスクが甚大だ。


「集まってもらったのは、他でもない。ついに準備が整ったからよ」


「どうせ聞こえないけど」とうそぶいて、彼女は口元を歪めた。


ハンガーズ(飢えた群衆)。あの軍の人口を、ついにこちらの主力が上回ったわ」

「!!」 

「ようやく屈服させられる。群都市と、あの忌々しい守護者とやらをね!!」


マニーの口ぶりで、重大な事実が判明した。

まず、本当にもう猶予はないということ。そしてグレイザーは恐らく、未だ敵に接触できていない。


「恐怖は平等なもの……愛と同じように! 奴の真似事の演説も、じきにあたしだけのものよ! ね? シュレッケンと、有象無象の村のみんな!!」


奴隷に私語は許されない。思考があるかも不明だ

確かなのは、誰も心から彼女に従ってはいないということだけ。


「安心したよ……ちゃんと、極悪人じゃん」


マニー・エーションは楽しんでいる。無意味な集会を開き、物言わぬ駒を支配する感覚を。


愚かの極みだ。心身共に屈服させてこそ『偉大な存在』なのに。


「二人共、奴の後をつけるぞ。研究所的なのがあるはずだ」


私達はすぐに動き出せる態勢を取る。しかし演説は、思わぬ形で続きが始まった。


『……お姉ちゃん。お姉ちゃん』


どこからか気怠げな声が届く。通信の音声だ。


「……なぁにピューレ。気持ちよくなってた所なのに」

『新たに情報、入った。あの男……守護者グレイザーについて』


エーネがはっと息を呑んだ。私も心臓が高鳴る。

グレイザー、ついにアクションを────!



『行方不明。グレイザーはどこにもいない。群都市にも、この街にも』


「…………は?」



最奥のマニーと私達の声が重なった。


『まず少し前、襲撃されたっぽい。敵は魔法使い。橙色の髪の、炎の少女』

「へぇ……!」


マニーの声色に陰が混じる。髪に隠れて瞳は見えなかった。


()()()()()()()()()ってわけね……ふふっ、縁を感じるわ」

『ノーブルタワーが破壊されてる。でも彼の死亡は、確認できない』


何だろう、この胸のざわめきは。大変な何かが起こっている気がしてならなかった。

大丈夫、きっと彼は隠れているだけで……


『恐らく彼は街を出て、ここに向かった。でも昨日、実験体にさせた生態調査では反応無し。だから多分、また襲撃された』

「またって何よ。その魔法使いに?」


『違う────『奴』に。お姉ちゃん、私達、関わらない方が良い……』


聞き終えたマニーが舌なめずりした。含み笑いはやがて、高笑いへ。


「くくく……あはっははは!! そう、あの男も焼きが回ったってわけ!」

『うん』

「最高よピューレ! 良い情報を持ってきてくれたわね! でも、そういう事はもっと早く言いなさいよ!」

『ごめん、めんどくて』


私はせり上がる激情を必死に堪えていた。ザンも驚愕に額を押さえており、エーネは────


「えっ、エーネ!?」


「はあ、っ、はあっ……ち、違っ、()()()は、あいつ、は……!!」


エディネア・モイスティは、汗だくで顔面蒼白になりながら。


未だかつてないほど、怯えていた。


「違う……違う違う違うっっ……! ぐ、グレイザーは、負けたりしない、あいつは、ここにはいない────ッ!!」

「エーネ、落ち着け!!」

「ほ、ほら、深呼吸してっ……」


全身に脂汗を浮かべ、口の端から涎を垂らしてえずくエーネ。

目の焦点が合っていない。一体何が視えている?


「フレイ、む、村に帰ろうっ、今すぐ発つんです! 孤児院のご飯が食べたいっ。あそこなら、あ、安全で……!」

「シュレッケンを見捨てるの!? あ、安心してエーネ、私、絶対エーネを守るから! 敵は必ず殺すから────」

「うううううっ……!!」


エーネは今にも叫び出しそうだった。強く抱き留めても意味をなさず、私も平静を失いかけたその時。


「あっ……」


ザンが彼女の首を手刀で叩いた。糸が切れたように、幼馴染は私の腕の中で脱力する。


「!! ご、ごめんザン……嫌なことさせて」

「参ったな……何が、どうなってるんだ」


事態が落ち着くと、再び敵の会話が耳に入ってきた。


『あ、もう一個報告。今朝、逃げられた。実験体────『CODE:704』に』

「はぁ!? またぁ!?」


マニーがわかりやすく激昂した。


『探させて。何か、情報は無い?』

「……そういえば今朝、何かが宿の窓に貼り付いてって目撃情報があったわ」

『お姉ちゃんの、あんぽんたん。放置しないで』

「あんぽんはあんただ! 脳波の管理は楽じゃないの!」


鼻を鳴らしたマニーが踵を返すと、市民達が一斉に動き出した。

所詮は操り人形、演説の終わりには趣も何もない。


「や、やばい、こっち来るよ!」


エーネを連れて、いち早く物陰に移動する。

やがてホールは無人になった。もう一人の仲間も通信を終えたようだ。


「『実験体』って……さっきのあの子で間違いないよね」

「ああ。『CODE:704』────管理のための番号か?」

「考えたくないけど、その、元人間だったりとかは……」


ありえない、とは言いきれない。あの女達ならやりかねないだろう。


「エーネ、顔色は良くなってるね」


私は膝枕をした幼馴染に視線を落とした。昔は私が頼んで、してもらったこともあったっけ。

安らかな寝顔を眺めつつ、首筋を撫でる。べったりした感触は、彼女の不安を物語っていた。


「痣になったりしないよな……?」

「きっと大丈夫だよ」


協力者グレイザーの失踪。それを知ると、彼女は信じ難い動揺を見せた。あれは「怖がり」で説明できない。もっと根源的な恐怖だ。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私達の知らない、何かを。



「……フレイ。確かに俺達の行動で、多くの人間が救われる」


ザンの言葉は、岩のような重みを帯びていた。


「だが、もうこいつのあんな姿は見たくない。仲間を危険に晒してまで、俺は……!」


焦燥、不安、罪悪感。


(……残念だけど、もう)


私はその段階を、とっくに通り過ぎてしまった。


「ザン、私に退く道は無いよ。敵はこの手で倒す。たとえエーネが────」


「それで、いいんです……っ」


下方から弱々しい声が届く。エーネが薄目を開けて微笑んでいた。


「エーネ、大丈夫なの!?」

「うん……み、見苦しい所見せてごめんなさい」


緩慢な動作で起き上がり、恥ずかしそうに目と口元を拭うエーネ。


「ちゃんと頑張ります。二人に恩返しするって……誓ったから」

「エーネ、無理をするな。酷い顔色だ」

「え、えへへ……恥ずかしいから、あんま見ないでください」

「お前、何を抱えてるんだ」


エーネは照れ笑いを浮かべたまま、答えない。見ないでほしいと言われた手前、ザンもそれ以上追及できず、ただ目を伏せた。


「……方針は決まったね」


付き纏う「躊躇」の風を払うように、私は立ち上がった。


「マニーを追うよ。まだ遠くへは行ってないはず」


何故グレイザーにとどめを刺せなかったのか、少しわかった気がした。

結局、私は怖かったのだ。二人に軽蔑される可能性を捨てきれなかった。


だが今回は違う。毒刃少女(ポイズン・ガールズ)はまごうことなき悪で、私達は正義。

だから何だってできる。どんな手段を取っても許される。



収めてみせよう。二つの街を、この手に。



マインド……どうか。どんな犠牲も厭わない強さを、私にください。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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