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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!【毎日投稿】  作者: 今江彰人
第1部 【偉大なるキラー・ガール】

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15/29

15:群都市の『王』

「パパ、見てー? 星が落ちてる」


部屋の窓から身を乗り出し、幼い少女が声を上げる。

無垢な指の先には、終末を告げる炎の雨が。


「……あぁ……」

「パパ?」


呆然と空を見上げていた男は、娘を抱きながら祈った。



「守護者よ……」



********



「…………」


満点の星空の下、守護者グレイザー仰向けに倒れていた。

風の悪戯か────むせ返るような黒煙が立ち込める中、自分の真上だけが美しい空を保っている。


グレイザーは生きていた。無論、体中が火傷と裂傷で痛み、立つこともままならないが。

血の味、煙の匂い、懐かしい星空……その全てを認識できる。


「あああっっ、っと、とまんなっ、ふんんっっっ……!!」


と、情けない声が天から降ってきた。

自由落下を続けていた魔法使いは、片腕だけの噴射でバランスを取り、グレイザーをクッションにして着地する。


「いったっ……あ、グレイザー」

「…………」

「お、降りる時のこと考えてなくて……ごめんね?」


流石にあの攻撃は負担が大きいのだろう。覇気が薄れたその様は、少しだけ普通の少女に近い。


「……あの火焔は、文字通り全てを破壊するものだった」

「え?」

「だがタワーは、こうして原型を保っている」


静かに切り出したグレイザーの声は、困惑に満ちていた。



「一体何故、オレを」



意図はすぐに伝わったらしい。

先ほどまで少女だった者は、ゆるやかに口角を上げた。


「こうして、近くでとどめを刺すためだって言ったら?」

「!!」


「フレイーーーーっっ!!」


続いて、剣呑な空気を打ち破る甲高い声が響く。

記憶に焼き付いて離れない、あの銀髪の少女だ。


「フレイ、無事ですか!? 早く返事してっ!!」

「応えろ、フレイ! まさかお前が死ぬなんてことないよな!?」

「グレイザー! そこにいるんだろう!?」

「二人とも、大丈夫かね……!?」


続々と届く呼びかけに安堵しながら、


「大丈夫だよ、みんな! 二人共生きてるっ!」


私────フレイング・ダイナは努めて明るく応えた。


「まさか、仲間を想い迷ったわけでもあるまい」

「ふふっ、そりゃそうだよ。実際ずっと殺すつもりだった」


嘘じゃない。だって今も……私の脳内で、しきりに声がするのだ。


『フレイ、どうしたの。殺さなきゃ』

「…………」

『殺すんだよ、フレイ。約束したじゃないか。約束を。約束を────!』


「でもね、思い出したんだ」


小さく被りを振って、私は耳元の『彼』を払った。


「作戦前に、ゼノイさんに聞いたこと。グレイザーを殺してもいいのかって」


────『君達に……全てを委ねるよ』


「大人も、あんなに堂々と自分を偽るんだね」


多くの敵を生み出したグレイザー。しかし、最も手酷く追い落とされた者は、心から彼が生きることを願っていた。

エルドを始めとする信奉者達ではない。愛憎が入り混じったゼノイの願いだからこそ……私は。


「もちろん、報いは受けてもらうよ」

「何……?」

「私達を見捨てたこと。私を差し置いてシュレッケンに攻め込もうとしたこと。ゼノイさん達を裏切って……リアンさんの想いを踏みにじったこと」


ああ。やっぱり私、ダメだなぁ……

思えば野盗を殺す際、エーネとザンが割り込んできた時も。心の奥では……



()()()()()()()、なんて。



「想いを、踏みにじる?」


体を起こしたグレイザーは、疑念に満ちた瞳で私を射抜いていた。


「もう一度聞くが、お前、我が身を省みて────」

「黙って」


威圧するように遮り、私は立ち上がる。

別にどうということはない。新たな群都市の長は誰だ? エルドはおろか、ゼノイに渡すつもりも毛頭無かった。


そう、私こそが。このフレイング・ダイナがついに……!


「改めて、勝負はついたね。守護者グレイザー!! 」


炎の残滓を纏った私は、満面の笑みで言い放った。



「今日から私がこの街の王!! 最強の魔法使いに────偉大なる世を創るこの私に! 全てを委ねて!!」



下方から仲間達の息遣いが聞こえる。切ない瞳で星空を仰ぐ為政者達の、涙ぐむ音も。


「……誰が支配者になろうと、現状の打開は容易じゃねェ」

「分かってるよ。守らなきゃいけないからね、これからは」


多くの関係者に見守られながら、ビートグラウズの頂で────


私はかつての敵に、そっと手を差し出した。



毒刃少女(王の敵)は、この手で倒す。だからグレイザー、私のために動いて!!」



次は、やってみせるから。



だから、マインド。そんな目で私を見ないで?



********



決戦から一日。敵味方を交えた、あまりにも濃密な会議を経て。


「……もうすぐか」


ようやく腰を落ち着けたグレイザーは、沈みかけの夕日を眺めていた。


今夜はエルドに呼び出されている。いつまでも怪我の心配をしてくるモイスティに阻まれ、政務の引継ぎが滞っているというのに、だ。仲間以外にもあの慈悲深さは発揮されるらしい。


街を歩くと、すぐに変化を実感した。揉め事を抑えるべく発布した戒厳令は、もう必要無い。夕暮れでも人混みは増すばかりだ。

ただ、頂上が崩壊したはずのノーブルタワーは、依然シンボルとしての役目を果たしている。


「ん?」


と、道すがら一軒の店が目についた。


(リアンのパン屋、か)


彼女が亡くなった日、このパン屋の時も止まった。悲しみに暮れた両親は店を続けられなくなり、現在は別の仕事をしていると聞く。


そのはずだったが────


「あれ、あんたはグレイザー? 久しぶりだね」


ばったりとリアンの母に出くわした。手には看板を持っている。

「まさか」という思いとは裏腹に、口をついで別の言葉が出た。


「オレはよく演説をしていたはずだが、一度も観たことがないのか」

「そりゃあうちは基本的に政治に興味ないし。あの子もそうだったろう?」


出会いのきっかけはそんなだったか。

もう戻らない、人生が楽しいと思えたわずかな時間……


「でもあたしらも良い加減、前を向こうと思ってね」


リアンの母は重そうにしていた看板を置く。向きが変わり、内容が見えた。



《リアンブレッド、開店!! 復活記念セール開催中!》



「……何て名だ」

「良いでしょ? あの子との思い出を胸に、新しい門出を迎えるのさ」


本人が見たらどう思うやら。まあ看板娘だったし耐性はあるかもしれない。

グレイザーは口元を緩め、婦人に背を向けた。


「もう行くのかい?」

「あァ、呼び出しがかかっているからな」

「そうかね。明日から開店だから、気が向いたら来なよ!」


振り返りはしない。ただ少しだけ立ち止まり、小声で。



「事が片付いたら、必ず行く」



********



指定された場所は、ノーブルタワーの講演場前だった。

内部は何故か明かりが付いており、多くの人間の気配を感じる。それも、何かを待ち構えるように息を潜めているらしい。


「今更何故ここに……」

「来たかね、グレイザー」


斜め後方から耳障りな声がした。

人はこの男を精悍だと表現するが、自分から見たら十分に老人だ。


「ゼノイ、何の用だ」

「随分なご挨拶じゃないか。父親代わりに向かって」

「ハッ」


鼻で笑って見せる。


「悪いが、恨み言を聞いている暇はねェ。この後も仕事が山積みだ」

「ふむ、ではまたの機会にしよう。だが────」


ゼノイは少しだけ目尻の皺を深めた。


「何だか、憑き物が落ちたような顔だね」


無言で突き進むグレイザーに呼応するように、講演場の扉が開かれる。

待ち受けていたのは────



「グレイザーさん、ようこそおいでくださいました!!」



若者らしく、豪華絢爛に装飾された場内にて。

千をゆうに超えるハンガーズ(飢えた群衆)が、一斉に声を合わせた。そこかしこで破裂音と口笛が鳴っている。


「一昨日流れたパーティの仕切り直しだ。皆、この時を待ち侘びていたよ」


返事をする間も無く、グレイザーは取り囲まれた。


「グレイザーさん! 怠惰だった私を救い上げてくれてありがとうございます! 生まれ変わった気持ちで働いてます!」

「俺も感謝してるぜ、グレイザー! リーダーが変わっても、あんたは永遠にヒーローだ!」

「いつも街に尽くしてくれるあなたに、今日はめいいっぱい楽しんでほしいです! 明日からの留守は任せてくださいっ!」


言葉にできぬ感情に包まれ、グレイザーはしばらく動けなかった。

入り口付近に立つ相棒が、苦笑いをしながら近づいてくる。


「珍しいね、キミがそんな表情をするなんて」

「エルド……」

「これは、君が培ってきたものだ。そう簡単に壊れるものか」


無論、『壊す選択肢』はあの女の方にあったけれど。


ただ、そうか。これがきっと、あいつの目指した────


「ははっ」


静かに笑って、ビートグラウズの守護者は独りごちた。



「悪くねェな、こういうのも」



ふと部屋の隅に、リアンの影を見る。



堂々とした彼女の笑顔は、あの時と変わらず────星の瞬きよりも、眩しかった。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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