14:あの日見た星
「!? みんな、あれを!!」
「んぅ……何ですか、ザン? 珍しい鳥でもいたの?」
「そんなわけあるか! 上だ!!」
先ほどまで、真っ黒な天井に覆われていた上部。
それが今では徐々に開いていき、完全に空を一望できる状態となっていた。
「あ、ああっ!? グレイザー!! グレイザーが端に立ってます!」
「どういうことだ!? ダイナ嬢は!」
一行は予想外の事態に驚愕していた。
守護者グレイザーは、足場の残った頂上の端部分に仁王立ちしている。一方で、肝心の少女の姿はどこにも見つけられない。
たった一人、真実を知る者を除いて。
「上だ。フレイング・ダイナは……空にいる」
エルドの言葉を皮切りに、四方の壁から無数の金属が飛び出してきた。
それはまるで、巨大な針のような様相で。全てが上に向けて伸びていく。
「な、なっ!?」
「仕留める気だ……」
再び天への道が閉ざされる中、エルドは呆然としながら言い放った。
「グレイザーは、落ちてくる彼女を……音速で放たれるこの大針で、串刺しにする気だっ!!」
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「ははッッ、ハーッハッハッッ!!!」
はるか上空にて、私は響き渡る高笑いを聞いていた。
機器があるとはいえ、人間を塵のように吹き飛ばす蹴り。防壁が無ければただでは済まなかっただろう。
もっとも、今の状況が無事と言えるかは人によるだろうけれど。
「ここまでだな、フレイング・ダイナ! 見るが良い、この絶望的な破壊兵器を!」
一切容赦の無い無数の大針。その全てが、私を穿つべく真下で構えられている。
「あれが全部、空に……!」
「片腕では、噴射によるカバーも不可能……勝負は決した!!」
唯一の安全地帯は、彼の立つ場所だ。しかし辿り着くには、文字通り針の穴を縫う回避が必要である。
「案ずるな、お前らの村に手は出さねェと約束してやる! さあ、言い残すことはあるか?」
「…………」
まさに絶体絶命。
そう────彼は信じているだろうけれど。
「強いていうなら、ありがとう……かな?」
その声は、何の因果か風に乗り、はるか下方にまで届く。
「ザン、これって……」
「ああ……!」
ついに訪れた終わりの始まりに、少年少女は確信していた。
この戦いの後、人々は言うだろう。少女フレイこそが、世界の王だと。
「ふふっ、ふふふふ」
「な、何だ……!?」
妨げられない自分だけの世界で、私は無傷の左手を掲げる。
次々と飛び出す火焔。今までのお遊びとは異なる、圧倒的な物量と熱量。
散らばった炎はやがて、個々の塊と成り果てた。世界の終末と錯覚するような規模の、無数の隕石が……群都市の空を覆い尽くす。
「……馬鹿、な。まさか、あの噴射はわざと……」
「勝ったと思った? この私に」
上昇気流に乗り、静かに落下しながら。
私は満面の笑みで感謝を述べる。
「ありがとうね、手助けしてくれてっ! 何の邪魔も入らないこの場所なら……生まれて初めて、この技を試せる」
呆然とするグレイザーの瞳に、全てを打ち砕く鮮やかな炎が映る。
たとえ片手だろうと……人知を超えた死の雨は、狂いなく敵を焼き尽くすだろう。
────『二人とも、見て! 今宵も星が綺麗!』
それはまるで、いつかの光景のように。言いようも無く輝いていた。
********
「あいつの力は、エーネとは異なります。遠隔で発動できず、集中力が必要で、長時間の噴射は負担がかかって案外不便ですが……」
「でも一つ……そんな欠点、跳ね返す長所があるんです」
それはごく単純で、エディネア・モイスティが到底及ばないものだった。
「絶対に尽きない、無限みたいに思える魔力の量。その気になったら、フレイはきっと────世界だって破壊できます」
青ざめたエーネの言葉に、氷の如く冷え込んだ空気。
「それは、つまり」
「……はい。そういうことです」
次の瞬間、全てを察した元市長の怒号が飛んだ。
「全員、この場から退避だ!! エルド、市民への避難勧告を!」
「こ、ここからでは無理です!!」
「あああああッ!! 終わりっ、もう終わりです!! ザン、わたしは焼かれるくらいなら飛び降りるっ! お墓は絶対、故郷じゃなくて村に作ってください!!」
「正気に戻れエーネ!! てかお前の故郷どこだよ!?」
「あはははははっ!! あははははははははッッ!!」
「ッ、っっ……!!」
「終わりだよ……群都市はもう終わりだよッ!!」
視界に映るは、天使か悪魔か。人智を超えた一人の少女。
それでも彼は、守護者であるが故に。
「負けて堪るかッ……この街を────あいつが愛した世界を! オレは!!」
群都市の王が腕を振るう。地響きと共に、命を奪う兵器が作動する。
「その地位も、その力も! 全部全部ッ!! 私のものだ!!!」
「くたばれッ…………フレイング・ダイナーーーーァァァ!!!」
一人の少女を葬るべく、ノーブルタワーがその全てを吐き出した。
「【無限の焔よ────」
隕石が落ちる。築き上げてきたものが、音を立てて崩れ去る。
(……すまねェ)
わかっていたのかもしれない。いずれ、この時が来ると。
────『グレイザー、あたし……信じてるから』
「リアン、俺は────────!!」
「────────星を穿て】!!!!!」
開戦前夜。ビートグラウズの空に、星が瞬くその日。
炎の流星群は、襲い来る無数の大針を飲み込み……
群都市の頂を、葬り去った。
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