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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!  作者: 今江彰人
第1部 【偉大なるキラー・ガール】

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13/32

13:終幕へ向けて

風と黒煙が吹き荒れる、群都市のはるか上空。

雨よりも重たい重力が、二人を下界に吸い込んでいく。


「くっ……! エルド!!」


間一髪、崖にしがみついたザンは、反射的に片手を伸ばした。手首を掴まれたエルディード・レオンズは、驚愕に目を見開く。


「ザン・セイヴィア、な、何を!?」

「っ、爆風で背中が……! 長くは保たない、自力で俺の体を登れ!」

「何故ボクを助ける!? 今しがた自爆したのに!」


それは、ザンにとって酷く当たり前のことだった。


「俺は絶対に、目の前で誰かを死なせたりはしないっ!!」


とはいえ、手負いの身で二人を支えるのは不可能に近い。

徐々にずり下がっていく体。下層の人間はもちろん、建造物ですら豆粒程度の大きさだ。


「すまない……ボクは」


罪悪感を浮き彫りにしたエルドが、自ら手を離そうとした瞬間。


「ザンっ!!」


誰かが、上からザンの腕を掴んだ。



「えっ……エーネ!!??」


「げほっ、ううっ、ひぐっっ……!!」



汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにした、酷い有様の幼馴染がそこにいた。傷は無いのに、何故か嗚咽をあげている。


「どうしてっ!」

「あ、あれから体力尽きて、タワーの階段から水流して耐えようと思って……で、でも全然っ、ぐすっ、うまくいかなくてっ! 逃げるしかなくてっ……!!」

「な、泣くな、大丈夫か!?」

「うううううっ、高いぃっ、うええぇっっ……!!」

「すまん、喋らなくて良い!」


色々と吐き出しそうな少女を制し、必死に力を込めるザン。


「ザン、も、もう無理ぃっ……!」

「エーネ、俺の刀を落としてくれ! 少しでも軽く────」


「その必要はないよ」


続いて、場にそぐわない貫禄のある声がする。

気がつけばザンとエルドは宙にいた。二人同時に着地したところで、強い力に引っ張り上げられたと気付く。


「……ゼノイさん!」

「ここは片付いたようだね」


ゼノイ・グラウズの口調は、この状況下でも全く変わらない。


「何故あなたまで……」

「うむ、作戦と違う事をした子がいてね。あまりに大変そうだから、後処理ついでに様子を見にきたんだ」


しんみりした彼の瞳は、泥のように倒れ伏すエーネに向けられていた。


聞いた通り、エーネはタワー内部で耐久作戦に出たが、失敗したらしい。

上に逃げるしかなかった彼女を追い、ゼノイはハンガーズ(飢えた群衆)を退けながら進路を塞いできたようだ。


「驚いた、そんなに強かったのか」

「所詮は地形を利用した多対一の技術だ。君達には敵うまいよ」

「はああっ……良かっ、た……」


事の顛末を聞き終えたエーネは、史上最大のため息を吐いた。


「エーネ、ありがとう。お前のおかげでみんな無事だ」

「んふふ……ザンこそ、ありがとう。フレイを、導いて……くれたんですね」


芯から嬉しそうなエーネに、ザンは頭を掻いて黙り込む。


「これだけ怖いことやったんですから……今度、甘い物でも奢ってね」

「ああ。でも運動は定期的にしろよ」

「しばらくは……嫌です……」


彼女が静かになると、それまで黙っていた女性が口を開いた。


「ザン、ボクはキミに礼を言わねばならないね。それと、謝罪も」

「気にするな。もう済んだことだ」

「……最後に、聞かせてくれないか?」


少年に背を向けたまま、エルドは切ない声で。


「ボクとグレイザーは、この先もやっていけるだろうか。ずっと親友のまま……手を取り合って、生きていけるだろうか」


ザンは、口を半開きにして仰向けになるエーネを見やる。

そして、そんな穏やかな彼女と対照的に、怨念を纏う義妹を思い浮かべた。


「何かと思えば」


それでも、ザン・セイヴィアは信じることをやめない。



「あんたが奴を想う限り、考えるまでもない」


「……そうか。ああ……そうか」



従者の表情は、かつてないほど澄み切っていた。


「さて。皆、感じているかな?」


ゼノイの言葉を受け、全員で天井を仰ぐ。

今にも崩れ落ちそうな最上階から、とめどない生の躍動を感じた。



「戦いは佳境だ。最後に立つのは一人だけ……やもしれん」



********



「【火炎鉄砲(フレイム・バレット)】っ!!」

「甘い!!」


尾を引く金色の閃光を、グレイザーは巧みに避け続ける。

一瞬の隙を縫い、飛び出してくる神速のナイフ。


「【走れ炎よ(ラン・フレイム)】!!」


宙を走る炎で迎撃すると、目も眩むような閃光が走った。

すぐさまグレイザーが視界から消える。背後に、複数のナイフを構える彼の姿が。


「……そっちこそ甘いねっ! 【炎の裂槍(フレイム・ハルバード)】!」

「ぜあああッッ!!」

「っ!?」


対応は遅くなかった。こちらの火炎槍が完璧に迎撃したはず。

しかし肩を焼かれてもなお、守護者は突撃を緩めない。


「ふ、【炎の防壁(フレイム・バリア)】!!」

「無駄だ! 既におよその硬度はわかっている!!」


殺意のこもった刺突に加え、彼は凄まじい蹴りを繰り出した。

まさかの攻撃に、初めて防壁(バリア)が揺らぐ。


「やば!? 【炎の(フレイム)────」

「消えろッッ!!」

「────攻守一体(バリア・アタック)】!!」


壁をそのままぶつける。すんでのところで、グレイザーは大きく跳んで退いた。


「ちっ、仕損じたか」

「う……焦って変な技出しちゃった」


グレイザーはよく見ると体に機器を取り付けており、それで能力を向上させているらしい。元からの強さに加え、驚異的な馬力だ。


しかし着実に傷は負っている。もう、長くは保たないはず。


「グレイザー。エーネやザンが下にいるよ。エルドさんは負けたんだよ」

「……それに、あの男もか」

「ねえ、感じるでしょ?」


私は、屈託の無い笑みで。



「死が、すぐそこに迫ってるよ?」



雨雲はすっかり晴れ、ノーブルタワーの灯火は月光と共に輝く。

群都市の無数の人間が、偉大なる守護者の無事を祈っていた。


「……退く道など存在しねェ」


まるで、自分に言い聞かせているような物言いだ。


「オレ達の脅威は、全て排除しなければならん。シュレッケンも……フレイング・ダイナ! お前も!!」

「…………」

「あァ、そうだ。この街は民の安寧であり、オレの野望でもある。全てを叶えるべく、オレはエルドと共に進む!! いずれ必ず────」


蒼色の眼光を放ち、グレイザーは天高く吼えた。



「オレ達は────この街はっ! 世界を統べる!!!」



(……ああ)


今更ながら思い知った。やはり、《《彼は野放しに出来ない》》と。


もし同じ村に生まれていたら、きっと素晴らしい友人になれた。

けれど私はフレイング・ダイナ。約束を果たすためここにいる。


「……さよなら」

「!!」

「グレイザーは、偉大な守護者だったよ!!」



私の呪いはもう、解けることはない。



「【火炎大海撃フレイム・グランドウェーブ】!!!」



天を舞う業火が、タワーの頂を喰らった。

逃げ場を失った守護者は、無残にも炎の渦に呑まれていく。


「やっ、た……」


喪失感と達成感がごちゃ混ぜになった複雑な感情を抱きながら、私は脱力した。

この先のビジョンは無い。ゼノイにどう伝えれば良いかもわからない。


けれど、今は────


「────────え」


乾いた音がした。炎とは異なる、硝煙の匂い。右手を刺すような苦痛。

視界に映る真紅が自分の血液だと気づくのには、だいぶ間が要った。



「お前は、世界を知らない」



煙が晴れ、満身創痍の男が姿を現す。


彼は見たことのない武器を持っていた。小型で持ち手があり、先端に穴の空いたそれは────


「拳銃……見るのは初めてか?」

「ッ────!?」


声にならない呻きと共に、私は膝をついた。驚きの感情で涙が溢れてくる。


「視界が良ければ心臓を狙えたが、これで魔法は上手く使えまい」

(わ、私……油断したのっ……?)


ナイフの投擲なら気付けたのに。

いや、彼が私の魔法を知らないように。私も彼の執念を知らなかった。


「【炎の(フレイム)防壁(バリア)】……!」


左手で最後の壁を張るが────


「さあ、退場の時間だ」


いつの間にか、グレイザーは眼前に接近していた。



「ッ!?」


「群都市に────お前の居場所は無い!!」



守護者の渾身の蹴りは、壁ごと私を捉えた。到底防ぎきれる威力ではない。

体を捩り、手のひらを下に向けると、炎が暴発する。


自身の炎と、機器で強化された恐るべき技によって……



「うああああああああっっ!!??」



勢いそのまま、私は天高く吹き飛ばされた。



「さあ、宴の終幕だ!!」



彼の咆哮に応えるが如く。()()()()()()()が、轟音を上げ始める。

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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