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ド田舎の村娘だけど、是が非でも王になりたい!【毎日投稿】  作者: 今江彰人
第1部 【偉大なるキラー・ガール】

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10/31

10:魔法少女と懐刀

ノーブルタワーへの潜入は容易だった。

雨香る夜の街から一転、そこは彩溢れるパーティ会場。まだお酒も飲めない若者達がジュースで乾杯し、未知との対決に向け英気を養っている。


「……わたしはここで待機です」


中央部にて、短髪のエーネが心細そうな声で言った。


「フレイ、こっち来て」

「え? あっ」


力強く抱き留められる。この間と同じ感触だ。

飾らないいつものエーネは、甘く優しい女の子の香りと、少しだけ緊張の汗の匂いがした。


「心配です。心配だけどっ……きっと大丈夫ですよね……!」

「……任しといてよ。またお泊まりしようね、エーネ」

「うんっ……! ぐすっ、ザンも、この子をお願いっ!」

「言われるまでもない……って俺もかよ」


私越しに、ザンにも手を回すエーネ。人前で抱き合うなんて、普段なら絶対恥ずかしるだろうに。


(もう……怖がりなんだから)


温かく柔らかい胸に顔を埋め、微笑む。

ザンも苦笑いしつつ、背中に優しく手を添えていた。


「また後でねっ」


目を皿のようにして目標を探しながら、私達は会場を移動する。

しかし見渡す限り、それらしい姿はどこにもなかった。


『待たせたなァ、お前ら!』


機を窺っていたかのように訪れた、会場を震わせる大音量。しかし、依然発信源は特定できない。


「いない……何で?」

『明日の正午、オレたちは街を発つ。恐るべき『死都』シュレッケンに、全てを手に入れに赴く!』


私は義兄の腕を引いて走り出した。

これは機械音声だ。見つけられない焦燥感だけが募っていく。


『今宵は何もかも忘れ、明日への英気を養ってくれ。宴を始めるぞ!!』


「おおおおーーーーッッ!!」


(どこにいるの、グレイザー……!?)


身なりを変えている? いや、あの長髪を見紛うはずが無い。癖っ毛の私と比べ、憎いくらいのさらさらヘアだ。

私達を恐れて雲隠れした? それもハナから考えていない。


何より、あのゼノイ・グラウズが根本的な事を間違うはずないのだ。

彼は必ず、ここにいる。


「フレイ」


と、ザンに声をかけられた。じっと天井を見上げ、微動だにしない。


「……あ」


そこでようやく私は、建物の本来の構造を思い出した。

彼の意図はわからない。が、こちらの目的は明確だ。



「そうだ。奴は上にいる」



二人で顔を見合わせ、再び走り出す。目指すはあの時侵入した入口だ。

むしろ好都合。密かに彼を仕留め、手筈通りゼノイに声明を出してもらえば────


『おっと、すまねェ。言い忘れていたことがあった』


音声が再び響く。不穏な物言いに、私達はドアの前で立ち往生した。


『俺がこの場にいねェことを訝しむやつもいるだろう。野暮用があってな。特に問題が無けりゃあ、じきに俺も参加できるはずだ。だがもしも……』


(えっ)



『もしも、会場の奥から上へ侵入しようとする不届者がいたら……速攻で消し炭にしてくれ。そうすればきっと、今宵は良い夜になる』



もしすぐにでもドアに飛び込んでいたら、騒ぎは避けられただろう。


「まず、い」


しかしテンパった私は反応が遅れた。ザンが速攻でノブを握るも、今度は施錠されている。

全身を舐めまわすような、夥しい視線を感じた。


「いたぞ、あの二人だ!!」


「ゼノイさん、作戦バレバレじゃんっ!!」

「仕方ない、上へ行くぞッ!」


まあ、どのみち気付かれていたのだろう。彼を隔離できただけでも意味はあった。


ザンが鍵のかかったドアを斬り倒し、私の腕を引っ張る。通路はあの時以上に暗く感じられた。


「逃すなッ! 必ず仕留めろ!!」

「お、追手が多いんだけど!?」

「フレイ、ここは俺が……!」


走りざま、ザンが鬼気迫る声を発したその時。


私達の背後に、淡い水色の文様が浮かび上がった。


「何よこれ────きゃあああっ!?」


瑞々しい光を放つ水流が飛び出し、うねり続ける。まるで私達を守るかのように。

超常現象に対処できず、ハンガーズは見事に足止めを食らった。


「な、ナイス……!!」

「これができるなら、あの時屋根に上ってもらうこともなかったか」


階段を登りながら、ザンが満足げに口角を上げた。



「やる時はやるな、エーネ!!」



********



「はあっ、はあっ……!」


エディネア・モイスティは、騒然とした会場に真っ青な顔で立ち尽くす。

通路から押し返される敵を見て、逃げ出したい衝動に駆られた。


(さ、作戦が、見破られた……!! でもっ)


想定と違うが、二人は接敵のチャンスを掴んだ。もう託すしかない。

むしろ問題なのは、自分に残された仕事の方だった。


「溺れさせる……渦を作って、ハンガーズを全員……!」


エーネの力はフレイと仕様が異なる。彼女が身体からしか炎を出せないのに対し、こちらの水はすぐに魔力切れを起こす分、遠隔で操作可能だ。


今水流を生み出せば、確実に作戦に貢献できる。


「やるんだ。わたしが、やらなきゃ……っ」


わかっているのに。


(みんな、怪我しますよね……確かに魔法なら治せるけど、水で回されたら吐いちゃう人だって……)


────『任しといてよ。またお泊まりしようね、エーネ』


「…………!!」


違う。多少の怪我が何だ。


幼馴染の危機だ。やらねば失うかもしれない。

こんな自分を受け入れてくれた二人を。居場所をくれた、大切な人を。


ならば……!



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「…………あ」


ふと『彼』の気配を覚え、思わず背後を向く。しかし荒れ狂うハンガーズ以外、そこには誰もいない。


その事実を認識した時。ふと、頬が綻んだ。


(そうだ……わたしは、わたしの道を行く。そう誓ったはずです)


少し涙がこぼれ、それを拭いながら。


「だから、無理で良い。わたしは『あいつ』とは違うんだから」


フレイ、ザン。わたし、頑張るから。


エーネはウィッグを取り外し、顔を上げ────



「ストーーーーーーップッッ!!」



全身全霊をかけて叫んだ。



「はあ、はぁっ……っ、みんなして、どこ行くんです?」

「……あぁ?」

「本当は、みんなを押し流しても良かったんです。でも気が変わって」


向けられる数多の殺意。

泣き出したくなるのを堪え、エーネは不敵に笑って見せた。


「確かにわたしは援助担当……けど倒さなきゃ、上へは行けません。ずっと魔法で足止めしますから!」

「! そうか、こいつ!」

「あの一番弱そうなやつか! しかし腐っても魔法使い……!」

「仕留めなければ! グレイザーと、我らの明日のため!!」


気弱な魔法少女は、腕を掲げて水を纏う。


そして無限大の想いと共に、声を張り上げた。



「みんなに捕まえられる!? 私はエディネア・モイスティ、辺境の魔法使い! その力は、ハンガーズ(飢えた群衆)を凌ぎますッ!!」



すかさず出口へ水流を放った。半ば溺れながら波に乗り、会場の外へ。

後方に、無数の追手の息遣いを感じながら。


(二人とも、どうかお願いします。わたしも、死にたくないからっ!)


フレイング・ダイナが言った。絶対に大丈夫だと。



ならば、彼女を信じるだけだ!



********



「追手、来ないね」


彼女の魂の叫びは、既に数階上にいた私達にもしっかりと届いた。

きっと今も街中を逃げ回っているのだろう……夥しい敵を引き連れて。


「エーネっ、バカっ……何であんなこと」

「きっと大丈夫だ。運動音痴だが、逃げ足は速いからな」

「……うん」

「あいつのために、俺達は目的を果たすぞ」


どれほど登っただろうか。広い場所に出た。

講演場より規模は小さいが、天井までかなりの距離がある。壁も床も黒光りする、一際物騒な空気を纏う部屋だ。


それはまさに、おあつらえ向きの場所だった。


「今回が初めてです。私が彼に、真っ向から反対したのは」


透き通るような柔らかい声。

四隅の照明が淡く光り出す中、寂しげな顔をした背広姿の女性が現れた。


「あの日と同じで、結局彼には強く言えなかった。それでも、向き合うことをやめてはいけないと思ったから」

「……そうか。まず、あんたなんだな」


彼女は恭しくお辞儀をする。



「改めまして。守護者グレイザーが補佐────軍務長官、エルディード・レオンズと申します」



エルディードことエルドは、徐に片手を掲げた。

すると一体どこに潜んでたのか、部屋の奥から、見るからに屈強な戦士達が湧いて出てきた。


ハンガーズの精鋭部隊だ。


「降伏してください。命だけは助けるよう、私が彼に掛け合います」

「嫌って言ったら、どうする?」

「簡単なこと」


エルドの表情が歪む。懐から円盤を二枚取り出すその姿は────

既に覚悟を固め終えた、悲痛で頑強なものだった。



「今ここで、お別れですッ!」



腕をクロスして、エルドは円盤を投げつけてくる。

横跳びで回避すると、それは軌道を狂わせることなく彼女の元へ戻った。


「な、何それっ!?」

「ふふ、チャクラムをご存じでしょうか。それを改良したものです」

「ほう」

「こちらは多数、そちらは二人。取るべき選択はおわかりですよね?」

「ああ、そうだな」


ザンが一歩踏み出した。顎を引いたエルドから目を離さないまま、



「行け、フレイ」



それは、刀よりも重い言葉だった。


「ザン……!?」

「感じてはいた、お前が復讐に囚われていること。心配も迷いもあった。けど俺は、マインドに誓ったんだ」


強く大きくなった背中は、もう昔のものではない。

義兄はウィッグを放り投げた。



「何があろうと、お前を守り抜くと。だから俺を信じて先へ進み……本懐を遂げろ! フレイ!!」



無言のエルドによる、再度の投擲。

風が切られる。直後、金属の打ち合う鋭い音が。


「ザン……あ、ありがとうっ!!」


刀で円盤を叩き斬ったザンにお礼を言い────


「【火炎跳躍(フレイム・バウンド)】!!」


私は全員の頭上を跳び越え、奥へ走った。


守護者の気配は、もうすぐそこだ。


「舐められたものですね……我々を一人で相手取るなど」


様子見と言わんばかりに、前列にいた男二人が突撃してくる。体躯は大柄。ザンとは似ても似つかない。


「そうだろうか」


斧と槍。対称的な武器を振りかざし、四肢をもがんと力む男達を。

瞬きの間に、ザンは峰で打ち砕いた。


「ッ!?」

「あんたこそ、あまり舐めない方が良い」


エルドの瞳に、訳もわからぬまま崩れ落ちる男達が映る。



「このザン・セイヴィアが……『積み上げてきたもの』を」



一つだけ感謝せねばならない。

あの日、()()()()()()()()()()()()()。自分はここまで強くなれた。


「バカな……魔法使いじゃないのにっ!」

「俺とあんたは似てるかもしれない。エーネだってそうだ」


大切な人を想う気持ちは同じ。けれど。


「俺達には勝てない……グレイザーを止められかったあんたにはな」

「っ、01部隊、戦闘準備ッ!!」


震えながら武器を構える、数十のハンガーズを一瞥して。


少年は、義妹とは違う眼光を放った。



「始めるとしよう。あいつの道を阻む者は、誰であろうと逃しはしない」

★読んでくれた皆様へのお願い★


こんにちは、今江彰人です! 本作を少しでも面白いと感じて頂けたら、


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