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「ベルネリ森林部・魔力暴走事故」side アルナラ

森に入ってはいけない、といつも言われていた。

でも、それは「奥まで行っちゃダメ」という意味だとばかり思っていて、入り口のあたりなら大丈夫。

そのくらいのつもりだった。


それなのに、気づいた時には全く知らない場所に立っていた。


ほんの、探検のつもりだった。

お母さんは洗濯をしていて、アルを見ていなかったし、別に隠れて出たわけじゃない。


もし「どこ行くの?」と聞かれたら、「もりのちかくまで」と答えるつもりだった。

ただ聞かれなかったから答えなかった、それだけだ。


地面から伸びてる木の根っこが、ぐにゃぐにゃしていて面白い。

森の中の葉は大きく、空気がひんやりしていた。

楽しくて夢中で歩いていたら、気づけば道がなくなっていた。


「どっちからきたんだっけ。あっちかな。……でもこっちもにてる」


しばらく行ったり来たりしたものの、それでも同じような景色が続いたので、アルは立ち止まった。


迷ったのかもしれない。

だけど怖くはなかった。

このまま歩き続ければ、そのうちどこかの道に出るだろう、とその程度に考えていたのだ。


その時、木立の隙間に古びた建物の壁が見えた。


「なにあれ、おもしろそう!」


好奇心に引っ張られるように、アルはそちらへ足を向けた。


中に入ると部屋はとても広く、崩れているところが多い。

壁や床の隙間から草が生えていて、人影はなく、しんとしていた。


アルはきょろきょろしながら歩いた。

割れた板、石でできた棚、床に転がった何か。何に使うものかはわからない。

だけど、見たことないものばかりで面白い。


通路を歩いていると、小さな部屋の入口が目に入った。

扉が外れていて、中が見えている。

覗いてみると、部屋の隅に植物があった。


石の鉢に植えられた、小さな植物。

白い花が咲いていて、ほんのり光っている。


アルは中に入り、植物の前にしゃがんだ。

花に顔を近づけるといい匂いがした。

葉っぱを一枚触ってみる。

見た目通りの柔らかい感触。


よく見ると、小さな実がついていた。

丸くて、透明に近い色で、光を受けてきらきらと輝いて見えた。


綺麗だな、と思った。

同時に、食べてみようかな、とも思った。

思った直後には、実を口にしていた。


味はしない。

甘くも苦くも、すっぱくもない。

ただ、するっとのどを通っていく。

それだけだった。


アルはもう一度、その植物を見る。


「こんなところにひとりぼっちで、ずっとここにいたのかな」


かわいそうだな、と思う。

そして、持って帰ろうと思った。


石の鉢は重かったので、植物だけ根っこごと引き抜く。

服の裾をめくって大切に包み込み、しっかりと抱きかかえた。

こぼれた土が服を汚したけれど、そんなことはちっとも気にならなかった。


それから、出口を探して再び歩き始める。

しばらく歩いていると、ふと視界がひらけた。

まだ森の中だか、先ほどよりは明るい。


光が差し込む方向へ歩いていくと、見覚えのある大きな木が見え、そこからいつもの道へと繋がった。


家の方向はわかった。

アルは植物を抱えたまま、家に向かって駆け出した。




玄関を開けると、お母さんが立っていた。

顔を見た瞬間、怒っているのが一目でわかる。


「アル」


低い声で名前を呼ばれる。


「どこ行ってたの」


「……もり」


正直に答えた。


「森には入っちゃいけないって、あれほど言ったのに!」


「いりぐちの、あたりだったんだけど……」


「入り口のわけがないでしょう! 何時間経ったと思っているの?……それ、何持ってるの。森の中のもの持ち帰っちゃだめって言ったでしょ?服も泥だらけじゃない。転んだの? 怪我は?どこ行ってたの本当に——」


お母さんの口から、どんどん言葉が出てきた。

アルは植物を胸に抱えたまま、うん、とかごめんなさい、とか言いながらその場をやり過ごす。

だけどどんなに言われても、植物だけは離さなかった。


怒られながらも、アルはベランダの植木鉢を引っ張り出してきた。

そこに土を入れて、植物を丁寧に植え替える。

お母さんがまだ何か言っていたけど、アルの耳には半分も届いていなかった。


トントン、と土を整え、窓からの光が一番よく当たるところに鉢を置く。


「うちのほうが、あそこよりずっとあかるいよ」


葉っぱに触れながら、話しかける。


やっぱり、すごく可愛い。

うちに連れてきてよかったと、アルは満足げに鉢植えを撫でた。

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