第3話・至るは極致、抱いた胸中《むね》の ~来たるは騒ぎか災厄か~
第3章 二人を繋ぐ情念のカタチ
第3話・至るは極致、抱いた胸中の ~来たるは騒ぎか災厄か~
その、狂気にも似た情念を、インスは識っている……
アインの、拙い。けれども本気の囁きに、愕然として硬直したまま、インスはある種の諦念を抱く。
承知っていた。いずれ、こうなる可能性を。
いや。むしろ、積極的にそうなるように誘導いた部分もある。
けれど、まさか。こんなに早く、至るとは思ってもみなかったけれど……
言うだけ言って、後は抱き着いたまま、安心したように寝息を立て始めたアインに気づいて、インスはそろそろと息を吐いた。
それでなくても重かった身体が、何十倍もの重さに押しつぶされそうな錯覚。
ドッと来た疲れに脱力して、けれどもどこか、冴えわたった意識が漸く周囲の音も拾い始める。
遠くから近づく靴音が複数。一つは女性特有のもので……誰なのかが大体想像できて、溜め息を漏らす。
いい加減。あの方にも理解って貰いたい……
目を瞑って、視界を遮り、耳にだけ意識を集中する。
思った通り、靴音はこの部屋の前で止まり、そっと、薄く扉が開かれた。
全開にはしない。中を覗ける程度の隙間だけ。
おそらくはウスニーが案内してきて、見るだけだと言い含めているのだろう。
実際、外から中を覗き込んで様子を見たらしい相手が、息を飲むのが分かった。
ウスニーからも少し戸惑うような、ギョッとするような気配がしたのは、アインが抱き着いて一緒に寝ているからだろう。
何やらこそこそと小声でのやり取りが少し続いて……聞き取れてしまったその内容に、顔を顰めずに保つのが大変だった……扉が閉ざされ、靴音が遠ざかっていくのを、聞き取れる範囲で聞き続ける。
完全に聞こえなくなった後もしばらく待って、そっと目を開くと、日差しがずいぶんと傾いていた。
どうやら、待っている間に少し眠っていたらしいと気づいたのは、いつの間にか目を覚ましていたアインがベッド脇の椅子に腰を下ろして、インスの左手をぎゅっと握っていたから。
ウスニーも戻って来ていて、不機嫌さを隠しもしない表情で見下ろしていた。
「おはようございます?」
にこりと笑いかければ、大きな溜め息が返ってくる。
「……インス様……」
そうっと覗き込んできたアインにも微笑んで、握られている手に少し力を入れて握り返す。
ほわりと嬉しそうに、安心したように微笑むアインを見て、ますます溜め息を漏らしたウスニーは、カツカツと靴を鳴らしてベッド脇の小テーブルに歩み寄る。
そして、少し乱暴な手つきでコップに何か液体を入れると、それを一旦置いてインスの上体を起こす。
「飲め」
それから、改めて差し出したコップの中身は……
「「……………」」
どす黒い赤色でぼこぼこと気泡を上げていた。
無になって絶句するインスと、これでもかとばかりに目を見開いてぽかんとするアインの視線がそこから動かない。
「飲・め」
もう一度、ずいっとインスに押し付けて、額に青筋を浮かべたウスニーの満面の笑みに……
「…………はぃ……」
真っ青になったインスが恐る恐る手を伸ばす。
「さっさとしろ。それとも、無理やり飲ませた方がいいか?」
「……っ……!!!!????」
インスの、のろのろとした動きに業を煮やして、ウスニーはがっとインスの顎を掴み、少し上を向けさせると同時にコップを口に押し付ける。
「んぐっ……!!!???」
無理やり口の中に流し込まれたソレの、何とも言えない食感と味に目を白黒させて、咄嗟に逃げようとするインスを力づくで押さえ込んで、ウスニーは強制的に全部を飲み込ませた。
「……っ~~~!!!」
じたばたと抵抗するインスの様子にオロオロと慌てるアインが何度か声を上げるが、応じる余裕はない。
ウスニーも、アインの抗議するような声を無視して全部を飲ませる。
「素直に飲まないからだ。バカ者が」
ゼイゼイと肩で息をし、噎せて涙目になるインスを見下ろすウスニーの目が異様に冷ややかで、焦ってワタワタするアインがお水……と言うのを睨んで止める。
「ダメだ。水はやらん」
「そんな……!」
きっぱりと言い渡せば、インス本人よりもアインの方が悲鳴じみた声を上げた。
まあ、インスの方は声を上げる余裕もないのだろう。
口と、胃の辺りを手で押さえて真っ青な顔で吐き気に耐えている。
「代わりに効き目は最高だ。我慢しろ」
ニヤリと笑うウスニーの、その笑っていない目を見て……
「「……………」」
インスもアインも何も言えなくなって口を閉ざした。
第3章第3話をお読みいただきありがとうございます。
インスの自業自得なフリーズと、ウスニーの笑っていない目で幕を閉じた第3話ですが……。
実は、アイン君が激重宣言をしてインスがフリーズしている「まさにその時」。
この病室の扉の向こう側(廊下)では、本編第2部(第7章第1話)のあの出来事が同時進行しております!(笑)
ジャンヌが隙間から覗き見た「黒っぽい小さな何かを抱きしめて眠るインスの姿」の直前に、病室内で何が起きていたのか……。
扉一枚を隔てた本編と番外編の凄まじい温度差、ぜひ両方を合わせてお楽しみください!
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
【番外編・第4弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞④~幻影人形で選ぶ道~
(https://ncode.syosetu.com/n1705lx/)
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【第5弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




