第2話・目覚めた先に見たものは ~涙に揺れる幼子の~
第3章 二人を繋ぐ情念のカタチ
第2話・目覚めた先に見たものは ~涙に揺れる幼子の~
外の空気は冬の予兆を早くも宿して冷え、陽光が降り注ぐ室内も寒くはないが、どこか無機質で冷たい印象を受ける。
白一色の部屋に、白一色のリネン類が用いられ、ともすれば寒々しい印象を与える病室の天井を、ぼんやりと、見るとはなしに見つめる。
まだ寝ぼけているのか、どうにも思考がはっきりしなくて、ここがどこなのか? とか、どうして自分が寝ているのか? とか……浮かんで当然の疑問すら出てこない。
けれど、ふと、左手に触れる何かに気が付いて、インスはノロノロと視線を動かし、そちらを見た。
黒い、小さな何かが、白い掛布に乗っている。
「……………」
じっと見つめているうちに、それが人の頭で、黒いのではなく深くて濃い紫色の髪で……
「……ぁ……ぃん……くん……?」
「……っ……!!!???」
掠れた、吐息のような呼び掛けに、びくりと大きく震えたアインが、勢いよく顔を上げた。
不思議そうにアインを見るインスの、赤みを帯びた紫の瞳と、髪と同じ深くて濃い紫色の、一見黒にしか見えないアインの、濡れた瞳が交わる。
「……ぃ……んす……さま……」
くしゃりと顔を歪ませて、ボロボロと泣き出したアインを見て目を丸くする。
「っ! ……インスさま……っ!!」
わっと、声を上げて大泣きするアインに驚いて、インスは右手を伸ばしてアインを撫でる。
物凄く体が重くて、ほんの少し手を伸ばすだけなのに、思うように動けなくていらだつ。
それでも、何とか体の向きを変え、インスが横になっていたベッドの端で突っ伏して大泣きするアインの頭を撫でて、両手で引っ張るようにして抱き上げる。
身体に力が入らなくて、アインの、軽い身体を抱き上げるのも大変で、半ば引きずるようになってしまったけれども、文句も言わずに引き上げられたアインは、インスの胸に顔を埋めて泣き続けた。
どうしてこんなに泣いているのか? とか、ここはどうやら皇宮の医務殿のようだけれど、他には誰も居ないのはなぜなのか? とか、分からないことだらけではあったけれど……
とりあえず、泣いて、泣いて、必死に縋ってくるアインを抱きしめ、宥める。
「……インス、さまが……っ!」
「……はい……」
ぎゅうっと、力いっぱいインスが着ている寝衣の胸元を握りしめて、頭をこすりつけるように押し付けて、泣きながら必死に声を絞り出すアインを宥めて、その背を撫でる。
「ぃんす、さま……も……っ!!」
「……はい……」
ひたすら名前を読んで、何かを訴えかけようとするアインが、何を訴えたいのか分からなくて、ただただ呼ばれるたびに返事をするインスに、アインも言いたいことが言えなくて、上手く伝えられなくて。
それがなおさら悔しくて、哀しくて、止まらない涙で、インスの胸元を濡らすだけ。
これは落ち着くまでは無理だな。と半ば諦めたように、けれどどこか、仄暗い気持ちの影を何となく感じながら、インスは黙ってアインを撫で続ける。
「……だ……」
「?……はい……?」
ややあって、しゃくりあげるアインが、インスの名前以外の音を口にして、首を傾げたインスが先を促す。
「……だぃ……じに……っ」
「……………」
顔を上げたアインが、縋るようにインスを見た。
真っ直ぐに、濡れた瞳に射抜かれて、インスは息を飲む。
「……ご、じぶん……の、こと……っ」
震える、吐息を必死に絞り出す。
分かった。アインが何を言いたいのか。言おうとしているのか。
「……だぃ、じに……し……て、くださぃ……っ!!」
ぽろりと零れる雫が、ベッドに横になったままのインスに降り注ぐ。
ベッドに引っ張り上げられて、その胸の上に乗り上げて抱き着いたアインが、上からインスを見下ろして、ぽろぽろと涙を零して訴える。
しばし、表情をなくして、号泣するアインの顔を見上げるインスは……
「……そう、ですね……」
ふわりと、華開くようなやわらかで優しい、鮮やかな微笑を浮かべて頷く。
アインの後頭部に手をやって、自分の胸に顔を埋めさせて、優しい声音で、そっと囁く。
「……約束しましょう……」
告げた言葉はそれだけ。けれど。
君を、心配させないように、気を付けると……
声には出さずに、心の中ではそう付け加える。
「……ん……っ!」
約束する。と言うインスの言葉に、そこに込められた思いに、アインもただ頷く。
それから、インスの腕の中から少し、身を伸ばして、その耳元に唇を寄せる。
「……インスさま……」
「……はい……」
囁くような呼び掛けに、耳を傾けながら返事をする。
けれど……
「……ぼくの、ぜんぶを、あなたの、ために……」
「っ!?」
続けられた言葉に、硬直する。
一瞬にしてインスが青ざめたことになど気づきもせずに、薄く笑みすら浮かべて、アインは囁く。
「そのくらいしか……ぼくに、できることは……ないから……」
ぎゅうっと、首元に抱き着いてきたアインを、抱きしめ返すこともできないまま。
インスは真っ青になって、愕然とした表情で、硬直する。
声も、動きも、すべてを封じられたかのように、瞬き一つできずに、ただ、こくりと一度、喉が鳴る。
自分のすべてと引き換えて、それで願いが叶うなら……
薄く笑みすら浮かべるアインが、心の奥でそう囁く。
なにも、おしむものは……ない。
第3章第2話をお読みいただきありがとうございます。
長らく眠っていたインスが、漸く意識を取り戻しました!
が、あまりにも長く眠っていたせいか、完全に寝ぼけております(笑)
一方で、緊張の糸が切れたようにボロボロと泣き出してしまうアイン。
状況が飲み込めず不思議そうにしながらも、大泣きするアインを見て、考えるより先に手を伸ばして撫でてあげるインスの「アインを安心させたい」という本能……。
アインの祈りが届き、ようやく訪れた目覚めの時。
そして、ラストの衝撃発言の行方は!?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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【番外編・第1弾はこちら】
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【番外編・第4弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞④~幻影人形で選ぶ道~
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【第5弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




