96話 アノ表情
「咲子…… その眼……」
私は聞いた
聞かずには居られなかった
昔から幾度となく見ているルビーアイの紅では無い
見たことも無い、紫色の眼……
「ああ、コレはラピスよ」
咲子は答えた
「ラピス……?」
「そう、神の眼…… ラピスラズリ」
「神の眼……? 貴方…… どうやって……」
咲子はニコリと笑った
そして向けていた右手を下ろした
「ソレを説明しても意味ないわ」
そう言って、私の質問を拒否した咲子は顔を動かさずに一瞬目を右へ向けた
「そう……」
私はそれしか口に出来なかった
気付いた……
気付いてしまったのだ……
明らかに力の差が有る咲子
私はママにさっき聞いた
【ルビーアイ所持者としてなら、どっちが上?】と……
ママは答えた
【ルビーアイ所持者としてなら、私の方が上だった】と……
もう、ルビーアイ【所持者】では無いんだ
既に遥か先に行っている証が映し出された両眼
何か聞かなきゃ……
情報を少しでも手に入れなきゃ勝てない……
そんな考えを巡らせている時だ
咲子が今度は一瞬では無く、ハッキリと体を右に向き直って奴に…… 悪魔に言った
「ねぇ、爺ちゃん…… 共鳴の力は強すぎる…… 一度リンク切ってくれない? コレじゃ力比べに成らないよ」
問い掛けられた悪魔は首を傾げる
「倒せるなら倒しなさい…… 力比べなど、今後の為に必要無いのだから」
その答えには首を横に振った咲子
「爺ちゃん…… 前に進めないんだよ、コレじゃ…… 私は私の力で泉を超えたい」
「咲子君…… まぁ、良いだろう…… だが、それは無理だ…… 君が純粋に龍斗を殺さ無いと思わなければね」
「そっか…… 【思い】がリンクの方法なのね…… だから敵味方は自動的に決定するわけか…… 解ったわ……」
そこまで言った咲子は視線を移す
その先に居たのは……
「ねぇ、藍…… 今だけ、貴方の願いを断つわ…… ゴメンね……」
ズッと無言だった藍に向けた言葉
ソレを受け取った藍の表情は、有り得ない物を見ているという…… 何というか…… アノ表情を映していた
そして咲子に向け、藍は聞いた
「咲…… コレ…… 何……?」
「ん? この力?」
「う、うん……」
「超能力…… かな…… 簡単に言えば、ね」
「超能力……」
「ゴメンね…… 黙ってて」
藍は首をブンブンと横に振った
「でも、なんで教えてくれなかったの!?」
咲子は少し、笑った
そして、言った
「嫌われたくなくて……」
「そんなんで嫌ったりしない!!」
「解ってるよ…… ねぇ、一緒にゲシュ探ししたの、覚えてる?」
「勿論よ!」
「あの時ね、私…… 凄く嬉しかった…… 貴方が扉を通り抜けたゲシュを見て嬉しそうに…… はしゃいで居たから」
「なんで……?」
「これ見て解るでしょ? ゲシュとは違っても、本質は同じ…… 本来有り得ない人間なのよ、私達は」
「そ、それは……」
「良いのよ、藍…… だからね、有り得ない事を理解してくれる藍がとても嬉しくてね……」
「だから友達になってくれたの?」
「違うよ…… 私は弱かった…… 心が弱かったのよ…… 貴方の強さに憧れた…… 貴方と居れば、私は強くなれる…… そう思った……」
「私もよ! 咲が居ればもっと相応しい強さが見つかると思って!! お互いに……」
咲子はもう一度、少しだけ…… 笑った
「ありがと…… 私、もっと強くなるね…… 今、藍が…… 気付かずに…… 私に向けている……」
咲子は一瞬言葉を止めた
言って良いのか迷っている
そんな風にも取れる表情
でも、悲しそうな顔をした咲子は口にした
「私に…… 私へ…… 向けている…… 【恐怖の表情】をちゃんと受け止めて、私…… 貴方の為に、戦うね……」
そう言って、私に向き直った
藍に……
悲しくもあり、寂しくもある言葉を伝えた咲子
そう、私達は、そういった人種だ
本来恐怖で見られ、そして人によっては羨ましがれる
羨ましい…… それは…… 嫉妬
嫉妬がまた悪意を生む
終わらない連鎖
だから、私達は隠していたのだ
親からも幾度となく言われた言葉
【人の理解を超える力は恐怖を呼ぶ…… それと共に憧れと嫉妬を持つ…… ひいてはココに居られなくなる…… 覚えといてね】
そう、恐怖
知らず知らずの内に、私達に……
いや、藍が大切にしている…… 咲子に向けて居た表情
ソレを咲子は理解し、そして受け止め、そして…… それでも尚、貴方と居たいと言ったのよ…… 解ってるよね、藍?
いや、今の私にはもう関係は無いか……
もう始まった事だから……
咲子のその目は私を見据え、決意が見える
そのまま咲子は言った
少し離れた奴らと供に居る男性
ライにだ
「ライ…… 済んでる?」
「アア…… 問題無イ……」
「2箇所ね……?」
「2箇所ダ……」
「了解……」
そう口にして、構えに入った
藍は叫んでいた
もう、咲子の耳には届かない
咲子の目に映っているのは私だけだ
有り得ないほどの集中
私も、私なりに本気でいかなければ、死ぬ
そうでなくても……
共鳴が切れても勝てる見込みは無いかも知れない
でも、やるしか無い
藍は今も叫んでいた
「ゴメンね咲……! ゴメンね咲……! ゴメンね!!」
繰り返し聞こえるその声は、もう、私の耳にも届かなかった




