95話 決意
まばたきで会話したのならそれでも良い
だけど、しかし……
「何故…… そっちにつくの…… 答えて、ライ……」
私は彼に問い掛けた
状況が見えない
静かに、冷静に聞いたつもりだ
「最善…… ソノ為サ」
最善ってなんなの!?
敵なんだよ?
敵側なんだよ、そっちは!?
それに…… それに……
「ねぇ、ライ…… そっちにつくって事は、パパを殺す側…… なんだよ……?」
彼は目を閉じた
「ソウ成ルカ、成ラナイカハ天ガ決メル事ダヨ」
「天って何……? 決めるのは咲子でしょ……?」
「違ウヨ、泉…… 決メタノガ咲子、決メルノハ天ダ」
頭に血が上る感覚
そう、私はイライラしていた
つまらない禅問答をしている余裕など無い
「謎掛けはクイズ番組でも見てなよ!! 決めたとか、決めるとか意味解んない!! じゃあ天って何なのよ!?」
「タイミング……」
「またタイミングか…… さっきからタイミング、タイミングって…… 何なのよ!?」
ライは目を開いた
いつものオーシャンブルーの瞳では無い
似ては居るが……
コレは違う
より濃さを増したカラーの瞳
多分、コレがディープ・サファイア……
「信ジルカ、信ジナイカ…… ソレハ泉次第サ」
ココまで来て……
咲子からは宣戦布告されて……
パパを殺すと言われて……
敵につくと言われて……
今更、何を……
何を信じろと……!?
そんな考えに蝕まれた時、悪魔が口を開いた
「まぁ、内容はよく解らないが…… こちら側についたのだな? その外人君は?」
咲子がコクリと頷いた
「そうか、ならば……」
その手にはシルバーチョーカーが乗っていた
ソレをライに手渡した
右手でソレをすくい上げる様に彼は受け取り、そして眺めていた
「コレハ、咲子ト同ジ物カ?」
その言葉に奴はニヤリと笑みを向ける
「ああ、そうだ…… ソレを付けて、咲子と供に生きなさい」
ライは受け取った右手に納まるチョーカーにまた目を向ける
そして言った
「コレヲ付ケルト、咲子ト供二貴様ノ奴隷ダナ……」
「嫌かね? 付けないならそれでも良いが、その程度の愛情だと言うことだな?」
「愛情ヲ貴様ガ語ルナヨ…… 僕ハ、僕ノ命ヲ使エル時ガ有レバ、何ノ迷イモ無ク咲子ノ盾ニナル…… ダガ、コレヲ付ケルト守レナイ! 首二衝撃ヲ喰ラエバ爆発スルナラ盾ニナッテモ意味ハ無イ」
納得いかないが、理解はした
理解はしたが、思い通りにいかなかった不愉快
そんな微妙な表情を悪魔は見せた
実際、納得いかないから不愉快なのだろう
でも、明らかに明確な理由を述べられた悪魔には太刀打ち出来るだけの口述も無さそうだった
「…… まぁ…… 守ろうとして自分が盾になり、自分の死と供に咲子君が死ぬ事が有れば…… 意味は無いねぇ」
「アア…… ダカラ僕ハ付ケナイ…… ムシロ、破壊サレルベキ代物ダト考エテイル」
一瞬目を丸くし、直後、笑みをこぼした悪魔
奴は笑みと供に少しの笑い声を混ぜた
「フフフ…… 気持ちは解るが、ソレでは咲子君が死ぬぞ?」
絶対的優位性を示したのかったのだろう
「理解ハシテイルサ……」
そう言いライは私達に向いた
「ダ、ソウダ……」
ん?
何を言いたかったのだろう……
何かを伝えたかったのだろうか?
自分達には絶対的不利……
そう言いたかったのだろうか……
だから、その道を選んだのだと……?
そしてまたライは悪魔に向き直った
そして言った
「僕ガ言イタイ事ハ解ッタロウ? ダカラ要ラナイ…… コレハ返却シヨウ」
そう言い、シルバーチョーカーを持つ左手を振り、奴へ放り投げた
ソレを受け取るや否や、悪魔は驚きの表情を見せる
「お前…… それで私が落としたら、それでも咲子君の命は無くなるんだぞ?」
「ソレデモ、オ前二屈伏スル気ハ無イ…… ソウ言ウ事ダ」
「やれやれ…… 強情な男だ…… まぁいい……」
そう言って受け取ったチョーカーを持つ手が上がる
ソレを静かに奴の背後から片目が紅眼の生徒と思われる男性が受け取り、また後ろに下がっていった
その一連の流れをただ見ていた私に声を掛けたのは咲子だった
「爺ちゃんはさっき言ってた従順の方法でこの学園の生徒、その家族、教員までもを手中に収めた…… 私もその恩恵なのかな…… 共鳴で力が上がっている…… だから、泉…… 貴方は私に勝てない…… その従順の液体で更に仲間を増やす事になる…… そうすれば貴方は絶対に死ぬよ」
咲子の目は真剣そのものだった
本気だ
本気で言っている
まだ、これだけの人を操っても足りないのか!?
ダメだ
止めなきゃ……
「ねぇ、咲子……」
「何?」
「やるしか無いのね?」
「うん」
「解った……」
ようやくだ
ようやく決意出来た
そう思えたとき、私は右足を一歩前に出し、半身の体制で構えていた
その姿を見た咲子は左に歩く
私との距離を離すことも、縮める事も無く、ただ左に歩いた
そして、止まった
その行動の意味を察した私は右に歩いた
咲子は後ろに藍や操られた者、そして悪魔のように笑う輩を射線上から外したのだ
だから私も右に移動した
私の後ろにはアーサーが居る
巻き込むわけにはいかないから……
咲子は右手を上げた
人差し指と中指を隣り合わせにピンと私へ向け、その親指は空を向く
ピストルの様な形
そして左手は、そのピストルに見える右手首に添えられた
「行くよ、泉……」
そう言った
咲子はそう言った
私は頷く
それと同時に背中に冷や汗が流れた
咲子の右手
その人差し指の先が紫色に光る
そしてそれは野球ボール程に膨れあがった
ヤバイ……
コレはヤバイ!!
そう思ったのも束の間
その指先の球体は更に大きさを増した
力が循環しているのが解る
サッカーボール程の大きさになったと思われた瞬間、一気に爆発的な巨大化を遂げた
咲子の指先にある紫色の弾丸
その大きさは、もはや気球のバルーンと遜色ない巨大ともいえる球体へと一気に変貌した
大きさに恐怖は有る物の、それ以上にソレを掻き立てられた物を目の当たりにする
あまりにも巨大な力の塊
向けられた指
人の大きさを遥かに超えた球体のソレは、地面を喰い消していた
バチバチと鳴る地面と、バリバリと石を喰い砕くような音が周囲に響く
来る
何かとてつもない物が来る!!
感覚がサイレンを鳴らす
避けなきゃ終わる!!
私は右に飛んだ
ルビーを全身に掛け纏い、全力で右に飛んだ
その瞬間だった
ザッシュッッッ……
そんな音を立て、何かがズドンと音を鳴らす
背後からだ
私は振り向いた
背後には何も無かった
いや、あったはずだ
背後…… 確か…… 緑の生い茂った並木道
ソコにあったはずの木々が無かった
切り株の様に削られた残骸があっただけ
コレは…… 何!?
あの場所に居たら…… 私も……
全身から吹き出す汗が止まらない
私は正面に向き直った
そして、咲子を見た
今のは咲子が放ったのか!?
いや、違う……
そんなわけが無い
ルビーアイ発動によるオーラの気配……
ルビーの残り香がしない!!
そして、もう一度しっかりと見た
咲子の顔を……
違っていた
表情では無い
眼を見た!!
ルビーアイじゃ無い……
紅く無い!!
その両眼は紫色に輝いていた……




