92話 ガラスとジェル
咲子の通う大学、その正面入り口に着いた
そして私達はバイクから地に足を付ける
なるほど……
ふと、先程言ったママの言葉が脳裏を過ぎった
待てと言った18分
そして、言い直した14分
その差、4分
確かにその位だ
アーサーがバイクを走らせ大学に到着した
ルビーアイで身体能力を上げて走り、入り組んだ道、線路を越え、それらをかんがみても4分程度はバイクの方が早いだろう
見えない、そう言っていた
私達の未来はもう見えないと……
見えている
まだ、見えている
いや、咲子の未来は見えないのかも知れない
だが、私の未来が見えている
私の未来から見た予知だろう
ならばママを信じる
私はママの最後に言っていた言葉
【咲子を信じて】
その言葉を信じる
その少し後に、その言葉を聞くまでは……
確かに【信じていた】んだよ…… ママ……
私は夢中で走った
咲子を見つけるために校庭に向かう
ソコには大きく広がる競技場が視界を埋める
人混みが激しく、見つけられそうも無い
大きい大学だとは聞いていたけど、生徒1000人程度では無さそうに見える
よく見ると年齢がバラバラだった
大人も居れば、子供も居る
多分、生徒の家族も居るんだ……
ココでは探せない
そう判断した私は校舎に向かった
高い所なら咲子を見つける事が出来るかも知れない
そう思ったのだ
踵を返した時、私の行く手をアーサーが遮った
「待テ、泉…… 念ノ為……」
そう言って向けたアーサーの手は蒼く蜃気楼が揺れる
ソレを私の体に纏わせた
【サファイアの盾】だ
即座に理解する
私はアーサーに笑顔を向け、
「ありがと♪」
と、答えた
次いでライが話し掛けてきた
「モシモ戦闘ト成ッタラ頭部ト心臓ヲ守ル事ヲ忘レルナヨ……」
なぜ、ソレだけを守るように言ったのかは理解出来なかった
だが、心配してくれているのは解る
その言葉に対しては、
「了解♪」
と伝えた
その答えに頷くライが更に言葉を繋げる
「ルビーアイハ高位デ有レバ有ル程、不可侵ノ障壁ヲ創レル…… サファイアト似テイル物ガネ」
私は首を傾げた
「同じな訳では無く?」
「違ウヨ…… ルビーアイノ障壁ハ、言ワバ…… 分厚イ【ガラス】ノ様ナ物…… 受ケ止メルカ、割レルカ…… 2通リダ」
「じゃ、サファイアは?」
「サファイアノ障壁ハ、密度ノ高イ…… 【ジェル】…… カナ? 貫通サレテモ、ダメージハ削ガレル」
なるほど……
チーマー達に絡まれた時の事を思い出した
あの日のサファイアの盾に撃たれたプラスチック弾は、確かに空中に浮いていた
一定量のダメージまで受け止める障壁と、ダメージをドンドン削り取る障壁……
ルビーとサファイアの違いは大きいってわけね
同じ障壁でも、安全度が明らかに違うサファイアの盾か……
「了解だよ、ライ! 極力盾には頼らないようにするけど、教えてくれてありがと!」
何故、今、教えてくれたのだろう
そんな事も思いはした
だが、知識はあって損は無い
御守り代わりに教えてくれたのかも知れない
そんな考えを持ち、私は2人と供に走った
私は昇降口に向けて走る
多分コッチよね……?
そんな曖昧な感覚で校舎、建物に向けて走った
そして聞いた
聞いてはならない言葉を聞いた
私の世界がグニャリと歪む
そんな言葉を……
咲子の口から聞いた
私の先に見えた、咲子から……
耳の奥に確かに届いた言葉
【信じる】
その感覚が、揺れる
私は足を止めた
そして頭の中でその言葉を繰り返す
意味を充分に理解する為、繰り返す
「藍がソレを望むなら…… 龍パパは…… 私が殺す」
ソレは、何?
貴方…… 何を言ってるの?
私は歩く速度を遅め、咲子の元に向かった
パパを……
殺す……?
何の冗談……?
私は咲子の目の前に立つ
そして、聞いた
「今…… パパを…… 殺すって…… 言ってなかった?」
咲子は私の眼を見て、ハッキリと答えた
「言ったよ」
そう、答えた
「な、何言ってるの……? この状況で冗談はヤバいって……」
「冗談じゃ無いよ」
背中にザワリとした何かを感じた私は、咲子の胸ぐらを掴んだ
そして言った
「ふざけんなって言ってるでしょ!! ソコに敵が居るのよ!? 私達の目的は…… ソイツを倒す事でしょーが!! 忘れんな!!」
「ソレも、解ってたよ」
「何で…… 何で…… 何で過去形なんだよ!! ソコに居るんだよ!? 対象が!! 親達の戦いの…… 敵が生きてた!! アンタは知らないかもしれないけど、ソイツは咲子の爺ちゃん! そして、敵よ!!」
一瞬の間が空き、咲子は私の眼を見て、また答えた
「ソレも知ってる…… 今さっき、聞いたから」
その声は、実に冷静に聞こえた
「アンタ…… それも知ってて言ってるのね?」
「そうよ」
「どうしたの…… どうしちゃったのよ!? 咲子!! 答えて!! それに…… それに……!」
違和感があった
今までに感じた事の無い物
咲子の感じが…… 少し違う
中にある、ある種のオーラ
ルビーの残り香がし無い
そんな感じがした
だから、私は聞いた
「それに…… 貴方…… 本当に咲子……?」
咲子はゆっくりと…… 自身の服を掴んだ私の手をその手で下ろさせ、服を整えた
「私は咲子よ…… 顔見て解らないの……? それにね、泉…… 先に言っておくけど、この男は記憶改ざん能力を持っている…… でも、ソレに私や藍は掛かって無い」
記憶改ざん!?
そんな力があるのか!?
いや、確か桜ママの母親がソレを掛けられたと昔聞いた気がする……
ソレも、コイツから!!
奴を睨んだ時、その視線を戻させるかのように、咲子がまた話し始めた
「どちらにしても無理よ、泉…… 殺り合うしかないね…… 多分、そう言う運命なんだよ、私達」
「何を言ってるの?」
「貴方は貴方が守りたい者を守る…… 私は私が守りたい者を守る…… そう言う事よ」
「……解って言ってるの?」
「勿論よ」
その顔は、やはり冷静そのものだった
本気で言っている
そう、思えた
「ねぇ、泉……」
「何よ……」
「藍のこと、好き?」
「ええ、友達になりたいわ」
「ありがとう……」
冷静な表情が、少し、歪んだ
「何よ……?」
「私が死ねば…… 藍も死ぬ…… この、シルバーチョーカーで……」
「え?」
その首元には、今朝とは違うチョーカーが着けられて居た
その中央には紅い石が付いている
藍に視線を移したその先、首元には…… やはりシルバーチョーカーが着いて居た
ただ、藍のチョーカーの石は青かった
「ソレは…… 何?」
「コレを外すことは出来ない…… 無理に外せば、私が死ぬ…… 外部から力が加われば、やはり死ぬ…… 奴から200メートル離れても死ぬ…… 奴の奴隷の証よ……」
手が震えた
奴を見た
笑っていた
ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべていた
だから、理解した
「アンタ…… アンタ…… アンタ私の姉妹に何やってんのよ!? この外道がああぁぁぁぁ!!!!」
大声で叫んでいた
自分自身でも信じられない程の声量で叫んでいた
殺す
生半可には殺さない
消し炭にしてやる……
その思いを断ち切った言葉を耳にした
発したのは咲子だった
「泉…… 奴の心臓が止まっても、ダメなんだよ」
次いで、奴が声を発した
「咲子君…… まぁ、それ以上は言うな」
どこまで……
どこまで…… クズな輩だ……!!




