91話 負けたくない
「わかった…… 時間まで…… まだあるなら敵の事が知りたいわ」
私はそうママに言った
彼女は頷き、口を開く
「敵は…… 双眼のルビーアイよ…… そして、真の覚醒者……」
「真の…… それはママより強いの……?」
ママはもう一度頷き、さも当たり前の様に言った
「ええ、そうよ」
と……
そして続けた
「私は単眼…… 敵は双眼…… 同じ覚醒者でも、天と地よ」
さっきまではライのディープ・サファイアが加われば勝てる
そう、思って居た
浅はかだった事に今更気付く
だから止めたんだ、アーサーは……
情報が足りないと言っていた
その情報という言葉を勘違いしていた
まだ足りないのは敵が【誰か】じゃ無い
何かしらの敵の【弱点】が足りなかったのかも知れない……
不安に思った
その不安を……
私は率直に聞いた
「ねぇ、ママ…… 私達…… 勝てるの……?」
間が空いた一瞬を私は見逃さない
ママは言った
「勝って…… 欲しい……」
「ママでも…… 未来は見えないのね……?」
「この未来は…… 見えないわ…… と言うより、咲子の未来はモウ見えない…… 未来は咲子が創るから……」
「何故…… 咲子がそこに出てくるの……?」
「咲子は……」
そこまで言って、ママは一度口をつぐむ
そして、言葉を選んだように話し出した
「咲子は…… ルビーの限界を超えたわ…… だからあの子は…… 未来を創れる者になったの……」
限界!?
それは何!?
私の先に行ったとでも言いたいの!?
「ねぇ、ママ……」
「何?」
「ルビーアイ所持者として、私と咲子…… どちらが強いの?」
「…… どちらが、か…… はぐらかす訳には行かなそうね…… ハッキリ言うわ…… ルビーアイ所持者としてなら…… 泉、貴方の方が上だったわ」
【だった】か……
「過去形なのね……」
「そうね……」
「もう、超えたんだね…… 咲子は……」
私を……
その言葉は口に出さなかった
「ええ…… 言うなれば…… 例えれば…… 貴方はパソコンで言えば、大きな記憶媒体…… ハードディスクが大容量だったのよ」
「大容量……?」
「そう…… それは受け継がれた才能よ」
「ママとパパからね……」
「ええ……」
「じゃあ、咲子は?」
「あの子の容量は…… 貴方の3分の2…… といったところかしらね……」
「それが…… なんで!?」
「あの子は止まらなかったからよ」
「止まらない?」
「そう、その力で満足していなかった…… 貴方に…… 泉に遅れを取らないように我武者羅に…… ソコで立ち止まらなかったの…… そして自分なりの完成形になった……」
「それが…… パソコンの例え話とどう繋がるのよ!?」
「……あの子は、限界のすぐ近付く自分の能力を…… 高出力のまま維持できる…… データ出力量、CPUやメモリが段違いに高いのよ」
「ゴメン…… 言っている意味が解らないよ……」
「じゃあ…… 例えを変えるわ…… そうね…… パソコンの例とは少し違うかもしれないけど…… 水を出したホースが有るとするわね? そのホースからは大量の水が流れている」
「うん……」
「これは貴方…… 泉のルビーアイ出力量よ」
「うんうん……」
「咲子はそれよりも少ない水が出ているホース」
「それが、3分の2…… ね?」
「そうね…… そのホースをつまめばどうなる?」
「高圧洗浄の水になる…… かな……?」
「そうね…… そして、それが咲子よ」
「少ない水を圧縮し、放つ……? それって…… もしかして…… ママよりも……」
「ええ、桜子の勘の良さを最大限に引き出した…… 遙かに恐ろしい力よ…… 一撃一撃がとにかく重すぎるわ…… 単眼覚醒の私では勝てない程にね」
ママが、そう言った
私では勝てる事の無い、ママがそう言った
両親のルビーアイを受け継ぐ私が勝てない、真の覚醒者であるママよりも!?
「咲子は…… ママをも…… 超えたんだね」
「そうね、それに……」
「それに?」
「いえ、何でも無いわ」
そう言って、ママは目を閉じた
「その力で…… 咲子の力でも…… 無理なの?」
「ええ」
「じゃあ私に勝てるわけ無いじゃん!!!」
私は叫んだ
そんな事をしたことが無い
初めての、強い反発をした
悔しかった
いや、のうのうと…… この力に自惚れていたのは、私自身だ……
童話にある【ウサギとカメ】
私はウサギだ……
強さにかまけ、立ち止まっていた
ママに反発してもしょうが無い
そう思うと、私は冷静になれた
「ねぇ、ママ…… 咲子は…… 大丈夫なの?」
「いえ、大丈夫じゃ無いわ…… 多分今も…… 自分自身とも…… 戦っている」
悔しい……
私、負けたくない……
私が、負けるわけ無い
負けてなるものか……
「私…… 行くね」
「待って! もう21秒!!」
「待てない!」
私は振り向きリビング戸に向かう
それを遮ったのはライだった
「ダメダ…… 後17秒待テ」
「貴方まで何よ!? どいて!!」
「タイミング、ダ……」
「タイミング、タイミング、タイミング、タイミング、タイミング!!! もうウンザリ!! 決着付けてくる!!」
「泉…… オ前ハ誰ト決着ヲ付ケルト?」
「私は!!」
誰と決着を付けようと……?
もう、誰でも良い!!
誰とでも戦ってやるよ!!
「相手なんて知らないわよ! 憂さ晴らしがしたいだけ!!」
「ソノママデハ…… タダノ殺戮者ダゾ」
「ウルサイって言ってるでしょ!!」
「ソウカ…… マァ良イ…… 3…… 2…… 1…… 行コウ、大学へ」
私はドアノブを捻り、玄関へ向かった
「咲子を…… 咲子を最後まで信じて! 泉! 泉!! 絶対よ!!」
背中に向けて声を掛けたのはママだった
そんな事は識ったことでは無い
悔しいんだ
悔しいのよ、とても
私が…… 私が……
咲子に負けるなんて……
あり得ない
咲子に負けるなんて……
私は靴を履き、玄関の戸を思いっきり開けた
ガシャン! と大きな音が鳴る
何かが壊れそうな程の音色
妙に心地良い
壊すとは……
気持ちが良いことなの……?
いや、ただ……
私は……
誰よりも強くなりたいだけなのかも知れない
そう信じて居た私を……
超えた咲子に……
ただ、勝ちたいだけだ
ただの欲
ただ、それだけだ
私は道路に出ると、後ろから丸い物を手渡された
手渡したのはアーサー
手渡されたのはヘルメットだった
え?
そう思ったのもつかの間、道路には2台のバイクが設置されている事に気付く
そして、サファイア・アイで創り上げた物だと瞬時に判断した
「乗レ!! 行クゾ!!」
アーサーはバイクにまたがりセルを回す
ドゥルン!!
そう大きな音と共に車体が揺れた
そして隣でも同じ音色が周囲に響く
「戦イニ…… 咲子ヲ助ケニ行クンダロ?」
多分、もうアーサーは識っている
それを踏まえて、冷静さを取り戻させようとしている
そうだ……
別に咲子を倒すのが目的な訳じゃ無い
そうだ……
そうなんだ……
相手が違う!
今は、敵を倒す
忘れんな、私!
心の中でアーサーに言った
ありがとう
大好きよ……
そして私は口にした
「ええ! 咲子を助けに行くわ! 行こう、大学に!」
後ろを振り向き、私に視線を合わせるアーサーはコクリと頷いた
隣のバイクに乗るライにも視線を配る
フルフェイスのヘルメットから覗くその眼はニコリと笑顔を見せた




