87話 語られた真実
少し落ち着いた藍を見てホッとした私は奴に目を向けて言った
「さてと…… 私がアンタの手助けするわけないでしょ!」
「だろうね…… そうでないと面白くない」
「人の生き死にで面白がんな! 外道が!!」
フフフッと笑い私を直視する男
どうすれば良いのだ!?
完全に手中に堕ちて、尚、藻掻くことすら許されない
「なんにせよ、そういうこ事だ…… 咲子君、君は私の言う通りに動かなければならない…… 浅田君の為にもね」
「この……!!」
「そう怒るな…… 私は私に反発する輩、そして、殺したい輩を処理して欲しいだけさ」
「誰よ!?」
「泉だよ…… そして龍斗と胡桃だ」
何故そこでその3人の名がでる!?
解らない!
情報を、情報を少しでも!!
「どうして…… その3人なのよ!?」
「ふむ…… 龍斗と胡桃は私に刃向かったからだな」
「じゃあ泉は!? 関係ないでしよ! 会ってすらいないんだから!!」
「そうだな…… 会っては居ない…… だが、2人のルビーアイを受け継いだなら軽視も出来んよ」
そうか……
藍が、スティの学校案内の際に教授の口の動きを読んだ言葉
【泉】…… 【繋がった】……
何の意味があるのかと思っていた
中に入るのは【私】だ!
私の存在と泉が繋がった
私の傍に泉が居る
処分対象である、泉が!
だから本格的な行動に移ったんだ!
「どういう事なの!? 私が泉を殺すわけ無いでしょ!!」
「殺すよ」
「何でよ!?」
「浅田君の為さ」
「意味が解らない!」
「浅田君が不憫に思わないのかね? ずっと2人暮らしで?」
昨日藍を家に送った事を思い出した
帰り際に一人の女性、白髪の老婆を見た
優しい顔をした人だった
だから私は言った
「はぁ!? 藍は、お婆ちゃんと3人暮らしだよ!!」
「お前は阿呆か? 彼女は2人暮らし…… 母子のな」
え?
どういう事!?
まさか……
そんな……
あれは……
あの優しそうな白髪の老婆は誰だ……?
アレが母親だって……?
そんな……
母親なら…… 私の両親と同じ位の歳のハズじゃ無いのか……?
そこまでの苦労を……
女手一つで育ててきたって……
そんな…… そんな……
「解ったろう? 不憫に思えただろう?」
「だ…… だとしても泉も龍パパも胡桃ママも…… 何の関係も無いでしょ!! アンタに危害を加えてない!! そこに藍を巻きこむな!!」
奴は深く溜息をつき、首を振った
「巻き込む? もう巻き込んでいるだろう? 巻き込んだのは龍斗だがね」
「何を言ってるの!?」
「やれやれ…… なぁ、浅田君?」
ビクリと体を震わせた藍が口を開く
「は、はい……」
「君の苗字は母方だね?」
「は、はい…… そうですけど……」
「父方の苗字は解るかい?」
「いえ…… 聞いても教えてくれなかったから……」
「そうか…… 可哀想に……」
「……」
「じゃあ、私が教えてあげるよ」
「え!?」
驚いた表情を見せる藍
それもそのハズだ
むしろ、何故この男が知っているのかと疑問も持つ
そんな疑心暗鬼と好奇心の両方が垣間見える顔だった
「昔、この大学が高校だった頃に大きな火事があった…… それは結論としては泉の両親と咲子君の両親が起こした物…… そして、私との戦いの序章にあった出来事だ」
淡々と静かに話し出す高田教授
その顔は実に冷静だった
「龍斗はある男を一番最初のルビーアイの眷族とした」
「ルビーアイ……?」
「私の持つ、この紅い眼だよ…… 簡単に言えば超能力の様な物だ」
「それは…… ニュースの……」
「まぁ、そうだね…… 今はそれを話しても仕方が無いから、話を続けるよ?」
「はい……」
「その眷族を、もう今の自分には必要が無くなったから殺した」
しばしの沈黙の後、藍は言った
「その人が…… お父さん?」
「そうだ…… その高校の教員をしていてね…… 名は【藤田】という…… それが君の父親だよ」
「ふざけるな!!」
心のまま叫んだ
認めない
認めたくない
そんな事を龍パパがするわけ無い
その一心から出た言葉だった
「真実さ」
「うるさい! 藍! 話を聞くな! 心が持っていかれる! 記憶改ざんの力だ!!」
私の見た藍は、虚ろな目をしていた
呆然と地面だけを見て
ただフラフラと視線が左右に泳いでいた
マズイ
そう思って彼女の肩に手を置いた時、藍は言った
「でも……」
「え?」
「多分、真実…… でしょ……」
なぜだ……
何故そんな事を……
「藍…… 何で…… 何でよ……」
一番信じて欲しかった人に突き放された……
そう感じた……
藍は私を見た
その目は涙に滲む
そして……
「龍斗おじ様…… 私に謝ってた…… 『私が悪いんだ』って…… 『皆は悪くない、私だけを裁いてくれって』言ってたのよ…… それに『ありがとうと言うのは私の言葉だ』と…… 『私は昔……』って…… その後に繋がる言葉は……」
頭が真っ白になる……
言ってた
確かに言ってた
そして、藍を見た龍パパは言っていた
『これが贖罪か』とも……
あの謝罪……
胡桃ママの涙
ママの涙
パパの、藍を紹介された時の固まった姿
胡桃ママの、私と藍は『付き合わない方がいい』と言った言葉
『理屈では良くない関係』と
そして……
『私達の罪を貴女達に清算させる罪深さを許して』と……
コレが……
真実……か……
「なぁ、浅田君…… 君はどうしたい?」
奴が藍の目を見て言った
彼女は答えた
「私……」
一度つぐんだ口
その表情は歪み、悔しさが見える
そしてもう一度口を開く藍は……
小さな決意が見えた
そして、言った
「龍斗おじ様を…… 許せません……」
「……だそうだ、咲子君」
私の中で、何かが……
切れぬようギリギリで留め、張り詰めていた糸の様な物が……
プツリと弾けた
「解ったよ、藍……」
実にクリアだ
脳内にノイズは無い
感じる事の出来る、奴の【記憶改ざん】の匂いはある
でも、操作はされていない
だから解る
罪は裁かれるべきだ
その時、遠くから走り寄る足音が聞こえた
2人……
いや、3人か……
誰かはモウ解っている
多分、泉…… そして、ライとアーサーだ
私は藍を、もう一度見た
親友だからじゃ無い
でも、親友だから救いたいと言う気持ちはある
だから、私は言った
「藍がソレを望むなら…… 龍パパは…… 私が殺す」




