83話 捜索
「逃げずに戦う、か…… そうね…… その通りよ、藍♪」
「それでこそ咲ね♪」
そう言って、私達は笑い合った
「でもね、藍…… やっぱり危険な事は変わらない…… 本当は大学から離れて欲しいけど、それが無理なら…… 事が済むまで校舎に隠れててくれない?」
「校舎に隠れる? どこかに居れば良いの?」
「んーん、ホントの意味で、人目に付かないところで隠れて欲しいの」
「そっか…… 更衣室とかは?」
私は考えた
奴が女子更衣室に入るとも思えない
いや、奴の手下が居れば…… ソレも安易か……
でもトイレにずっと、ってのも厳しいよね……
「うん、それでも良いよ♪」
私はその提案に了承した
「てか、何時まで隠れておけば良いの? まさか徹夜じゃないよね……?」
「それもそうね…… うーーーん…… 可能なら夕方の6時まで、かな?」
「今は4時まわったとこよ? 2時間も!?」
「まあ、ね…… でもやっぱり6時ね……」
「やけに6時にこだわってない?」
藍は私に苦笑いを向けた
「こだわってるよ……」
そう、こだわってる
キーになるのは6時
ジャッジメンターの忙しくなる、そう言っていた18時、つまり夕方6時だ
私の予想が確かなら、プランBが完了するのが6時
多分…… 多分だが……
その時間が、一番安全といえると判断したのだ
「じゃあ早速隠れてね!」
私が踵を返した背中に藍が言葉を掛けた
「咲は?」
「私はラスボスを探すわ♪」
「そっか…… 本当に気を付けてね!」
「大丈夫よ! 私は強いから♪」
藍に力強くピースサインを向け…… 私は走った
「とりあえず1階からしらみ潰しに探すしか無いかな……」
そう呟き、私は走る
状況が状況だ
NGの無い程度にラピスを使うしか無い
時間など、有ってないような物だ
奴を早く止めなければ……
そう思い、私は私の身体能力を増した
やんわりとした紫色の蜃気楼が体を包み、羽根のように軽くなる感覚
それに身をゆだね、1階に向けて走った
ガラガラガラガラ!!!
戸が開く
ここは1クラス目だ
中には誰も居なかった
次!!
2クラス目
数人の男女が居る
「ねぇ、高田教授見なかった?」
(見てないよ?)
「そっか! ありがとー♪」
次!!
次!!!
次!!!!
次!!!!!
あっと言う間の1階だったが、奴の情報は皆無だった
教室に生徒不在や、居ても有力な情報は無い
折り返し2階
折り返し3階の20クラス目もまた誰も居ない
これほどまでに不在というのもあるのだろうか
教室の中に歩みを進め、窓へと向かう
そこには大きな競技場が目下に広がっている
その中心に大木が【井】の字に組まれていた
キャンプファイヤーかな?
大きな競技場とはいえ、危険では無いだろうか……
いや、フォークダンスをするって、前に藍が言ってたような?
それで校舎に人が少ないわけね……
でも、昔の理科室のような火災は御免だよ……
そんな事を思いつつ、私はまた廊下に出た
すぐ目の前には北側連絡通路が見える
「次は西棟か……」
一気に駆け抜け、西棟に着いた
大きなDIY室、視聴覚室
どんどん南に走り、理科室が見える
そのドコにも奴が見当たらない
「次は2階! 一体どこなのよ!?」
西棟2階も颯爽と駆け抜け、1階に降りた
1階の北側には巨大体育館がある
また戻るのも面倒だ
西棟を南に向け走る前に覗く事にした
ガガガガガガガゴゴ……
大きな音を鳴らし、これまた大きな鉄製の扉を開ける
だが、やはりそこにも居ない
「次は西棟か…… てか、こんな時に限って…… いつも居て欲しくない時には居るのに……」
そんなボヤキが出るのも仕方ないよね……
私は気を取り直し西棟に走る
最初に見えたのは職員室
中を覗くが、見当たらない
南に南にと次々見ていくが、高田教授は居なかった
そして生物学研究室もまた、その姿は無かった
「ホントに一体ドコよ!?」
そんな事を叫びながら昇降口に向かう
外履きに履き替えて競技場を見て回る事にした
大きすぎる競技場
特に今はキャンプファイヤー準備の最終段階
人ゴミに酔いそうなほど生徒がうごめく
少し高い所からなら姿が見えるかも?
そう思った私は昇降口に戻る事にした
踵を返したその時だ
突然声を掛けられる
「咲!」
声を掛けたのは藍だった
「藍!? 隠れててって言ったのに……」
どちらかと言えば、アクティブな藍にはジッとしてるのは無理だったのかも知れない
そんな事を思いつつ……
「もう…… ホント危険なんだからね!」
「ごめーん!」
そう言い、反省してるのかしてないのか…… 藍はペロッと舌を出して謝った
「でもね、更衣室に居ても、出入りとか激しいしさー…… ドコも中々入れ替わりあるよ?」
「そっか……」
「だから敵探し手伝いに来た♪」
「ダメ!」
「でも2人の方が早いと思うよ?」
「ダメったらダメ!」
「もう!」
ふくれっ面を見せる藍
それでも、危険は危険だ
ダメなものはダメなのだ
「ホント解って…… もう巻き込みたくないのよ……」
一度首を傾げた藍が私に問いかける
「【もう】って事は…… 巻きこまれ済みなのね?」
う……
私に遜色ない位、勘が良い……
力に気付いた事といい、感服だ……
「そ、そうね…… でも、私が守るから大丈夫!」
「ありがと♪」
「いえいえ♪」
「じゃ、探しに行こー!」
「ダメだってば!!」
藍がすぐ着いて来ようとして気が抜けない
「咲は頭固いよー!!」
「だから危険ってば!!」
「もう!!」
そう言って藍は私に紙コップを手渡してきた
「ん? これは?」
「まぁ、これでも飲んで落ち着いて♪」
その紙コップに入っていたのは葡萄ジュースのようだった
「ん♪ ありがと!」
私はソレを受け取り、近くのコンクリート製の階段に2人で腰を下ろす
ノドも渇いた頃ではあった私は、葡萄ジュースをに口を付けた
何度目だろう
今日も随分と見舞われたモノ
悪寒
またソレが背中を走る
コレは
ダメだ!!
口に含んだ葡萄ジュースを吐いた
そして、紙コップごと遠くに投げた
隣を即座に見る
藍が紙コップを口に咥えている
その手を叩き落とす
紙コップは手元でひっくり返り、地面に葡萄ジュースが溢れた
藍は…… 藍は!?
今まさに、そのジュースをノドに通そうとしている瞬間を見逃さない
私は藍の頭を無理矢理こちらに向け、そして思いっきりキスをした
そして、キスをしたまま口の中の葡萄ジュースを全て吸い上げる
口の中に、もう無いと解っていても、確証が有るまで呼吸の続く限り吸い込んだ
そして、地面に向かって吐き出した
「ゲホッゲホッ…… 咲! いきなり何すんのよ!?」
彼女は怒り顔で私を睨む
「緊急時よ……」
「訳分かんない! 私、ちゃんと男性が好きって言ったじゃん! それにキスして吐き出すとか有り得なくない!?」
「緊急時だって! それに誤解してる! 私もライ一筋よ!」
突然ニヤニヤした藍が何を考えているかは想像が付く
「ほほー! ライ一筋ねぇ……」
「言うと思った…… てか、そんな事はどうでも良い! このジュースはドコから!?」
「え? 校内でもココの競技場でも配られてるよ?」
「ホントに!?」
「うん、差し入れだよ?」
「誰の!? いや、まさか!!」
「ん? 高田教授らしーよ?」
「やっぱりか!!!」
コレもまた何度も感じた事の有る匂い
この葡萄ジュースから香るのは、ルビーの残り香だ!!
しまった!!
そういうことか!!
謎が解けた!
鍵だ
この中には鍵が入っていたんだ
教授が連れてきたウサマル……
あの、皮一枚の様な痩せ細った姿
私が採血した、あの奇妙な血と思える物
一瞬の、殺さないレベルでのルビーアイの発動
それによる【懐いた姿】
それこそ【従順】
奴の言っていた【従順の方法】
ウサマルの持っていた鍵
葡萄ジュースに混入されていた物
それはウサマルの【血、自体だ】!!




