79話 ウサマル
合わせていた手を下ろす
足元には、足首に体を撫ですりまわすマインラットが居た
良かった……
安堵の溜息が口から漏れる
私は腰を下ろし、マインラットを撫でた
「ねぇ、多分、君から奴は…… 鍵を奪ったんだね?」
「ピ……」
「私の言葉、解る?」
「ピ……」
愛くるしい顔と姿で反応はするものの、言ってる事が伝わっているとは到底思えない……
「とりあえずさ、君は逃げた方が良いよ…… 奴にまた利用される前に……」
「ピ……」
そう鳴き声を出すと、キョロキョロと周りを見だした
言ってる事が伝わってる……?
でも、ココじゃドコに逃げても安全とは言えない……
さて、どうしたものか……
「ねぇ君…… 後で必ず迎えに行くから、呪の穴に隠れるなんてどう?」
「ピ……!」
真円で、首があるとは思えない姿のソレは、その胴体からマッチ棒のように伸びた足の付け根を軸に、何度もコクコクと頷いた
やはり…… 伝わっている
納得してくれたとはいえ、呪の穴はどうやって開ければいいのだろう……
終焉の扉を開ける事を知ったのですら今先程なのに……
いや、まて……
考えろ、私……
スティは言った
『右手は現世、左手は黄泉……』
ソレは、置き換えれば、右手は未来、左手は過去…… か?
なら、右手は創造の【無の穴】、左手は破壊の【呪の穴】でもあるのか……?
そうか……
それならば合点がいく……
終焉の扉は、【最後は誰もが行き着く世界】だとも言っていた
【創造】と【破壊】の混合した先が【終焉】か……
やってみる価値は有る……
私は左手を上げ、扉を開く…… そう、イメージを広げた
そして、掌を見る
何かが起きている気配は無い……
作るというよりも、開くというイメージか……?
両手とは違い、片手で開くなんてイメージが出来るのだろうか……
いや、開く、ならば……
慣れるまでは、扉を広げるってのがイメージが付きやすいかも……
私はイメージを込め、それと共に左手を握り締めた
そして、広げるイメージ……
ゆっくりと、握り締めた左手を、小指から親指にかけて…… 順にほどく……
ある
針の穴の様な、空間に穿たれた黒い穴……
解る
ココから漏れ出るオーラは……
ルビーの残り香と同等の物だ
開け……
すこしずつ、形を変え、穴が広がる
直径30㎝程度に広がった所で私は穴の広がりを止めた
「さあ、隠れて!」
「ピ!」
またコクコクと頷くとマインラットは穴にぴょんぴょんと飛び跳ねながら向かう
そんな生物に私は再度、声を掛けた
「ねぇ、貴方…… ずっとマインラットって言うのも面倒だから名前付けてあげる」
「ピ♪」
私に振り向いた生物は目をキラキラさせていた
「んーー…… ウサギっぽくて…… まん丸…… ウサマル…… 貴方の名前はウサマルよ♪」
「ピピピ♪」
安直に考えた名前だったが、まあ、気に入ってくれたらしい……
「さあ、ウサマル…… また後で♪」
「ピ!」
そう鳴き、また穴に向かい、入る直前に私に向き直ると会釈を一度して穴の中にピョコンと飛んだ
さて、これで当面のウサマル周辺は安泰といえるだろう……
ただ、今後の為に知っておくべき知識の疑問を解き明かしておかなければならない
ジャッジメンターの言っていた【場】とやらだ
この力を100%使いこなすには、教えて貰えなかった【場】を解明するべきだろう……
力……
それを精密に、そして確実に上げる方法になるはずだ……
なんだ!?
ココに何があると……?
私は辺りを見渡す
実験器具
ウサマルを隔離していたガラスケース
沢山の精密機器
そして、実験台……
到底、何かしらの力に結び付きそうにない物ばかりだ
それ以外の何か……
場所では無く、要因か?
ココで何があった?
ウサマルの血の採取?
いや、それならその時に力の上昇を感じられたはず……
違う……
別の何か……
直前の出来事か?
直前……
直前…
直前
直前、スティに会った……
スティか!!!
そういえば、学校案内の時にも……
理科室で異様な気持ち悪さにみまわれた
その後、自分自身に使ったルビーアイ……
そうか……
精度が増していた!!!
コレか……
合点がいった……
この力は共鳴するのか……
能力者同士が近くに居ると、力が増すのかも知れない……
家族とタッグマッチなんてしたこと無いから、今まで気が付か無かった訳だ……
そうだ……
今思えば、チーマー達との最初の戦いの際にライが掛けてくれたサファイアの盾……
昨日ライが用意してくれたディープ・サファイアを纏った案山子……
私が案山子を破壊した際に、ライは【強めに力を掛けたのに】と言っていた
でも、思えば、ディープ・サファイアを掛けて無いはずのチーマー戦の盾と、同等クラスの物だった様に感じる……
あの日……
あの場に居たのは、ルビーアイが2人、サファイア・アイが2人だ……
間違いない
力は共鳴し、周囲の能力者に関与するんだ……
ん?
いや、まて……
同じ研究室に出入りしている高田教授も覚醒ルビーなのよ?
人前で気軽に使っていないとはいえ、今だかつて、教授との共鳴を感じた事が無かった……
何故!?
もう無理だ……
時間が無い……
もどかしさが積もる
共鳴の範囲の実験をし無ければ、結局、敵の能力も底上げするだけじゃないか……?
今更、そこまでの時間は無い……
間違いないと思われる共鳴……
能力者が居ても共鳴の発動が無かった事実……
何の差が、違いがあるのだろう……
ダメだ……
考えても解るわけが無い
泉も、ライも、アーサーも居ない
味方が居なければ実験も出来ない
何よりもう、時間が無い
さすがに諦めた私は、無菌室を後にした
無菌室を出て、生物学研究室、そして廊下へと歩みを進める
いつもの如く、長い長い廊下が私を出迎えた
色々な問題解決が有り、そして更なる疑問も増えた
疑問となる【場】の能力干渉
これはどう見ても時間が足りない
安易に考えても、どうにもならないことは認識している
だが、総合的に、その【場】に居る者達に影響を与えるのであれば、私達にであっても有利性は変わらないのでは無いだろうか……
いや、コレも安易か……
だが、解決しないのであれば、解明は出来ない
どうしようも無い事は、この際、後回しだ
今はとりあえず、ウサマルの安全確保が出来ただけでも良しとしよう
そう自分に言い聞かせた時だった
「咲子さーーーん!」
突然、廊下の先から声を掛けられた




