76話 終焉の扉
大学に着いた
校内からも、校庭からもガヤガヤと声がする
そういえば今日は文化祭だ
授業は無い
この騒ぎは催し物の最終チェックだろうか?
昨日までに済ませとけばいいのに……
そう思いもしたが、準備に全くと言って良いほど参加していない私に言う権限は無い
私は苦笑いを浮かべながら生物学研究室に足を向けた
今日、未確認生物【マインラット】が帰ってくる
いや、もう居るかも知れない、元々居たかも知れないソレを確認しに行かなければならない
生物学研究室と書いてあるプレートを掲げた部屋の戸を開ける
中には誰も居なかった
都合が良い
そう思い、無菌室に向きを返す
衣服等の殺菌をし、スッと静かに開く扉を抜ける
中に入った私は、口を手で覆った
マインラットの入っていたガラスケースに、ソレは居た
以前と同じ様に、ソコに居た
ただ……
痩せ細っていた
そんな言葉では語弊がある
皮だ
もはや骨に皮が付いている程度の憐れな姿だった
声にも出せず、私は思った
なんだ、コレは……!?
ゆっくりとまばたきをする生物
生きている
私は壁に取り付けてある棚に走った
ガチャリと音を鳴らした扉の中には栄養剤が有る
すぐにキャップを外し、注射器で吸い上げる
そして注射器内の空気を抜き、その生物の体に針を刺した
ゆっくりと、ゆっくりと……
親指に力を込め……
少しずつ注入する
ピ……
マインラットが声を出した
でもそれ以上は動かない
どうすれば……
そう思った時だった
「何ヲシテイルンダイ?」
背中に声を掛けられビクリと揺らした私の体
振り向いた先に一人の男性が居た
全身白色の姿
印象的な白いフェルト帽
青みがかったサングラス
プロフェッサー・スティだった
「プロフェッサー・スティ!」
彼は首を傾げ、
「ン?」
と、私の顔を覗き込む
「この子が…… この子が!!! こんな姿に!! 何!? これはどういう事なの!?」
私は訳も解らず叫び散らして居た
何故、こんな事になっているのか想像もつかない
自分自身を抑える事が出来ずに居た
彼は私の姿を見て、より冷静に居られたのか、静かに肩に手を置いた
「咲子…… 落チ着キタマエ……」
「でも! でも!!」
「イイカラ! 先ズハ深呼吸シナサイ!」
「は、はい…… はい……」
私は何度も頷き、そして深く、深呼吸をした
「……落チ着イタカイ?」
そう彼は話し掛けてくれたが、正直、落ち着いてなど居ない
落ち着けるわけは無い
この生物は、何かしらの鍵を握っているのだ
死なせるわけにはいかない
いや、その鍵すらも、この姿のソレは……
もう、奪い去られたかも知れないのだ……
でも、心配してくれているスティに対しての心を無下にも出来ない
そう思った私は、
「はい……」
とだけ答えた
不意に彼は言った
「コノ生物ヲ助ケタイカイ?」
私は、出来るものならば……
その一心で、また何度も頷いた
「ソウカ…… ナラバ手ヲ合ワセナサイ」
「手を?」
「ソウ…… コンナ風ニネ」
そう口にし、彼は両掌を合わせた
仏壇に、神にでも祈るように……
そして、その後、人差し指と親指を付けたまま、静かに掌の中央を丸く開いた
「何を……?」
「レクチャー」
「レクチャー?」
「ソウ、ニア・ラピスノ咲子ナラバ、本当ノ扉ノ開ケ方ガ出来ルカラネ」
何故……
何故、ニア・ラピスだと知っている……!?
いや、今はそんな事どうでも良い
助けなければ、コノ生物を!
私は彼の姿を真似、手を合わせ……
そして、その中央を開いた
何が起きたのか……
いや、何も起きては居無い
私は彼を見た
「足リナイ……」
スティはそう言った
「え?」
「想イガネ」
「想い……」
「ソウ♪ イメージ…… 現世ト黄泉ヲ合ワセ…… 開ク扉…… ソノ右手ハ現世…… 左手ハ黄泉」
「右手は現世…… 左手は黄泉…… 扉を開く……」
もう一度……
目を閉じ……
心を込め……
イメージを高める……
私なら出来る
私だから出来る
今の、私なら……
アノ世界を知っているのだから……
私の丸く空いた両掌の隙間に紫色の空間を見た
針の穴ほどの、小さな小さな紫色の玉
ソレがうねり……
広がり……
掌にへばり付く……
その穴からは、小さな稲妻が迸って居た
「出来タネ…… 大シタ才能ダ……」
「スティ…… これは……?」
「ゲート」
「ゲート…… 扉……?」
「ソウダ…… ルビー、ソレハ破壊ノ穴ヲ作ル眼…… サファイア、ソレハ創造ノ穴ヲ作ル眼……」
「眼……?」
「ソウ、ソシテ…… ラピスラズリ……ソレハ誰モガ行キ着ク、終焉ノ世界」
「終焉の世界…… まさかコレは……」
「察シノ通リ…… 名ハ…… ゲート・オブ・カタストロフィ」
「ゲート・オブ・カタストロフィ…… 終焉の扉……!?」




