66話 スローモーション
私の体が大きく揺れる
肩に手を置き、揺さぶるのはライだった
目を開け、ライを見る
そのまばたき
【何を言ってるんだ!? 殺してだって!? そんな事が出来るわけ無いだろう!!】
私は少し笑い、目で伝える
【大丈夫よ…… 私は死なない】
【何を言ってると聞いてるんだ!! 君はドコに辿り着きたいんだよ!?】
【ココでは無い、ドコか…… よ】
【それはドコだ!!】
【解らないわ…… 解るために、殺して】
【無理だ!!】
【大丈夫よ、ライ】
一呼吸置き、私はライに伝えた
【貴方が覚醒した時に…… 神に成った時に、私をココに戻して…… 貴方は神の領域に近いんでしょ?】
ライの体が強張るのを感じる
【君は…… 識っていたのか?】
【ライの本気の事?】
【まぁ……】
【うん、識ってたよ】
【いつから識っていたんだ……?】
【昨夜、藍に、私の両親達が謝罪みたいな事をしてる時にね…… 貴方だけは何か識ってるようだった…… だから覚醒直前なのかなぁ、別の何かが見えているのかなぁってね……】
【そんな事で……】
【私はね、恐ろしい程に勘の良いママから生まれたのよ♪】
【桜子さん…… 恨むよ……】
【そう言わないでよ……】
そして私達は笑った
【ねぇ、貴方のサファイア・アイをくれたのは神様なんでしょ?】
【ああ】
【じゃあ最悪の時、もしも私が死んだら蘇らせてね】
【無理だ…… 自分から死を選ぶ者を、彼は生き返らせない】
私はフフフと笑った
そして、言った
【やっぱりか……】
【やっぱり?】
【ライ、貴方の近くに神様が居るんだね?】
【咲子……】
【大丈夫、それも多分そーかなぁってね♪ 神様が現れて、力をくれた…… その力を育ててくれた…… だけど、その後にその場所を去ったお話がまるで抜けている…… それはこの世界に、多分、アメリカにまだ居るという事…… 当たりでしょ?】
【……大した者だよ】
そう言ったライは笑顔を向ける
【その神様が蘇らせてくれなくても、貴方がソコに辿りつけば蘇生は叶うわ♪】
【それでも嫌だと言ったら……?】
【その時は……】
一瞬、私は考えた
でも、強くなる為には……
コレしか無い
【自分を消して、世界と、宇宙と…… 1つになるわ】
【君という人は…… そこまでして…… 強くなりたいのか?】
私は頷いた
【勿論よ】
私の考えはもう決まっている
誰よりも強くなる
中途半端な力など要らない
絶対的な力が欲しい
【でも、君を殺す事は出来ないよ】
【それも勿論解っているよ…… 語弊が無いように言っておくけど、死にたい訳じゃないわ…… 殺して欲しいと言っているだけ】
彼は首を傾げ、質問を掛けて来る
【何の違いが?】
【死にたいから殺して欲しいのじゃなくて、圧倒的な力で殺意をもって振って欲しいのよ】
【何を?】
【昨日、貴方が見せた…… 振った剣を、よ】
【そうして、どうする?】
【私は、私を守るために、その力に対峙するわ…… ただ斬られる訳じゃ無い…… 抗うわ…… ちゃんとね…… じゃ無いと、見えないもの】
【見えない? 何が?】
【世界】
【世界?】
【そう、世界よ】
【そうか…… そういう事か……】
【そういう事よ】
彼は大きく頷いた
【解ったよ…… 君を殺さない…… でも、殺すつもりで剣を振ろう】
【ありがとう♪】
目を閉じる
スゥゥ…… ハァァァ……
私は心を整える為に、深呼吸をした
そして、彼を見た
【ねぇ、ライ……】
【ん?】
【手加減は無しよ】
【……解っているよ】
その悲しそうな表情を戻した彼
恐ろしい程に
純粋に
悪意と
殺意を持ち
その手の中でグニャリと曲がって、直後、美しく直線を形作った剣を持つ
そして言った
【いくよ】
【うん、どうぞ】
彼の目が少し、細くなる
振り上げた剣に、空いたもう片方の手を添える
右足を一歩進める
来る
フフフッ
私は今、ココで
私の人生を終える
そこまで思って、少し躊躇した
人らしい感情に支配される
死にたくない……
やっぱり……
死にたくないよ……
ライの両手が、その剣と共に振り下ろされる
妙に、現実味の無いスローモーション
アドレナリンの分泌量が本来の限度を超える
ルビーアイで身体能力と感覚を増しても、尚、追いつかない人間の神秘
そして走馬灯
今までの出来事が脳裏に浮かび、そして消える
両親に連れて行って貰った、数々の旅行も……
泉と泥だらけになりながら遊んだ、あの公園も……
初めて買って貰い、背負ったランドセルまでもが鮮明にビジョンを綴る
もう
目の前まで振り下ろされた、その剣
生々しい切っ先をキラリと流れる日の光もまた美しい
ダメだ
怖い
やっぱり
やっぱり……
死にたくない……
私はルビーアイを発動し、その剣との間に硬化した腕を潜り込ませた
ゆっくりと
切っ先が落ち
腕がその剣で押され……
へこむ
その部分はゆっくりと
そして弾け
二分された
そのまま、美しい弧を描く剣は……
私の首元から
私の胸に到達し……
私のお腹の辺りまでを、一気に走り抜けた
一瞬、止まった時間を感じる
その時間が、流れを取り戻した時に感じたのは
焼けるような熱さの痛み
宙をクルクルと車輪の様に回る……
私から離れた、腕
そして噴水の様に空に舞う
私の鮮血だった……
意識がこの世から離れる間際に声を聞いた
誰の声だろう
「咲子! 逝くな!」
そんな言葉に聞こえた
終わり
終わりを感じる
この焼けるような痛みもまた
なんら変わりの無かった日常の様に、融けていく
私の目にはただ……
本当にただ……
まだ青々とした空が映った




