65話 願い
あの空き地に舞い戻る
戻りたくは無かったが、どう考えてもこの場所が最善だと私は思った
【ねぇ、ライ……】
【ん?】
【サファイア・アイを見せて欲しいの…… 見せて貰える?】
【ここでかい?】
そう言ったライはキョロキョロと回りを見渡した
【そう、ココなら音も外には漏れないし、最高だわ♪】
【なるほど…… 特訓だね?】
【特訓…… まあ、近いけど違うわ……】
【へぇ…… どんな風に?】
【特訓じゃ無くて、覚醒よ】
彼は眼を見開き、私を見た
その眼を私も見つめ返す
そして言った
【貴方の経験談…… 昨日貴方が助けてくれた、その時に知った経験…… 私の経験…… 胡桃ママの見せてくれた経験…… それらを私の中で混ぜ合わせる】
彼は私を、ただ無言で見ていた
【私はね…… 私のままでは弱いの…… だから、私は私を超える……】
【そんなに簡単じゃ無いよ、覚醒はね】
私は頷く
そんな事は識っている
識りすぎているのだ、そんな事は……
だが、もう1つだ
私の強さのピースを埋めるのは、彼のサファイア・アイ……
そのワンピースが整えば、あるいは……
【もう少しで…… 何かが見えるハズなのよ……】
彼は目を閉じ、そしてそのまま頷いた
次に眼を開いた彼
その眼は
美しいオーシャンブルーの瞳を、より濃くディープブルーに変えた、サファイア・アイだった
【いいだろう、咲子…… 君の力に成れるのなら、喜んでレクチャーしよう】
私は笑顔で、
【ありがとう】
そうまばたきで伝えた
そしてライはディープブルーのサファイア・アイを少し細め、笑顔を見せた
【で、何を、どう見せれば良い?】
そう言ったライに、私の力のイメージを伝える
【咲子…… 君って人は、なんて恐ろしい事を考えるんだ……】
そう言ってライは苦笑いを浮かべた
私は、その苦笑いとは真反対の笑顔をライに向ける
【だって、コレが私の力のイメージだもの♪】
【なるほどね…… いいだろう…… それに、使いこなせれば流用生が高い…… よく考えたものだね♪】
【フフフッ…… そしてね、もう一つ湧いたイメージがあるの】
【ほう? どんな?】
もう1つのイメージもまた、繊細に、確立したイメージと共に伝えた
【そんな事が…… ルビーアイに出来るとは思えないが…… まぁ、やってみる価値は有る、かもな……】
【まずは……】
彼が頷き、右手の拳を握る
親指からパラパラと開かれたその掌には野球ボールが乗っていた
【野球ボールなの?】
【いや、なんでも良いんだけどね…… ボールの方が咲子の持つイメージが付き易いだろう?】
【なるほど! そうね♪】
私はボールが現れる瞬間を見逃さなかった
そこには、有るとは思えない程の小さな黒い穴があった様に見えた
その針の穴の様な、空間に穿たれた闇から、グニャリと捻じ曲がって、やがて本来の形を整えた野球ボール
私はソレを手に取った
【野球ボールって、こんな模様で、網目で、大きさなんだね……】
そう言って、ボールを撫でた
両手で握り込んでみた
縫い目を指でなぞり
人差し指の上に乗せ
指で弾く
ライは眼で言った
【そう、ソレで良い…… イメージだ…… 野球ボールなんて間近で見る事も無いだろう? 】
【そうだね…… 知らなかったよ……】
【生きる事には、なんら必要の無い知識でもいい…… 些細な事でも知識として蓄積させるのは無駄じゃないよ】
【そうだね♪】
そして私は目を閉じた
感覚で触る
そして、感覚で包んだ
大きさ
そして触感
硬度
見ていた時とは違う情報が私に流れる
目を閉じたまま、私はボールに指を立てた
そして静かに……
ルビーを発動した
指の根元にボールが触れる
私の指がソレを突き抜け、穿った
刺さったソレから、指を引き抜く
そして掌に乗せる
ボールを壊さぬよう、細心のコントロールでソレをルビーで包む
ピキッ……
ボールが悲鳴を上げた
もっと優しく……
でも、力の密度を上げ……
ボールから、さほども離れぬ所にルビーのベールを縫い込むイメージ
ソレを目を閉じたまま、続けた
無心にその行動を続けていると、何故こんな小さな事をしているのかと、集中力が鈍る
世界からすれば、小さな私が、更に小さいボールで遊んでいる
そんなちっぽけな物事
目を閉じたまま
私はライに頼んだ
「ねぇ、ライ?」
【ん?】
「私を殺して……」




