56話 男親ってツラいよな……
リビングは闇
隣接する空間であるキッチンだけが光りを点す
ソコに見える2人の男性、龍斗と修は再度冷蔵庫へと手を掛け、中から缶ビールを2本取り出した
先程、空にした空き缶はグシャリと潰してゴミ箱へと放る
新しい缶へと指を絡ませ、彼等は開けた
ふぅ……
一口、喉を通した2人
お互いが、お互いを見て笑う
そしてまた、暗闇に…… リビングに目を向けた
「咲子も、もう…… そんな歳かよ……」
先に口を披いたのは修だった
「だな…… 泉もな……」
次いで言葉にしたのは龍斗だ
そして目を閉じて笑った
「早いモンだな♪」
「だな♪」
「俺らは2つで1つの家族だ…… 悲しみ半分…… 喜びは2倍♪」
「ああ♪ 子供達の成長を2人分まとめて見れるなんて、そうそう無いぜ?」
「だよな♪ いずれ……」
そこまで言った龍斗が口をつぐむ
そんな龍斗に視線を向ける修
「いずれ、何だよ?」
「ん…… 結婚すんだろーな…… ってな」
「考えたく無いけどよ…… ま…… そうなるわな」
「だよな……」
2人は押し黙る
「なあ…… 昔よ…… まだ咲子も泉も小さい頃、幼稚園位の時かな…… ディズニーランドに行った事を覚えてるか?」
先に口を開いたのは修だった
「覚えてるよ」
龍斗が答える
ビールを口にし、修が笑って足元に視線を移した
「何だよ、修? 気持ち悪いな……」
「お前にはよ…… 凄ぇ感謝してんだ、俺……」
「だから何をだよ?」
「ディズニーランド行った時な…… 咲子がはしゃぎ過ぎてさ…… 園内を流れる川に落ちちまった事あったよな」
「あったな♪」
「あん時、俺…… 川に飛び込もうとした」
「ん?」
「それより先にお前が飛び込んだ」
「ああ、そうだったな……」
「龍斗の事な…… コイツ、凄ぇって思った…… 自分の子供じゃ無くても本気になれるんだなってよ……」
「咲子だって俺の子供だぜ?」
修は暗いリビングに目を向けながら何度も頷く
「おうよ! そりゃ解ってる♪ でもな…… 何てゆーか…… 俺達6人で1つの家族だなってよ…… 本当に何か…… 実感したんだわ」
「そっか……」
そう言った2人は顔を見合わせる
そして笑った
龍斗が口へ運んだビールをまた手元に戻すと、修に問い掛ける
「修よぉ…… じゃあコレは覚えてるか?」
「何をだよ?」
「俺達って本当に病気しない…… いつも健康だ」
「だなぁ! 幸せなこった♪」
「ああ♪ でもな…… ディズニーランドに行った同じ頃にさ、泉がインフルエンザに掛かった事ある」
「覚えてるさ♪ あの時ばかりは俺達も感染ったよな! ククク……」
「そうそう! でな、お前も俺も出張中だった」
「そうだっけ?」
修は首を傾げた
本当にそこまでは記憶に無いようだ
少し申し訳なさそうな顔を見せる修だったが、龍斗は首を振る
「気にすんな♪ 別にソコをどうこう言いたい訳じゃ無い…… ただ、その時な…… 俺は胡桃からその連絡を出張先で受け取った…… 居ても立ってもいられず出張を切り上げて直ぐに帰って来た」
「そんで?」
「真っ直ぐ向かったのは幼稚園さ」
「お前ならそうするわな♪」
「ああ…… でもな、幼稚園に泉の姿は無かった…… 幼稚園の先生が【親御さんが迎えに来た】と言っててさ…… そして【近くに在る個人病院に連れてった】と聞いたんだ」
「ほう?」
「俺は思ったよ…… 胡桃か桜子が迎えに行ったってな」
「ん? 違ったのか?」
「ああ、違う…… 迎えに行ったのはお前だよ、修」
「え!? 俺か!? 悪ぃ…… マジで覚えて無ぇわ……」
タハハと笑った修が頭を掻く
その顔を見た龍斗も笑顔を見せた
「だから気にすんなって♪ お前がさ、俺に感謝してるなら…… 俺も修と同様に感謝してる! あの時は胡桃と桜子も動けなかった…… 地域の会合だったかでさ、それでも早めに切り上げる事は出来た様だったけど、それよりも修が早かったんだわ♪ 泉の為に…… そこまでしてくれるお前が家族で…… 本当に良かった……」
はにかんだ表情を浮かべる龍斗
だが、恥ずかしさ故か修の顔は見なかった
真っ直ぐ電気の消えたリビングを見ながら、残りのビールを一気に飲み干した
「はぁ……」
「はぁ……」
そんな溜息を2人が溢す
「いずれ…… 俺らの元から旅立つんだな…… 子供達はよ……」
それはどちらの男親が先に出した言葉だろう
「男親って…… ツレぇよな……」
「男親って…… ツレぇよな……」
そんな言葉は龍斗と修の口から同時に出た
電気が点いたキッチン
そして暗いリビング
その扉には隣接する廊下と階段がある
そこにも電気は点いていない
だが、そんな暗闇の階段に2人の女性が座っていた
1人が呟く様に、もう1人へと声を掛ける
(良い旦那持って幸せだね、胡桃♪)
(うんうん♪ お互いに良い人見付けたね! 桜子♪)
そう言って2人は笑った




