54話 行き着いた答え
ママが3人分のコーヒーをダイニングテーブルに置いて座った
そして、
「あの日の、ルビーを持っていた私でも解るわ…… 胡桃の桁違いの強さはね♪」
そう言って、一口、コーヒーをすする
背後に居た胡桃ママは、てくてくと歩き、元居た椅子に座った
「ルビーの涙はね、呪の穴を開けた際に流れ出るらしいの…… でもね、私や彼のように瞬間的に自分だけの小さな穴を開け閉め出来るなら、漏れ出たりはし無い」
「彼?」
「加藤という人よ…… 私達の恩人…… 一番巧くルビーアイを使いこなせた人よ」
「今は?」
ママ達は悲しい顔をして見合わせた
そして私に向き直り、言った
「先の戦いで、逝ったわ…… 私達を助ける為に、ね……」
「そうなんだ……」
「でね、話戻すけど、力の未熟な人…… まあ、単眼が、かな? あ、私以外の、ね! が、使うと大穴空いちゃうの…… そうするとそこは異世界…… そこから漏れ出るのよ」
「それが、ルビーの涙……」
「そう、それは血のように見えて、血ではない…… だからDNAも無い」
「でもね、ソノ血は生物から採取したのよ?」
胡桃ママは首を傾げる
「ねぇ、咲子? さっき龍斗が言ってたけど、チェス盤を逆から考えてみたら? 相手側からね♪ その生物はなんて動物?」
「未確認生物だけど……」
「なるほど…… その未確認生物自体が呪の穴の先に居た者なら?」
凄い結論だった
考えてもみなかった
こじつけであるのは勿論だが、ソコに至る思慮が浮かばなかった
私は呟く
「ルビーの涙が詰まった生物…… だったとしたら…… か……」
その言葉に、胡桃ママが反応した
「そう、それにね、その時の血の海には、それも何か解らない肉片みたいなモノもあったのよ…… それもDNAは解析出来ない物がね」
「DNAの無い…… 血と、肉片……」
「ねぇ、咲子…… その呪の穴に…… 生きた何かが有ったとしたら? それが未確認生物だとしたら?」
「まさか…… だとしたら呪の穴を通った時に、胡桃ママは見てるはずよ?」
ゆっくり目を閉じ、胡桃ママは言った
「そうね、そうなるわね…… そして、そうなんだわ……」
「今の、否定して…… 肯定してない?」
「そう、否定で肯定よ」
「つまり……?」
「だから、居たのよ…… 魂だけだけどね」
「魂だけって事は…… 幽霊…… が……?」
「まあ、似たような者ね…… ソコに居たのは……」
一度口を閉じ、胡桃ママは言った
「居たのは、泉よ」
私は立ち上がり、リビングのドアを見た
大きな音を立てて椅子が倒れる
「泉が…… 幽霊……」
「違うわよ! 泉は私がお腹を痛めて産んだ子よ♪ そうじゃなくてね、昔、呪の穴に閉じ込められた時があったの…… その時に会った子供が泉」
胡桃ママは私の背中に向けて話し掛ける
振り向いた私が見たのは、ブンブンと顔を振る胡桃ママの姿だった
そして少し、淋しげな表情を見せていた
「その泉さんって人が幽霊……?」
「そうなるわね…… 外に体が無いって言ってたから」
コクリと頷き、胡桃ママは言った
「だからね、私は泉を…… 私自身の中に住まわせたの…… もう1人の私、それが泉なのよ…… 私の表面に出て来た時もあるわ…… でもね、彼女は乗っ取る事も出来たハズの私の体をソウはし無かった…… だから娘にその名前を付けたの…… 優しい子なのよ」
今まで聞いた事も無かった真実を目の当たりにし、私は言葉が出なかった
ただ、淡々と話す胡桃ママを見ていた
「でもね、その時にね…… 受け継いだのよ」
「な、何を……?」
「ルビーアイよ……」
「取り込んだ、の?」
「結果的にそうなるわね…… そこから私は双眼になったのだから……」
ゴクリと私のノドが鳴る
「だからね…… 多分居るわ…… 呪の穴に生物がね…… 私達なら解る、居てもおかしく無いって事が」
私はゆっくり頷いた
胡桃ママがココまで言うのだ
不可能では無い
あの生物は呪の穴から出て来た何か、なのだろう
ならば、全てが未知という事が証明される
ただ、気掛かりな事もあった
誰が、どうやって、呪の穴から取り出したのだ?
まさか教授が?
いや、そんな事は無いだろう……
そう易々と一般人が呪の穴を空けられるとは思えない
私は聞いた
「ねぇ、胡桃ママ…… 未確認生物はどうやって手に入れるの?」
胡桃ママはダイニングテーブルに頬杖をつき、目を閉じた
「ルビーアイで呪の穴を空けるしか…… 無いでしょうね……」
「なら、一般人は無理って事よね?」
「勿論よ」
「教授が手に入れてきたのよ?」
「その未確認生物を?」
「そう」
「なら答えは3つでしょ」
私は椅子に座った
そして前のめりになり、問うた
「3つって?」
胡桃ママは一度頷き、口を開く
「1つ目は、誰かが空けた穴から出て来たのを捕獲した」
「うん」
「2つ目は、その教授の近くにルビーアイを使える者が居る」
「そんな……」
私は愕然とした
身近で起きている事件とはいえ、知り合いが関与しているとは思いたくなかった
でも、そのお陰で3つ目の予想もついてしまった
「3つ目は…… チェス盤を相手側から見るのね……?」
「そうよ…… それが一番妥当でしょ……」
「そうか…… そうだよね…… 3つ目は……」
私は言葉にして良いのか少し考えた
でも
多分
コレが真実に、一番近い
そう、コレが可能性が一番高い答えなのだ
それは
「教授自身が、ルビーアイ所持者……」
「正直なところ、それが一番真実に近いわね…… 総合的にみれば、ね」
そう胡桃ママは言った
信じたく無い気持ちは有る
知り合いなのだから仕方が無い
でも、確信めいた何かも有った
あの日の教授……
あの悪魔の様な笑いをした教授……
それが、どこかで…… 心のどこかで…… 常人では無いと訴えかける
そして、彼は言っていた
その悪魔の笑いの中で
【コレが従順の】、と
多分、何かを従順させる方法が解ったのだ
それは誰だ?
それに、【研究におおよその目処がついた】と
他の謎は解明されているのかも知れない
なら、あの研究は何の為だったのだろう……
従順……
アノ血を使った何か……
「……こ……」
「……きこ……?」
「咲子!!」
顔を上げると、心配そうに覗き込むママ達が居る
そして、私のママが言った
「貴女達の話を聞いて、大体の事は私でも解ったわ…… でも、知らなかった時と違い、咲子…… 貴女は知ってしまった…… 知ってしまった事を気付かれないように行動しなきゃダメよ!」
そうだ
私は知ってしまった
可能性が高くても100%では無い
それでも100%に限りなく近い可能性の敵であれば顔に出ぬよう、教授と会った時には素知らぬフリをしなければならない
悟られてはならない
私が、教授のルビーアイを知っている事を、知られるのはリスクだ
私はママに頷いた
その時、リビングの戸がガチャリと開く
開けたのは藍だった
「一緒にお風呂頂こう♪」
笑顔の藍に、私も「うん♪」頷き答える
そして、「入ってらっしゃいな♪」
と言うママ達の笑顔で、リビングを後にした




