52話 チェス
重い空気が流れる
それは泉の言葉で破られた
「お腹空いたね!! パパが来たら食べよー♪」
ここぞとばかりに藍が賛成する
「うんうん! 美味しそー♪ てか、アーサーさんとライさんは箸使えるの?」
驚いた顔を見せた2人は頷く
「勿論サ! ジャパニーズ・フードは大好キダヨ♪」
「いや、これ、中華料理だけどね……」
そう言う藍に皆が大笑いを見せた
パパ達、ママ達の言っていた事は理解出来なかったが……
多分、藍の一言で救われたのは十二分に解っていた私だった
そしてリビングの戸が、キィ…… と静かに開いた
着替えを終えた龍パパだった
藍がすかさず立ち上がる
そして龍パパの目を見て言った
「2人とも、とても大切な友達です! 今後ともよろしくお願いします!」
と……
どこか、龍パパの雰囲気が変わったのを感じた
「ありがとう、藍さん…… よろしく頼むよ」
そう言い、少し微笑んだ
その顔を見て、ホッとしたのか、藍が笑顔を見せる
「もうお腹ペコペコだったの♪ 美味しい料理目の前にして、お預けくらった犬の気分がわかるよー! 今度はペナルティーの泉からご飯貰わなきゃね♪」
藍は横目で泉を見てニヤニヤしている
「もう!! 解ってるわよ!! ちゃんとおごる! おごるってばぁー!!」
家内中が笑いの海に染まる
そして、皆着席し、箸を取った
皆で食事を済ますと各々の行動を取る
アーサーとライは日本の番組が珍しいのか、パパ達とテレビを見ていた
泉と私、そして藍は、ママ達に断られながらも多すぎる食器を洗い、片付けを手伝った
藍の振る舞いに救われたのか、パパ達やママ達の心の整理が付いたようで、それからは笑顔が見えた
両親の謝罪……
私と藍の関係
それに付随するのだろうか……?
胡桃ママからは、聞いても言わない、そう以前言われている
だから今は聞く事をし無かった
ようやく戻った皆の笑顔に、水を差す真似はしたくない
そう、思って居たのかも知れない
龍パパが突然立ち上がり、部屋に走って行った
そしてバタバタとスリッパをならして階段を降りてくる
リビングに入ったその手に持っているのはチェス盤だった
「アーサー、チェスは出来るかい?」
そう言う龍パパの目はキラキラと輝く
子供のような笑顔だ
「勿論デス! 本場デスヨ♪」
「そりゃそーだ…… あはは」
場違いな質問に苦笑いを浮かべる龍パパ
そして、盤に駒を並べていった
「チェスは面白いな! 一人一人、一駒一駒が非常に強い…… 精密に動かさなければ即、戦況が傾く…… そして心理戦だ」
「デスネ♪」
そう言うアーサーもまた満面の笑みだった
母国を離れた彼に、母国の競技が出来るとは思ってもみなかったのだろう
食器を洗いながら藍がチェス盤を見て口を開く
「でも、チェスって不思議ですよね?」
「ん? 何故だい?」
首を傾げた龍パパが疑問の表情で質問する
「だって…… 私は将棋もチェスも好きだから解るんですけど、将棋って…… 捕虜システムでしょ? でもチェスは斬首システムってゆーか…… 敵の駒を取れば使えるのと、使えないのと、みたいな?」
間違いない極論、私はそう思った
もう使えない駒という事は、殺したのでは無いだろうか?
それと違い、将棋はそういう意味では捕虜なのかも知れない
私のパパがテレビを見ながら話に割って入る
「お国柄の違いじゃねーか? 日本人は慈愛深くて、アメリカ人は……」
そこまで言った時、言葉を止めた
ゾクリとした悪寒……
解る
これは殺気だ……
それは、私のママが発していた……
パパがこちらを見ずに言葉を続ける
「あーー…… なんてーか…… アメリカ人は…… シ、シンプルなのが好きなんだよ……♪」
絶対思っていた事と、絶対に違う……
パパはゆっくり……
ママから離れた方向から……
ギリギリの角度で私に視線を合わせる
その、まばたきは【フォロー頼む】だった
私は深く、溜息を吐いてしまっていた
「考え方なんて人それぞれじゃん? ライやアーサーなんかメッチャ良い人だしね♪」
ま、この辺で良いだろう……
これ以上言うと、作為的に感じられる
ママの勘は鋭すぎるから、この辺が丁度良い
そう考えを巡らせていた時、龍パパは笑顔で言葉を発した
「藍さんの言う事は最もだ…… でもね、咲子の言うとおり、考え方はそれぞれさ! それにね、私は思うんだ」
藍が食洗の手を止め、首を傾げる
「君もチェスが好きだと言ってたから解るだろう? ある意味、一番弱い将棋とチェスの駒は何だい?」
一瞬、間が開き、藍が答える
「んーー…… 将棋なら歩兵、チェスならポーンじゃ無いかな?」
笑顔で頷き、龍パパが答えた
「そうだね、そうなる…… 歩兵は隊を前線に導く駒だろう? ポーンは?」
「え? 同じじゃ無いかな?」
「うん、でもね、私は少し違う…… 盾にならどちらも成れる、敵の邪魔もね…… でも語弊はあるが、言うなれば歩兵は邪魔のみだろう?」
「どういう事です?」
「ポーンはね、絆があるんだよ…… 進むのは前のみ、駒を取るのは斜め前だろう? 歩兵に二歩は無い……」
あ!っと表情を変える藍
「そっか! 斜めを繋げればドコを取られても取り返せる!」
「そういう事!♪ 味方の死は無駄にし無い、つまりそれは心があるって事じゃないかな?」
「なるほど!」
「それにね、歩兵は敵の陣地に進めたら金将に成れる…… それは昇進だろう?」
「うんうん……」
「じゃ、ポーンは?」
「基本的には女王に成れる、かな?」
「そう言う事だ♪ 将棋なら最強は飛車だと私は思う…… チェスなら間違いなくクィーン…… それは大切な仲間を女王に、つまりそれは伴侶と…… 妻とする程、大事に思って居る事じゃ無いかな?」
藍は言葉を無くしていた
そこまでは考えが及ばなかった、そういう表情をしていた
龍パパは続ける
「どうしても味方で居て欲しかった…… 大切だった…… そう思っても、自分が未熟で…… 相手の事を思ってやれなくて…… 結果、戦場から離れた…… そんなドラマが…… チェスにはあるのかも知れないよ」
藍はポカンと口を開けて居た
そして龍パパに言った
「捉え方が変わると、こんなにも優しいゲームなんですね♪ 凄く参考になりました! ありがとうございます!!」
そう満面の笑みを龍パパに送った
龍パパは照れて居るような、でも少し、淋しそうな顔をして、
「ありがとう、か…… それを言うのはこちらの方さ…… 私は、昔…… いや、何でも無い……」
そう言い
「チェスは相手の考え、立場を読むのも必要だからね…… 自分では何とも成らない状況に陥った時は、チェス盤を逆から見てご覧…… 相手の考えが読めるかも知れないよ」
と藍に言葉を送った
「はい♪」
とてもスッキリした顔を見せる藍が居た
不意に視線を感じる
その先にはライが居た
私にまばたきを送り、泉を指差す
私は笑顔で頷き、泉の耳元で囁いた
「ねぇ、泉…… ライが【良い父親だね】ってさ♪」
驚き、泉はライを見る
ライは微笑んでいた
その顔を見て、泉も笑顔を見せる
そしてコクリと頷いた
しばらくして、「チェックメイト!」とアーサーが言う
それに対して龍パパは、待った! と叫ぶ
この繰り返しが数回行われた




