41話 ポリバケツ
黒く大きな影が私を覆う
今がルビーアイ発動の時
藍を守るために、私は眼を見開いた
だが、その眼に入ってきた光景は想像していたモノとは違っていた
私達を包む影
それは奴らでは無く、別な1人の男性の背中
彼は振り向き、そして優しく微笑んだ
「え…………?」
「え…………?」
状況を理解出来ず、私と藍は同時に理解不能と声をあげる
目の前の、私達に振り向いた男性は、
美しい顔立ち
美しい金髪
そして何より、美しいオーシャンブルーの瞳を持つ、米国人だった
彼が下劣な男達に顔を向ける
「おーおー! 睨んじゃってまぁ! 恐いわー♪」
男の一人が彼を茶化す
私達には彼の背中しか見えない
「こっちは3人よ、外人さん? 勝てると思ってんのかよ? 怪我したくなきゃカッコイイ真似止めて、女を渡しな!!!!」
男が叫ぶ
いくら何でも、この状況では無謀だ
分が悪すぎる
やはり私が……
そう思った時だった
彼の右手には大きいポリバケツが握られていた
え?
私は絶句した
藍も同じようだった
それで戦うのか?
そう藍は思ったに違いない
私の絶句は別なところにあった
ココに来る途中に在ったのか……?
見渡しても今、この空き地にはそれに関する物が無い
私の絶句は、その、ソレをどこから手に入れてきたのか、だった
彼は振り回した
所詮はポリバケツ
男達が怯む訳も無い
ソレを彼から取り上げると空き地の隅に投げやる
「テメェ…… ふざけた真似してくれるねぇ……」
完全に怒らせた
男達が怒気を顔に表す
男の一人が彼の胸ぐらを掴んだ瞬間
彼は両手をポケットに入れる
そしてクルリと旋回すると、胸ぐらを掴んで居た男の後ろに回った
「おー? 随分身軽じゃん? でも三対一で勝てんの? 外人さんよぉ♪」
余裕の笑み浮かべる男
その余裕が、直後、消えた
はらりと、2枚の落ちる布
それは今、掴んでいた腕の……
袖だった
彼は向きを男達に変える
その手には奴等が持つ物と同じ、サバイバルナイフが2本握られていた
それを体の前で十字に構え、臨戦態勢を取る
そして、舞う
ヒラヒラと蝶の様に、男達の周りを舞った
動けない男達からは、また袖が落ちる
既に切られた男の袖はタンクトップばりに肩口から袖が落ちていた
速い……
何が起きたのか解らないほどに……
疾風とも呼べる動き
凍りつく男達の2人がポケットに手を入れる
そして彼のサバイバルナイフよりも細身のナイフを取り出し構えた
コイツら全員ナイフを所持していたのか!
男は言った
「テ、テメェ…… 俺達だって持ってんだよ! お前だけがナイフ持ってん訳じゃねぇんだ!!!」
やる気だ
コケにされて引き下がれないのだろう
彼には勝てない
男は本気の殺意
彼には殺意が無い
これは明確な差だ……
ズキャ…… パアァァァーーーーーーーン!!
甲高い破裂音にも似た音が周囲に響く
彼は投げた
両手のサバイバルナイフを3人の顔の間を通し、コンクリートの壁に突き刺した
完全に刃が見えない
鍔まで突き刺していた
豆腐にでも突き刺す様に、軽々と……
またも凍りつく男達
彼等が冷静を取り戻す前に、本当の恐怖が奴らの顔に浮かぶ
「おい…… マジか…… 止めろよ……? ホラ、ナイフはここに置くから…… な? な? マジになんなって……」
男の手からナイフが…… カランと落ちた
彼の手には、両手には……
2丁の拳銃が握られていた
そして銃口は男達の頭部を狙っている
そのトリガーに指が掛かる
「ちょ、待てよ! 止めろって! 俺らもう帰るからさ! マジマジ! 頼むからさぁ……」
男達の目には涙が浮かぶ
ッッツパアアァァァァァァォォォォン!!!!!
撃った……
彼らを目掛け、撃った……
私と藍は瞬間、顔を背ける
そして、ズサッッ……
そう、倒れた音がする
私達は恐る恐る、ソレを見た
そこには男達3人が腰を抜かし、膝から崩れ落ちた姿がある
そして彼の真っ直ぐ銃口を向けた先には、今しがた投げ、コンクリートに突き刺さったハズのサバイバルナイフが木っ端微塵に砕けていた……




