37話 泉の電話
研究を始めてから4日目の朝を迎える
仮眠室を出て、着替えをし、いつも通りの授業を受ける
少し考え事をしたくて、私は昼休みに2階南棟の連絡通路で窓の外を…… 中庭を見ていた
謎の血、いや、生物は何故こうも謎が多いのか
考え方が違うか……
未知なんだから、やはり謎だ
最初から謎なんだ……
それは解っている
でも、プロフェッショナルでは無くとも、私も一研究員
謎を謎のままにはしておけないプライドもある
ふと、俯く先には中庭の芝生の無い箇所が目に入る
コレは暴動の最中、私が飛び降りた時に、私がルビーアイで抜いた場所だった
「咲ーー!! 探したじゃん!! お昼食べよー♪」
振り向くと、笑顔で駆け寄る藍の姿がある
考え事をしていた私はまだ昼食を取っていないことに今更気が付き、
「あ! そうだった! うん♪ 一緒に食べよ♪」
そう、笑顔で答える
そんな私に藍は、
「あ、戻ったね!」
そう言った
「戻る? 何が?」
怪訝な顔で私は聞く
うーーーーん……
少し考えた表情を浮かべた藍
「最近、研究巧くいってないのかなぁってね? 雰囲気が結構ブルーっぽかったから……」
何でもお見通しなんだ……
この子は本当に凄いな……
「まあ、ね……」
私はそう答え、そして中庭に視線を移す
そして、ふと、昨夜の高田教授が言っていた、少々違和感がある言葉を口にしていた
違和感のあった教授の言葉
「プレッシャーもあるよ…… 何も解らないんだもの…… 【私なら出来る】とか言われても……」
少し首を傾げる藍は、その言葉をリピートした
「咲なら出来る? 研究成果を出せるって事? 高田教授が言ったの?」
「そ、教授が…… 他では無い、君なら出来ると思っていたのだがね、って言ってた…… そんな事言われたって…… ハァ……」
溜め息をつく私に、彼女は無表情を返す
「ふーーーーん……」
そう言う藍は、次の言葉
「他の人には無くて、咲ならある特別な鑑定眼とかを期待してるのかな?」
カチリと何かがハマった瞬間を感じた
私のその視線は、中庭の芝生の無い箇所を再び捉えていた
そう、違和感が確信に触れるような感覚
【他では無い、私なら……】
無駄な事は言わない教授だからこそ抱いた違和感
他の人では無理……?
私なら確実に出来るはず、とでも言いたいのだろうか?
まさかね……
他の人に無く、私に有るもの…… それは1つしかないじゃないか……
ルビーアイ……
高田教授が知ってるとは思えない
だが、本当に意味を持った言葉であれば……
それしか考えられないのも事実
簡単に外にバレないようには注意してたはず……
あのブラ騒動後から発動もさせていない
気の回しすぎと自分を戒めた
不意に藍が食事中の手を止めて話し掛ける
「咲、そーいえば明明後日、3日後の文化祭どーする?」
そうだ、3日後は他の学校よりも早い文化祭が開かれる
私は何かしらの役にはついていないので忘れてた……
「あー、そうだったね…… まぁ、特別役にもついてないしフツーに食事とかして帰るよー♪ それに、その日が研究室籠りの最終日だから羽伸ばす感じに!!」
藍は笑顔を見る
「そだね! 咲は研究頑張ってるもん、それが良いよ♪ なら一緒に出店廻ろう!!」
「そだね! そーしよー♪」
トゥルル…… トゥルル……
ウンウンと頷き合うと携帯電話が急に鳴る
相手は泉だった
トゥル…… ピッ!
「おはろー! 泉!」
「元気そーね♪」
電話先の姉妹は嬉しそうな声をあげた
「てか、泉? またまたこんな時間に珍しいね?」
泉は素っ頓狂な声を出す
「はい!? なぜ?」
なぜそんなに驚くのだろう?
「だって、そっちは…… えーと、夜の2時? 位じゃない?」
「ん?」と、一瞬止まる泉は、直後大笑いを上げた
なぜ笑われる!?
おかしな事を言っただろうか?
「泉ー? なんで笑うのーーー!?」
私は少し、ふくれた声を投げ掛ける
「咲子、ゴメンゴメン!! 言ってなかったね! 今は日本に居るのよ♪」
「え!? 何で言ってくれなかったの!? ヒドいじゃん!!」
電話の先の泉は、顔を見なくても謝って居るのが目に浮かぶ
「ホントにゴメンってば!! 例の件があったから、チョイ心配になってね! 着いたのは4日前よ♪ アハハ……」
「例のか…… なるほどね…… てか、4日前って…… 貴女ねぇ……」
全く自由な子だ……
「まぁまぁ♪」
電話先の泉は、私を落ち着かせようと試みる
別段、怒っていない私ではあるが、少々言葉を荒げた
「そーゆーの早く言ってよーー!! 泉はしっかりしてるのに、どこかそーゆートコあるよねぇーーー……」
そして最後に呆れ声を掛けた
「はいはい…… でもね、なんか研究忙しそーじゃん? だから迷惑も掛けたくないし、ね?」
まぁ、ね……
確かに予め言われても会えなかったろう
そんな事を思った時だった
隣にいる藍が小声で話し掛けてきた
(例の姉妹さん?)
私は携帯電話を耳に宛てながら笑顔で頷く
(おー♪ お話しても良い?)
私はニコリと、もう一度頷く
「泉? 私の友達が話したいって…… 大丈夫?」
「もちろん! ママ達から聞いた藍さんでしょ!? 話したい! 話したい!! 話したいーー!!!」
泉は声のトーンを一段高くして言った
どういう説明を受けてるのか多少の疑問を持ちつつ、藍に電話を渡す私
「藍と話したいって♪」
電話を受け取る藍も嬉しそうに耳に運んだ
そして、
「初めまして泉さん! 私、咲の友達させて貰ってる浅田藍です!」
ハツラツとした自己紹介をした
そして電話の奥から聞こえる泉は、
「hi! 藍♪ my name is 泉! Thank you for being my sister's friend!!」
今…… 電話口から漏れてきた声は英語に聞こえたよーな…… 空耳か?
藍を見ると、少し涙目になりワナワナと震えて居た……
そして……
ようやく開いた口から、
「さ、さ、さ、さ、咲………… え、え、英語なんですケドォーーーーーー………… 無理無理無理無理!!!!!」
藍はテンパっていた……
すごーーーーく解るよソレ……
先日の私も同じだったので……
でも、あの時と違うのは相手がワザと英語を話してる事だ
私は藍が持つ電話の集音部に顔を近付け、泉を叱る
「泉ー!! ヤメテよ! 藍泣いてんじゃん!!」
電話の先から大笑いが聞こえる
まったくもう……
私は藍を見て、もう大丈夫と頷く
彼女は恐る恐る携帯電話を耳に寄せた
「藍さん? ごめんね! 悪乗りしすぎた! 私の姉妹と仲良くしてくれてありがとね、って言ったの♪」
ホッとした藍の表情が伺える
「も、もう! ホントに焦ったんだからね! でも話が聞こえたけど、今は日本なの?」
「そう、もう着いてるよ♪ 今度は電話じゃ無くて、一緒にランチしよーね♪」
そう言う泉に、少しニヤリとした藍
「うんうん! 罰としておごってね♪」
「oh my god…… O.K.!! 悪いのは私…… 是非ともおごらせてもらうね!」
そうか……
そういうことか……
さすが泉だよ……
コレすら泉よりも、遙かに私は下なんだね…… アハハ……
いや、違う…… 上とか下とか、そーゆーんじゃないんだ……
友達なんて要らないと思って居た私と、全てをバランス良くこなしていた泉との差を如実に感じた瞬間だった
泉は本当の意味で、ワザと英語で話したんだろう
困らせたくて、とか考えたのでは無い
藍の為に英語を話したんだ……
いや、そういう意味では困らせたくて話したのか?
気兼ね無く話してもらえるように……
藍の緊張を、早めにほぐす為に話したんだ……
一気に打ち解けた2人は、もうタメ口で話してる……
それを簡単にやってのける泉が羨ましい
嫉妬にも似た感情も抱きつつ、2人の会話を耳にしていた
泉と藍の2人の会話も終わり、電話を切った私達は楽しく食事を済ませて授業に戻った




