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ルビーアイ・カタストロフィ  作者: アゲハ
3章 咲子
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36話 無菌室

またいつも通りの朝を迎える



淡々とした授業を受けるのは変わらない



昨日は()()()()で無駄にエキサイティングな一日になったのはイレギュラーだ



だが、やはり、いつもとは全然違っていた



その理由は一つ



昨日までは無かった心の拠り所(よりどころ)



友達という、信頼出来る絆が出来た



一科目、一授業、私は淡々とこなす



つまらなさを感じる私に生き甲斐を投じるのは、やはり授業間に私のクラスへ足繁く通ってくれる藍だ



私の一瞬、一瞬がとても光に満ちている








放課後を迎えた私は、いつもの荷物と1週間の着替えの入ったバッグを持ち、西棟の生物学研究室に足を運ぶ



ガラガラと入口の戸を開けると高田教授は無表情に出迎える



そして私達は一度その部屋から移動し、手配してくれた鍵付きロッカーを紹介されたのだった






研究室に戻った私は、更に奥の部屋に案内を受ける



どこぞの大型研究施設にありそうな無菌室がそこには在った



ココの研究員をする上で、何度も入った無菌室



そこは幾らの大金を注ぎ込んだのか見当もつかないほどの機材が立ち並ぶ大施設



そんな物珍しい機材を扱えるのは有り難い事だ



近場でココまで揃った大学は中々無いだろう



幾度となく入室した無菌室であったが、いつもの風景とは違った光景



中には見慣れない生物が私を見ていた



真円ともいえる丸みを帯びた、つぶらな瞳のとても可愛らしい生き物



その耳は立ち上がり、体の丸みを別にすれば、ぴょんぴょんと素早く移動する姿はネズミの様にも兎の様にも見える



どこからか高田教授が手に入れて来た、未確認生物がコレだった



教授は、この生物にマインラットと名を付けた



私の、教授からの依頼はコノ生物から少し採血し、それを注意深く観察する事だった



体の大きさに見合った少々の麻酔を掛け、採血する



それをシャーレに移し、電子顕微鏡で覗く前に少し観察した







不思議な光景を目の当たりにする



採血した血が動き始めた……



凝固する事も無くウネウネと動く



それは正に移動、と呼べる動き



垂らした位置からは既に移動し、元居た位置には血の痕跡が無い



その血、100%が移動している証拠だった



そしてただ、移動を繰り返している



シャーレの(ふち)まで辿り着くと、正にその血……



いや、その生物ともいえるソレは縁を登ろうとしている



既に一つの個体となって居る事に気付く



不思議な光景に、私はおぞましさよりも神秘性を感じていた



不思議、といえるのであれば、昨日のゲシュの物体透過で、自分が自分以外に有り得ない現象が有ることを十二分に知ってしまった



元、血と呼べるソレは尚も縁を登ろうと試みている



ただ一点、不思議なのは一方方向に進んでいるような動き



私はシャーレをクルリと180度回す



縁を登ろうとしていたソレは、その試みを中止し、真反対に動き始める







やはり……



コレは宿()()を目指している



コレは()に帰ろうとしているのだ



そう、マインラットと呼ばれた未確認生物に戻ろうとしている



寄生虫なのだろうか?



今度は電子顕微鏡で覗いてみた



特別な虫は見受けられない



位置を何度ずらして見ても、同じく特別な何かは確認出来なかった



宿主に対しての帰郷性質が有ることは間違いない



でも生物に見えるコレは、生物では無い事の証明でもあった



ただ、私だから感じる事の出来るその、元、血は…… 私に近い何かを感じる事が出来た



ルビーの残り香……



つまりは、ルビーアイの力の痕跡……



私と泉の共通用語、ルビーアイの残留思念



ソレに近い何かを感じる



今もまだその血は彼に向かって帰ろうとしている



感覚と、記憶と、経験とを思考しても解らない



またシャーレを回す



コレはまた、行き先を変える



そんな事を繰り返し、観察初日を終えた



完全に隙間無く、私はシャーレを密閉した



明日はDNAを()てみる事にする



この生物学研究、無菌室には、それらを解明するほとんどの機材がある



本当にソレに特化した大学だった








私は無菌室を出て研究室に戻った



そこにはゲシュと遊んで居るのか、遊ばれて居るのか……



()()()()()で鼻をくすぐる藍の姿があった



くすぐるといっても実際には透過している……



ゲシュに触れる事の無い猫じゃらしは完全にシカトの対象のようだ……



それでも根気よく、じゃらし続ける藍が可愛く思える



急に現実に戻った瞬間を感じた私だった



アレは…… アノ生き物は…… いや、生き物と言って良いのか解らない、元、血は何なのだろう……



理解出来ないソレを思うと私は少し、いつもより冷静な藍への態度を取ってしまっていた



だが藍は器が大きい……



「研究、難しそうね……?」



そう言う藍に私は、「そうなの……」と、溜め息を見せた









毎日、研究室に籠もると現実との境が解らなくなる……



研究室、無菌室、研究室、仮眠室、授業、研究室、無菌室、研究室、仮眠室、授業……………




あーーーーーーー!!!!!



頭おかしくなってくるーーーー!!!!




それでも2日目と過ぎ…… 3日目になっていた……






2日目にDNAを調べた所から何も進展は無い……



率直に言うと、()()()()()()



DNAを調べて、それで結果、何も無かったのだ……



染色体も無い、何も無い…… 事実、何も無かった



コレはどういう事なのだろう



何も無いのだ、何も、だ……



その血だと思われる物から、未確認生物の何かしらのデータも取れない



血ですら無いのかも知れない……



間違いなく、私が採血した



なのに……



何の光明も無く、また一日が終わる








いつもと違い、本日、3日目に無菌室へ高田教授が入って来た



「どうだね?」



研究は音を上げずにやるしか無い



それは解っている



でも、全くの進展も無い現状では落ち込む気持ちが如実に出てしまう



「何も…… 無いです…… 結果も、何の結果も、出ません……」



彼は表情を変えずに、



「そうか」



そう、答えた



そして、私の顔を見る



「研究は根気強くやるしか無い、簡単に結果が出るなら誰でもすぐノーベル賞だ」



リラックスさせようと冗談を言ってくれたのだろうか……?



いや、まさかね……








そして彼が続けた言葉



「でも、他では無い、()()()()()()と思っていたのだがね」



申し訳ない気持ちになる私を感じる



ただ、私は、



「すみません……」



そう答える事しか出来なかった



彼は私に一度頷くと、無菌室を出て行った



独りになる無菌室



冷静になる時間



違和感の感じやすい私は、何故か少し、()()に捉われた……


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