35話 藍の青春
「なんかー、メッチャ嬉しーなぁ♪」
そう言うと、藍は残りのオレンジジュースを飲み干した
そして私を見る
「飲もう! お互いジュース無いわけだし!」
手元を見ると、今先程飲み干したグラスには、氷だけがカラン……と音を立てる
「そうだね!」
私はまた店員を呼んだ
「オレンジジュースと…… 藍は?」
メニュー表に目を通した藍は、パタンと閉じて店員を見る
そして言った
「もう、気分は…… テキーラで♪」
ガタン!!
私は椅子から立ち上がった
ちょ、待て!
私、19よ!?
貴女も19でしょ!?
もうハタチの誕生日が来たの!?
可能性が無いとは言えないけど……
だから余計なことは言えない
もしも違って店員にバレたらマズい!!
私は無言のまま藍を見た
その視線を感じたのか、まぁまぁと手を振り、私に着席を促す
「大丈夫よ! 私は24だから♪」
はい!?!?!?
何と答えていいのか判らず、私は無意識に口をパクパクと動かしていた
「あちゃー…… 嫌われちゃったかな? あ! 店員さん、私だけは成人なんでテキーラのオーダー大丈夫ですよ♪」
ニコリと笑顔を見せた店員は会釈をして、厨房に消えた
私は思考をフル回転させ、言葉を選ぶが、口を次いだ言葉はストレートすぎた……
「藍…… ホントに…… 24……!? なの!?」
「そだよ♪」
「そだよって……」
「嫌われちゃったかな?」
私はブンブンと頭を振り否定する
「そんな事、1ミリもない!」
「良かった♪」
「だけど…… 驚いちゃって……」
当たり前だ
同級生だと思って居た
いや、それにしては艶っぽさもある女性だとも思った事はある
それにしたって……
そんな考えを巡らせていると店員がオレンジジュースとテキーラをテーブルに置く
私は一口、それを飲んだ
「私ね……」
口を開く藍は淡々と話し始めた
「今は学生に専念してるけど、元は社会人枠で入学したんだ……」
「そうだったんだ……」
「うん…… 私の親って、母親だけでね…… 父は私が生まれる前に病気で死んじゃった」
私は言葉が出せずにいた
「でね、母は若い内に私を産んだから、すぐ働きに出て、あまり家に居なかった…… それでも感謝は勿論ある! だから、私も高校を卒業したら働きに出た…… 少しでも家に、母に給料あげたくてね」
「うん……」
「でも、そんな私に母は言った…… 貴女は若いんだから、まだ青春楽しみなさいってね♪」
「うん……」
「だから私はアノ大学に入ったの…… でもまだ迷ってる…… 本当にこれで良かったのだろうかってね……」
「どうして……?」
「だって…… 母はずっと働いてる…… 高校卒業して私が産まれて、それからずっと働いてる」
「高校卒業してから…… ずっと……」
私は他の言葉が見つからなかった
藍のママは、私の歳にはもう子供が居て…… もう立派に母親してたんだ……
私とは大違い……
凄い人だ……
「咲…… 私ね…… だからホントに私だけ気楽に過ごしていいのか疑問なの……」
「そうなんだね……」
「うん…… 学校行ってても、別に青春なんて感じられなかったんだ…… 恋する訳でも無いのに…… でもね……」
「ん? でも、何?」
「あったの、青春……」
藍は笑顔を見せた
「そーなんだ♪」
私もつられて笑顔を見せる
「貴女よ」
「貴女?」
「そ、咲と会えた…… 貴女の眼差し、貴女の力強さ、貴女の頼りがいのある物腰…… 凄く友達になりたいって思ってた」
藍の、はにかむ顔が眩しく見える
そして座ったまま大きく背伸びをしながら彼女は言う
「この人と友達に成れたら、凄く幸せだろーなぁって…… そして私はもっと成長出来るだろうなぁって思ったの♪」
「あ、それ! 私も思った! ……私ね、あまり他人に興味無かったの…… でもね、この人は私に無い物いっぱい持ってるなぁって…… この子と一緒に居たら私はもっと…… 人として成長出来るかもって!」
「同じだね!」
「うん、同じだね!!」
そう笑い合い、私達はまた食事を進めた
私は少々ばかりの疑問を投げ掛ける
「でもさ、藍? 貴女、結構昨日の暴動で隠れファン居たじゃ無い? 恋人とかさ、その中から選べないの?」
藍は即座に目の前で大きく手を振り否定した
「ありえないからー!! そりゃ告白とかされたこともあるよ? でもさ、ダメなんだよね……」
「なんで?」
私は首を傾げる
「若すぎてダメだぁ…… アレが隠れファンなら、私は隠れファザコンかな? アハハ!」
「ど、どゆこと!?」
少し困った顔を見せる藍は言葉を続けた
「うーーーん…… 会ったことはないよ? でもさ…… 多分、その影みたいなもの? 追ってるのかなぁ…… 私、年上じゃ無いと無理っポイわ♪」
「なら先生は? 藍を好きそーな先生居たよ?」
更に大きく手を振り、大否定
「ムーーーリーーーー!!! 何てゆーか、心の歯車みたいなのが、カチッとハマらないんだよね……」
ありゃりゃ……
全校男子生徒さん…… 並びに男性教諭方…… ご愁傷様……
「そっか…… まあ、人それぞれあるよね…… 藍の好きな人、好きになってくれる人、その内に見つかるよ!」
藍は笑顔で、
「うん、ありがと♪」
そう言った
もう、気が付けば夕日が顔を見せている
楽しくて……
でも、切ない話もあって……
時計に目を向ける事は無かった
気が付いたら夕方の5時を少し回っていた
もう、こんな時間だね
どちらが先に口にしたのか解らない
明日からは大学に寝泊まりの生活になる
準備もしなければならない
今日は帰る事にした
帰り際に藍は、研究室に毎日遊びに行くねと言ってくれた
別に危険な研究では無い
私は、楽しみにしてるね、と返す
とても楽しい一日だった




