30話 家
「ただいまー!」
家のドアを開ける
玄関にまで届く美味しそうな匂い
私達家族は3階建ての家に住み、2階は私達家族
3階は龍パパと胡桃ママ、今は留学中の泉の部屋
そして今、調理の音がする家族全員のリビングキッチンが1階だ
私は部屋に荷物と制服をしまい、パジャマに着替えてリビングに降りた
ダイニングテーブル、その私の席に着くとテレビを点ける
トントントントン……
料理をする音がこだまする
私達は2つで1つの家族
料理はママと胡桃ママの2人でこなしている
私はつまらない番組をポチポチとローテーションしていた
まな板のリズムが変わるのを感じる
それと共に、視線も感じる
不意に振り返るとオープンキッチンの調理場から胡桃ママと並ぶ、私のママが見ていた
「ん? 何?」
純粋に不思議な表情で私は問う
「んーーん! 何でも無いよ♪」
なぜかとても嬉しそうな表情で首を振った
何だろう?
ま、いっか!
私は、またテレビに向いた
再びつまらないバラエティー番組、クイズ番組をコロコロと変え、食事までの時間潰しだ
ただ、その間、何度も何度も変わるまな板と包丁が奏でる音色
コレは調理によるものでは無い
感情によるものだ……
それ自体はもう気付いていた
そして何度も何度も知らないフリをしているママの、私に向けた視線もだ
私はテレビを見ながら背後に話掛けた
「ねぇ、ママ? 何? ズーーっと見てるけど?」
そう言いながら私は振り向きママを見る
どうしたのかと胡桃ママも、私とママを交互に見ながら調理の手を止めない
「んーーん! 何でも無いの♪」
「何でも無いって事は無いでしょ? ズッと見てるじゃん!」
少し苛立ちを表に出す
「んーーー…… なんてゆーか…… 嬉しくて、かな?」
ママはよく解らない言葉を言った
私は首を傾げ、「嬉しい? 何が?」
と、聞く
それに答えたママの言葉が衝撃的だった
「だってーー! 友達出来たんでしょ? 顔見ればわかるよ! いつもと違うもの♪」
驚いた
私は何も言ってない!
いつも勘が良いけど……
ママは更に続けた
「彼氏じゃないのが残念だけどね♪ うん、彼氏じゃ無いなぁ…… トキメキが足りないもの! 出来たのは友達ね! うんうん♪」
「な、な、な、何を言ってるの!? それにまだ友達じゃ無いし! そーゆーのまだ伝えて無いし!」
私は動揺を隠す事が出来ない
どこまでバレてるんだ!?
嬉しそうな顔の胡桃ママ
「あら! 咲子おめでとう♪ やったじゃん! 桜子、もう1品増やそうよ!」
「それいいね♪」
学生のノリがまだまだ抜けきらない母親達だ……
あっ!
そう顔を変える胡桃ママ
そして私を見て言った
「咲子、明日は日用品買いたいんだけど、荷物持ち手伝ってくれない?」
あ、明日は……
そう言おうとした瞬間、ママが割って入る
「胡桃、待って! 明日は友達とデートよ♪」
私の顔が引き攣る……
ド、ドコまで……
ドコまで知ってるんだコノ人!?
そう思った時には声に出していた
「な、なぜ…… ソコまで……」
フフフッと笑うママは、それが当たり前と言わんばかりの口調で優しく話し掛ける
「解るわよ♪ 貴女、ウキウキしてるもの! それに明日は創立記念日でしょ! 間違いないわ♪」
かなわないなぁ……
何でもお見通しなんだ……
いや、コレが親なのかも……
ホント、うん……
かなわないよ……
これが私がズッと守られてきた愛なんだろうね……
妙に納得して、私は恥ずかしくて声に出さなかったけど、心の中でありがとう、と伝えた
「友達とのデート楽しんでおいでね♪」
胡桃ママが調理の手を動かしたまま、満面の笑みで私に語り掛ける
「あ、ありがと……」
ちょっと恥ずかしくて、私は目を背けた
何か思いついた面持ちで胡桃ママが口を開く
「今度、友達連れておいでよ♪ 一緒に食事しよーよ! えーと、何ちゃん?」
私は今日ちゃんと覚えたての名前を口にした
「浅田さんって言うの♪」
ピシッ……………………!
何か凍り付いた感覚に襲われる
解る
コレは胡桃ママの緊張だ
それよりも何故……?
何かおかしな事言った覚えは無いはずなんだけど……
胡桃ママが言葉を繋げた
「ふ…… ふーーん…… 浅田さん、ていうんだぁ…… ね、ねぇ……? 下の名前は、何……?」
私は一呼吸置き
「藍」
「藍……?」
胡桃ママも同じ名前を口ずさんだ
そして、調理の手を止める
カラン……
手からまな板に転げる包丁の音
私も動揺を感じていた
「く、胡桃ママ……? 何で、知ってるの……?」
胡桃ママは思考を巡らせているのか動こうとしない
そして、ようやく選んだ言葉は、
「その子は…… 止めといた方がいい…… と、思うよ……?」
だった




