11話 器
エリスはホッとした様子でアーサーとライ、2人の兄に抱き付き、泣きじゃくっていた
そんな彼女の背中をポンポンと優しく手を当てて彼らが落ち着かせる
そんな姿を見ると、私も兄が居たらな……
何て事も思ってしまった
チラチラと私に目を向けるアーサー
すぐにルビーアイは閉まったハズだが……
まさか見られて無いよね……?
そんな不安も過ぎる
「アリガト…… 泉…… エリスヲ守ッテクレテ♪」
そんな彼の言葉と同時に、ライが笑顔で頭を下げた
「いいのよ♪ アーサー、ライ…… 私はただ…… 大切な友達を守りたかっただけ……」
「ソッカ♪ ソレニシテモ…… 凄カッタヨナ!」
凄かった!?
何がだ……
マズい……
やっぱり見られたか!?
「指デ小石ヲ弾イタンダロ!? アンナ事ガ出来ルナンテ凄ゼ!」
そっちか……
紅眼の事を言っているのかと思って焦る私
それとは真逆の笑顔で話すアーサーは、足元の小石を指でつまんでは先程の私と同じように指で弾いていた
勿論、すぐに大地に放物線を描いて落ちる
アレはルビーアイで指の筋力を爆発的に高めたからこそ出来る芸当
常人が出来る技では無い
「ソレニ、銃弾モ当タラナイトカ♪ ドウヤッタラ避ケラレルンダイ!?」
そんなアーサーの問いの答えを聞きたかったのか、エリスが私に顔を向ける
涙で化粧は崩れ、目も瞼も赤く腫れている
だが彼女の表情を見る限りでは、落ち着いた様子だった
「ソレヨ! ホント目ノ前デ撃タレタノヨ!? 相手ハ殺シノプロフェッショナルヨ!? ドウヤッタノ!?」
さて……
参ったぞ、と……
「あはは…… えっとね…… んーーー…… 彼等の精神状態を乱せば…… 銃弾を外してくれるかなって思って茶化しまくってたの♪」
「待ッテヨ、泉? ソレニシタッテ…… ソンナニ離レタ距離ジャ無カッタヨ!? 外スワケガ……」
「うんうん、でも…… 外してくれたよね♪ 予定通りのハッタリだよ! フフフッ…… 凄いでしょ!?」
「デモ泉ハ奴ラニ言ッテタヨネ!? 【相手が私じゃダメ】ッテ…… ドウイウ意味ナノ?」
そっか……
そりゃ目隠しした位じゃ聞こえちゃうよね……
ふむ……
「さっき読んでた脳科学の本ね…… アレにさ…… 書いてあったんだ♪ 明らかに優位に立つ人から、大きく優位性を奪った時…… 精神状態は乱れるってね♪」
そう言った私はニンマリと笑った
その顔に納得したかどうかは解らないが、エリスは呆れ顔を見せた
「ソ、ソウナンダ!? 泉ハブラフノ天才ネ……」
勿論、そんな文章が書かれては居ない
コレは、彼女には悪いけどハッタリだ
とりあえずルビーアイを知られるわけにはいかない
ルビーアイ……
そう、ルビーアイで守ったのだ
彼女の前へ角を設けた【く】の字に曲げたルビーの障壁
ソレによりエリスに飛ぶ銃弾を左右に跳弾させた
本当はコレを見させない為の、左手による目隠しだった
「マァマァ、エリス…… ソウダト泉ガ言ッテルンダ♪ 何ヨリ君ハ、御礼ヲ言ウ立場ダゾ?」
あっ!と口に手を当てるエリス
彼女が私の下ろしていた手を取り、持ち上げる
「泉…… 本当二…… ゴメン…… アリガト…… 助ケテクレテ…… 大好キヨ、泉♪」
そう言った彼女は私に抱き付いた
そして耳元でthanks…… thanks……
呟くように優しい感謝を何度もくれた
とりあえず、この場には戦意を無くし、悶え苦しむ黒服3人が転がる
これ以上、余計な事をエリス達から聞かれても困る
だから私は言った
「まずさ…… ココ、離れよ?」
そう口にして、私は黒服達を指差す
「ソ、ソウネ……」
そんなエリスの言葉と共に、4人でその場を後にした
ある程度あの場から離れた時だ
走り逃げる4人
その中の1人
私は、足を止める
「ドウシタノ、泉?」
エリスが私に駆け寄り、心配そうな表情を見せた
「ゴメン! 先行ってて!」
「ナンデ!? ドウシタノヨ!?」
「さっきの場所に、私の荷物置いたまま逃げてきちゃった!」
「止メナヨ! 危ナイヨ!!」
ガッシリと私の両肩を掴むエリス
その顔には焦りが見える
そんな彼女に私は笑った
「大丈夫よ! 心配しないで♪ あの本、借り物なのよ……」
「ダトシテモ……」
「ダメダメ! 借りた先は図書館…… 借り主が解れば…… 結果、危ないわ…… 私だってバレちゃうもの……」
「ソンナ……」
エリスの顔には恐怖が浮かぶ
そうでしょうね……
荷物を取りに行っても、行かなくても危険は変わらない
むしろ、取りに行かない方が危ない
すぐに私の存在、居場所、大学までがバレてしまうのだから……
「大丈夫! 私の足の速さ、覚えてるでしょ! エリスを担いであのスピードよ? それに……」
そう言ってポケットからは小石を取り出した
「コレもあるし♪」
少し笑ったエリスは、私の肩から手を下ろす
「泉…… 僕達ガ行クヨ♪」
そう言ってくれたのはアーサーだ
隣でライがニヤリと笑う
嬉しい言葉だ
そうは思っても、私は首を振った
「thanks…… でも大丈夫よ♪ 2人はエリスを送って行って! 1番危険なのはエリスである事に変わりは無いんだから♪」
「ソレハ…… ソウダガ……」
アーサーとライは顔を見合わせ、歪ませている
「本当二…… 大丈夫カ……?」
「大丈夫よ! アーサー、ライ♪ エリスを頼むわね! すぐ戻るから♪」
私は踵を返す
その背中にアーサーが言葉を掛けた
「待ッテ、泉」
「ん?」
体はそのままに、顔だけ振り向いた私
歩み寄ったアーサーは後ろから頭を撫でた
「気ヲ付ケテナ! ヤリ過ギルナヨ!」
「OK♪」
私は背後の彼等に手を振って走った
私1人の方が動きやすい
実はコレが私の全てだった
私は荷物を忘れたんじゃ無い
荷物を置いてきたのだ
奴らの処分を実行する為に……
まぁ、手加減はするよ……
やり過ぎ無いようにね!
ん?
やり過ぎ……
やり過ぎ?
【やり過ぎるなよ】、か……
ハハハッ……
まったく……
大した器だよ……
アーサー、そしてライ……
見られてた……
全部見られてた、か……
どうしようも無い……
私がアーサーやライに危害を加える気は無い
大切な友達の兄だ
願うしか無い
バラさないで、と……
でも大丈夫
2人は他に話す気は無いハズだ
興味本位でルビーアイを探りたいなら、あの時もっと突っ込んだ話をするはずだから
エリスが銃弾が外れた件を知らずに聞いてきた時、アーサーはそれ以上の会話を止めた
つまりは、私を気遣った証拠
そして、彼等は知っていた
彼等は最初から見ていた
私が黒服達を小石で撃退したところから見ていた
私がエリスの目を左手で隠し、右手で防御障壁を創り出してエリスを守った事も……
紅眼が作動した様も……
そのルビーアイで黒服1人を血に染めた事すらも理解している
そうよ……
男性2人だよ……?
全て解っているから、彼らは私1人を行かせてくれた
ライがエリスを守り、アーサーが私に付いて来る事だって出来たのに……
ホント……
器が大きい……
エリスには私の秘密を伝えないでくれた
ありがとう、2人とも……
貴方達の大切な妹の為にも……
私、行ってきます!




