104話 殺す側と救う側
安堵していた矢先だった
背中にピリッと何かが走る
即座にソレを理解した
【来る】
そんな感覚が……
私達はソレを同時に感じ、顔を見合わせた
「タイムリミット…… ダナ」
私はそのアーサーの答えに頷く
「最低限、すべき事が済んだのはベストよ……」
そう言って、アーサーにルビーを纏わせた
アーサーは私にサファイアを纏わせる
もはや有事だ
いつ何が起きてもおかしくない
お互いの【筋力】、そして【盾】
ソレを準備した
校長室を走り出て、職員室の戸を開ける
そして西棟廊下に出た
南
そこから大勢の奴隷が押し寄せる
私達はすぐ目の前の北角に走り、北側連絡通路に視線を移す
そこからも先が見えぬ程のソイツらが向かってきていた
「ヤルシカ無イ…… カ……」
アーサーが呟く
私はソレを否定した
「ダメよ! あの人たちも被害者なのよ!? 私達が、私達の為にどうこうして良い命じゃ無い!」
アーサーには苦渋の表情が浮かぶ
そして
「ダナ……」
そう言い頷いた
私達は即座に横に有る西棟北側階段を駆け上がった
3階まで一気に登り切る
正面には北側連絡通路
ソコにはまだ奴らの姿は無い
南側に視線を向ける
そちらからは、まだ先とはいえ、姿が見えた
奴隷達だ……
私達は正面に向き直り、走った
お互いの身体能力は上がっている
それは特に、私のルビーによるものだ
その力のせいもあってか、東棟北側階段前には、ものの数秒で到着した
安心は出来ない
このままではいずれ逃げ場は無い
でも……
危害を加えたくも無い!
今居る東棟廊下、その南側からはその姿はまだ確認出来無い
隣にある東棟北側階段……
ソコからはプレッシャーを感じる
戻る……?
いや、ソレは無理だろう
いずれ西棟南から向かってきていた奴隷達が姿を見せるハズ……
逃げるしか無いのに、逃げられない結論の見える逃走
それでも私達は、まだ姿の無い東棟南に走った
20クラスある大きな大学
その3階東棟廊下の中腹まで走った時だ
私達は足を止めた
南側の階段から黒や茶の物が次々現れる
髪…… そして、頭部……
奴隷達のソレがドンドン視界に入り、そして私達に体を向け、廊下を埋め尽くした
私は背後を向く
北側からも……
同じ光景を見た
「ドウスル……?」
アーサーが聞く
そんな事を言われても……
建物内で逃げ、相手を傷付けたくも無い……
無茶であり、矛盾
でも……
それでも……
嫌なのよ!!
私達は直ぐ横に見える教室に入った
そしてガチャリと鍵を掛けた
意味は無いだろう
少なくとも単眼のルビーアイ達だ……
すぐ壊される事は目に見えている
でも……
鍵を掛けた
気休めだ……
間もなくして、ズガン!!
そんな大きな音と共に教室の扉が揺れた
来たか……
まだ開かぬ扉の先にオーラを感じる
それが本体と思われる物から離れた瞬間、バキャァァン!!
そんな甲高い破壊音
そして扉が姿を消した
私達は教室に反響する音に耳を塞いだ
そして目を見開く
扉の先に居る奴隷達が……
こぞって私達に右掌を向けていた
溜まるオーラ
ルビーアイを放つ
この人数
奴らの共鳴
コレは咲子程では無くとも、無傷とはいか無い!
アーサーが叫んだ
「泉! 飛ブゾ!!」
そう言って窓の鍵を開けた!
「ココ、3階よ!? 私のルビーでも地面衝突の衝撃吸収は無理よ!」
「大丈夫ダ! 僕ヲ信ジテ!」
そうだ
私には…… もう貴方しかいない!
アーサーは飛んだ
その姿を追うように、私も空に…… 飛んだ
3階の窓から外に……
フワリと感じる無重力
私達の体は3階の窓から宙に放たれた
そしてスグに……
反発も出来ない……
無情な重力に引き摺られる
私達の体は、地上への降下を始めた
その時だ
ゾクリと悪寒が私を襲う
私はその方向を直視した
その先に居たのは咲子
そして、右手を向けていた
例の右手
ラピスのピストル!
私の先に飛んだアーサーに向いている!!
「アーサー!!」
私は叫んだ
アーサーは直後、咲子を見た
理解したと思われる気配
紫色の弾丸がアーサーの落下先に放たれた
恐ろしいスピードで……
吸い付く様にアーサーに向かう
アーサーの前に蒼い光が迸る
ボスッッッ!!!
重い音と共に現れたのは……
分厚い……
そして大きい……
キングサイズを遥かに超えた大きさの……
ベッドマット!?
そのとてつもない大きさのベッドマットにアーサーは体を埋めた
強い空気抵抗
大きさ、そしてソノ質量故か……
落下速度が瞬間、一気に落ちる
タイミングのズレたアーサーのベッドマット直前を通り過ぎた
弾丸が空を裂き、通り過ぎた
フゥ…… と安心した直後、私の目の前にも同じ大きく分厚いベッドマットが姿を見せる
それに乗り、私達は地上へ堕ちた
ズバァァァン!!
激しい音と共にアーサーはベッドマットから弾かれ、吹き飛ぶ
私はしがみ付けた事も有り、ベッドマット上でバウンドした
即座にソレから降り、アーサーの元に駆け寄った
「アーサー! 大丈夫!?」
「アア…… 少シ…… 足ヲ痛メタダケダ……」
「足を出して! 痛覚を取り払うから!」
そう言って右手をアーサーに向けた時だ
またも小さなプレッシャーを感じ、それを見た
咲子が私達にまたピストルを向けている
いや……
撃った!!
私はアーサーを突き飛ばし、自身は背後に飛ぶ
私達が元居た場所を弾丸がヒュン……
軽い音を立て通過した
背中に流れる汗を感じずには居られない
咲子を見た
表情を崩さない
冷静で……
冷徹……
彼女は言った
「首尾は……?」
【残りの液体】の事か?
私はその眼を見ながら、コクリと頷く
悪魔野郎を背中に置いた咲子はニコリと一瞬、笑った
やはり……
咲子は……
こちら側の人間だ!!
ホッとしている自分に気付く
その直後
足を痛め、その部分に手を当てているアーサーに咲子の右手が……
そのピストルが……
その銃口が……
向いた!
え!?
そんな私の一瞬の硬直をよそに、弾丸は放たれた
「アーサー! ダメェェェ!!」
アーサーは私の声に反応したのか少し体を反らす
左脇腹をかすめる弾丸
「グッ……!!」
そんな呻き声と同時に、体を【く】の字に曲げるアーサー
左脇腹からは赤い液体が流れた
躱したと思われた弾丸は、アーサーの体にダメージを与えて居た
「咲子…… アンタァァ!?」
私は叫んだ
咲子は表情を崩さない
その時、ライが口を開いた
「ナァ、藍……」
ライが言葉を発した
「何よ……」
「今、2人ガ戦ッテル」
「ええ」
「2人ハ友達カ?」
「そうよ……」
「ソウカ…… ナラ聞クガ…… ドッチニ勝ッテ欲シイ?」
その言葉に藍は目を見開き、そして、足元に逸らした
「どういう意味……?」
「ソノママノ意味ダヨ…… 2人ノ目的、戦イノ理由…… ソレハ、藍…… 君ノ為ダロウ? 龍斗サンヲ【殺ス側】ト【救ウ側】ト……」
藍は黙っていた
その表情は堅かった
そして、唇を噛み締めていた




