102話 机
「ねぇ、アーサー? 貴方なら【残りの液体】をドコに隠す?」
私はアーサーに問い掛けた
「ソウダナ…… 自分様ノ場所…… ロッカー…… 生物学研究室…… ト、イッタ所カ……?」
「そうね…… いや、液体の大小は解らない…… 職員室の可能性が有るかも知れないね?」
「確カニナ……」
「灯台下暗しとはいっても、さすがにソレに気付く可能性の有る咲子の近くには置きたく無いよね? つまり、生物学研究室の可能性は低いわ……」
アーサーはコクリと頷いた
「ソレハ考エラレル……」
「うん、時間にどれだけの余裕が有るかは解らない…… 教員用のロッカールーム、何より職員室の奴の机を優先しましょ!」
「承知シタ!」
私達は3階西棟を走った
目指すのは職員室だ
教員用のロッカールームなら隣接、もしくは近いところに在るはずという考えに至った
東棟は造りから考えれば生徒用に見える
とりあえず私達は西棟を北に向かった
チラチラと右上に飛び出す部屋名プレートを確認しながら走り抜ける
職員室が確認出来ぬまま、西棟北階段を降りて、2階に踏み入れる
そのまままた西棟を南に走り抜けた
無駄に広い大学
DIYなんて部屋もある
無駄すぎる……
いや、無駄すぎるからこそ救われた
こんなに大きな大学で無ければ、私は逃げ込まなかったろうから……
西棟2階の南階段を降りて、1階に着く
3階とは違い、今度は奴隷達が向かってきた場合、距離が近い
さすがに少し、緊張する
私達は西棟1階を北に向けて走った
その時だ
フワリと香る、あの匂い……
私達の3つか、4つ前の教室の扉が開いた
敵か!?
そう思い、私達は走りを止めた
その部屋からは男女
カップルと思われる親しさを醸し出す2人が廊下に出てきた
なんだ、生徒か……
ホッとしたのは一瞬だ
何故、の方が強かった
今さっき…… 匂いがしたはずだ
ルビーの残り香が!!
目を凝らす
その手に握られていたのは小さな紙コップ
即座に理解した
彼らが持っているのは【残りの液体】が混入した物だと!
「待って! 飲んじゃダメ!」
私は彼らに叫んだ
(なんだよ? つか、誰?)
(あんたに指図される覚えねーし! ケンちゃん、飲も♪)
失敗した!
【飲んじゃダメ】じゃ無く、【待って】ダケにしとけばよかった! そうすれば……!! チィ!!
私達は顔を見合わせ走った
こうなったら彼らのコップを叩き落とすしか無い!!
その姿を見るや否や、男女はコップを口に運んだ
ヤバイ
ゴクリと音を鳴らすのが聞こえそうなノドの動きが見える
間に合わない!!
「アーサー! 仕方ない、腹よ!」
「O.K.!!」
男女の正面に一気に飛ぶ
着地と同時に大きく振りかぶった
そして壊さぬレベルまで手を抜いた拳を、私は女性、アーサーは男性に向かい、一気に腹に突き立てた
男女の体が軽く宙に浮く
だが、思った効果が得られなかった
もう、完全にノドを通過してしまった【液体】が体外に吐き出されることは無かった
もうスイッチの入れられた液体だ
男女は少し浮いた体が廊下に降りた瞬間に生気を無くした
さっきと同じだ……
コレは……
背中だけが糸で吊されたゾンビ
それが目の前に…… 今、出来上がった……
私達は数歩下がる
動きを見せない
そうか…… 今、飲んだ所だから…… 命令を受けてないし、液体が馴染んでないのか!?
私達は頷き、ソレを放置した
無駄に痛め付けたくは無い……
人間、なんだ…… コレは……
私達が、私達の為にどうこうしていい命じゃ無い!
男女の出て来た部屋に入る
中をキョロキョロと見渡す
有った!!
ペットボトル、そして幾つもの紙コップが会議用の机上に準備されていた
そして机には《ご自由にどうぞ 特製ジュースです♪ 生物学研究スタッフ》と書いてあった
紙コップの量といい、準備万端ね……
私はそのペットボトルに右手を向ける
そしてルビーを放った
ボパン!
そんな重い音を鳴らして、ペットボトルは姿を消した
少々飛び散った【液体】も軽視は出来ない
それにも手を向け、完全に消し去った
「これで一安心ね!」
安堵の声をアーサーに掛ける
そして、見た彼の表情は硬かった
「イヤ、マダダ…… 泉、考エテミロ…… コレハ提供品ダロ? ストック、ツマリ保管品ジャ無イ」
ハッとした
「確かに…… 咲子の言い方なら提供品と言うよりは、奴が所持して居る物だね! さっきもソレを考慮して職員室って言ったのに…… 貴方が居て助かったわ♪ 私だけじゃ、安心してしまってたから!」
「オ互イ様ダヨ! 僕ダッテ、泉ガ居無イト…… ライ、ソシテ咲子ノ真実ガ解ラ無カッタヨ♪」
私達は顔を見合わせ、少し笑った
だが、表情をすぐに戻す
職員室だ
向かわなければ!
今居る教室を出る
北側に走る
あった
職員室だ!
最初居た理科室からは完全に端と端だったとは…… ハハハ…… 無知とは恐ろしい……
職員室は西棟1階の最北側にあった
ガラガラと音を鳴らして踏み居る
中には沢山の机があった
そして両端にはまた扉が見えた
扉の上には【校長室】反対側には【男性教師用更衣室】【女性教師用更衣室】と書いてあった
「机…… 多イゾ…… ドレダ!?」
確かに多い……
いや、大きい大学だ
コレくらいの教師は必要だろう……
「そうね…… じゃあ、優先を男性教師用更衣室に変更!」
私達はその扉を開ける
中には沢山のロッカーが肩を並べて居たが、その戸にはネームプレートが貼り付けて有った為、意外にも素早く見つけられた
私は戸に手を掛けた
ガコッと鳴る戸には鍵が掛かってある様だ
時間との勝負
こんなツマラナイ物に大切な時間は使えない
私は、またルビーを纏った右手で一気に引き抜いた
ズバン!!!
そんな激しい音と共に、隣のロッカーと開けた戸が衝突音を上げる
中には白衣が数着入って居るだけだった
「チィ…… 戻ろう!」
そう言って職員室にまた足を入れた
「コノ机ノ量カラ……」
解るよ……
この量から探すのは至難だろう
時間が無いと言うのに!!
L字を横にしたような机
椅子の上、座ればお腹に当たる部分に平たい引き出しが1つ
その右横には縦に引き出しが3つ並んでいる
アーサーは手前の机から右横の引き出しを開け始めた
そして椅子を引き、お腹に当たる平たい引き出しを開けた
そしてまた隣、また隣と次々に開けていった
それを私は見ていた
眺めて居た
キョロキョロと何故か周りを見渡しながら眺めて居た
「泉! 何シテル!? 時間無イゾ!!」
アーサーが私に怒鳴る
何気無しに見ていたのは事実だ
でも妙な違和感が頭から離れない
それが何なのかは直後、理解した
「アーサー……」
「ナンダ!? 早ク探シテクレ!」
「いや……」
「ハ?」
「見つけたの……」
「何ヲ!?」
「奴の…… 机……」
「何!? ドレダ!?」
私はスタスタとその机に歩いた
そして指差した
「コレよ……」
「他ノ机ト違イガ無イゾ!? 何故コレダト!?」
「違いなら有るわ…… 明確に……」
「ドコニ!?」
一般的に見て、何も変わらない……
確かに気が付かないのも頷ける
でも、コレだ……
間違い無い
他の机には教本が在った
コノ机にも変わらない教本が在る
他の机には引き出しが在る
コノ机にも引き出しが在る
他の机にはペンが転がってる
コノ机にもペンは在る
そう、ただ1つ、他の机には【在る物】が、コノ机には【無い】……
それこそが…… 奴の机の証だ!!




