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おや? 彼の能力は全裸にならないと発動しないようだぞ。  作者: 安藤 兎六羽
第一章 おや? 彼は奴隷になるようだぞ。
23/142

22、おや? オルレイウスは奴隷に身を落として……

地味ーに今日は二話目ということになりますm(_ _)m

加えて一章のラストでございますm(_ _)m

 


 月が輝きを増す中、ノクトゥムの城門から二頭立ての荷馬車と、同じく二頭立ての幌馬車が続けて出てきて止まる。

 二台の馬車から四人が降りて、オルが昼間破壊した格子門を眺めている。


 四人でかなり重いはずのあの格子門をどけるつもりのようだが……いや、持ち上がっている。

 たった四人の……いや、大柄なひとりの力で格子門が宙に浮き、外壁の脇に立てかけられた。


 ばかな。オルレイウスはその光景を眺めながら、そう思う。

 あれの重量は、一抱えはある丸太を格子状にいくつも組み合わせた合計だぞ? と。

 トンぐらいは軽くあるはずなのに……。


 そして、彼らはまた馬車へと乗り込み、車輪が軽快に回り出す。


 こんな時間に壁門を出るなんておかしい。そのうえ、人類の壁を越えている者が混じっている。

 そう思い、警戒するオルの目に荷馬車の御者台に座っている人物が手を振ってくる。

 小柄な身体の《盗賊シーフ》ハギル。目を凝らせば荷台に荷物と一緒に積載されているのは、ロスとクァルカス? 後ろの幌馬車の御者はルドニスだ。


 どうしたのだろうか? クァルカスは今朝がた《ノクトゥム》に二、三日滞在すると言ってなかったか?

 いや、それよりも待て。格子門を独りで持ち上げたのはクァルカスなのか?

 思い惑うオルの前で二台の馬車は停車した。


「おう! オルよ、俺はてめえはやるヤツだと思ってたぜ! 兄貴が今」

「ハギル。お前は少し反省しろ!」

「…………」


 意気揚々と声をかけてきたはずのハギルがクァルカスに怒鳴られて沈黙した。


「いったい、どうしたのですか? こんな夜更けにどうして?」

「とりあえず、宰相との取引によって物資の補充はできたが、さすがにあのあと人目につく時間に出発するのは、な」

「しかし、いくらなんでも今日の今日では……」

「オル。悪いが、きみは《ノクトゥム》に立ち入れなくなってしまった」

「え?」

「ついでに言うと、我々が今日出発することになったのはそのためだとも言える。……とりあえず乗りなさい。ルエルヴァに向かいながら説明しよう」


 いや、オルも実はルエルヴァに向かおうとは思っていた。

 しかし、それはあくまでも《ノクトゥム》の復興をある程度手伝ってからの話。それが、なぜ、立ち入り禁止?

……とりあえず、オルは荷車へと飛び乗った。


「ちっ!」


 盛大な舌うちが幌馬車の中から聞こえてきた。レシルだ。《テオ・フラーテル》が勢ぞろいしているのだから、当然、彼女もいるだろう。

……彼女とは二度と会わないと思ったのに。リシルもいるだろうけども。


 複雑な心境のオルを乗せて、馬車がふたたび軽快に雪に隠れた轍の上を走り出した。

 このまま、またルエルヴァまで一緒か。なんとなく浮き立つような、ちょっと憂鬱な気持ちでオルはそう考えていた。


 だが、そのオルの耳に早速、クァルカスが想定外の情報を吹き込む。


「……話のあらましを説明しよう。……まず、私とロスが宮城に赴いた時には、既にきみの存在と、きみがグリア人であること、そして全裸で戦闘行為を行っていたということが露見していた」

「え?」


 それがどれほどマズいことかということはオルにもわかった。

 だって、オルは全裸のせいで故国を追放されているし、権威主義的なグリア人は保守的で、頑固で、すぐに他国人を見下す。

 そんなやつらに、腹の肉の柔らかそうな部分を晒せばついばんでくるに決まっている。


 オルは御者台のハギルを振り返った。

 ハギルが、闇を凝視している。

 そちらには何もないはずだ。


「続けよう……ハギルによれば、相手に挑発されるがままに《義侠神》の神名に誓ったそうだ。……『オルはいるんだっつっても、あいつわかってねーんだって!』と、言っていたな……ハギル?」


 ハギルは夜空に輝く月を眺めていた。もちろん、クァルカスの質問には答えない。


……クァルカスの話によれば、相手側の言い分は「グリア人なのだから、オルレイウスの帰属は《グリア諸王国連合》であり、裁判権はこちらにある。報酬の支払いなどもってのほかだし、むしろ罪人として裁いた上で、そのような涜神者を《ノクトゥム》に連れ込んだ《テオ・フラーテル》にも涜神行為に加担したとして賠償を請求する」というものだったらしい。


「私には状況を確認する必要があった。だから、私が『この場は私の仲間を断罪するための場なのですか?』と問うと、《ノクトゥム》宰相は『私にもそのつもりはなかったのですが、あなた方の違法行為を見過ごせば、《ノクトゥム》と《グリア諸王国連合》の沽券に関わりますからね……おわかり頂けるでしょう?』と言って来た」

「つまりは、《共和国》の《最上位冒険者》に及び腰になったと思われるわけにはいかん。……そう言って来たわけじゃな」


 クァルカスとロスの説明に、少しばかりオルも納得した。

 確かに《ノクトゥム》がある《スエビ王国》は、反共和国派だった、と。


「私は『このようなことで、《共和国》と《スエビ王国》が険悪になることは望んではいません。どうかお見逃しくださいませんか?』と言ったのだが……」

「『私もお飾りではありませんので。……それにミスターハギルに、私は、趣向を凝らした罵詈雑言を頂戴しております。……どうか私の名誉をおもんぱかってください』と言うておったわ。……のう、ハギル?」


 ロスの問いかけにもハギルは応えない。

 馬に話かけている。


「……そこで私は言った『まず、先に彼に契約を破られたのは我々のほうです』と」

「え?」

「……オルレイウス。きみは私の申し出た『警護任務の延長』を受けただろう?」

「ええ、……ですが」

「雇用主のひとりでもあるハギルの命令を無視して、魔鳥の大群に突っ込むことは契約違反だろ?」

「……え……」

「ということで、『せめて優先的に、重大な契約違反者である彼に対しての司法権をお認めくださいませんか?』と言った」

「…………」


 クァルカスのその言葉を聞いた宰相は熟考した挙句、「……まあ、かまいませんよ」と言ったそうだ。


「宰相どのはクァルがオルを見捨てるつもりじゃと思ったのじゃろうて。ほんとうはそれこそがクァルの術中じゃったというにな。……まあ、もっともどちらに転んでも良かったわけじゃが」


 そう言って、そこから先の話はうきうき顔のロスが引き継いだ。



……クァルカスは、

「我々は彼が彼の一存で契約を破棄したとみなし、さらに我々の仲間の生命を脅かしたかどで、彼に対して賠償金を請求する。……しかしながら、彼は無産民であり、支払い能力が無い。そちらがさきほど主張したように、彼がグリア人であり、ここが《グリア諸王国連合》地域である以上、彼が《グリア諸王国連合》所属国の一都市ノクトゥムを守護する意図をもって契約を破棄したことは明白である。ゆえに賠償金を《グリア諸王国連合》および《ノクトゥム》に対して請求する」と言った。


 相手側も言った。

「そんな馬鹿々々しい話がありますか! そもそもそんなものこちらが願った話ではないし、その全裸の男が勝手にやったことのはずです!」と。


 それを受けてクァルカスは言った――



「……『そうですか、……そうなると彼に支払い能力が無い以上、彼の身体とそれに付随する全権利をもって賠償に充てるほかありませんな。ゆえに、《グリア諸王国連合》の帰属者である彼を今回の我々の探索クエストの責任者であるレシル殿の奴隷とするほかないのですが、よろしいでしょうか?』と」

「……え?」


 なにか、今、非常に不可解な発言があったような……そう考えるオルを差し置いて、ロスの話はどんどん進む。


「相手は『いいでしょう、勝手にするがいい! ……しかし、ならば、奴隷の所有者である貴殿らに、改めて奴隷の犯罪行為に対して罰金を請求させてもらうが、よろしいですな?』と言って来おった」



……そこでクァルカスは言った。

「彼の帰属を主張したのは先方である。ゆえに先の取引は彼と私以上に、私と《ノクトゥム》ひいては《グリア諸王国連合》代表である貴方との取引であると考えるべきだ。ゆえに、その賠償請求に応じる責務はないと判断する」と。


 相手曰く、

「確かに司法権を優先的に認めましたが、こちらの損害に対する賠償は行われていない」と。


 そこでクァルカスはそれを受けて、

「異なことを言われる。まず、ここで問題とすべき、我らが責任を負うべき《ノクトゥム》に与えられた損害などというものは存在しない。なぜならば、我々と彼は元より対等な取引相手であり、彼が我々の要請を無視して行動を開始した時点で、彼は我々とのを契約を反故にしているからだ。かつ、彼の帰属は元より《グリア諸王国連合》であると貴殿が認められている以上、彼の涜神的行為は《グリア諸王国連合》内での犯罪であると考えられる。ゆえに我々が管理下を離れたあとの彼の行動に対して負うべき責任・義務等は一切存在していない」と言ったそうだ。



「……『そうだとしても、あなた方は犯罪行為を犯した者を、そうと理解していながら奴隷としたのだから、私の賠償請求はなお有効なはずです!』と《ノクトゥム》宰相は怒鳴り散らしておったわ」


 待て。何を笑っているんだ、ロス。とオルは一生懸命考えている。

 さきほどオルの耳は、非常に不吉な言葉を拾っていた。

 だが、ロスの饒舌は止まらない。



……クァルカスは応じて、

「さきほど貴殿は、私の『《グリア諸王国連合》の帰属者である彼を今回の我々の探索クエストの責任者であるレシル殿の奴隷とするほかないが、よろしいか?』という取引の提案に対して、『いいでしょう』と発言した。……それはつまり、彼に対して我々が請求すべき賠償を《ノクトゥム》および《グリア諸王国連合》が肩代わりし、彼の身体に付随する全権利によって、《グリア諸王国連合》の代表たるあなたが賠償したという取引の成立を意味する。……加えて、彼がレシル殿の奴隷となったのはついさきほどであり、彼個人の《グリア諸王国連合》内での犯罪は今日の昼に行われたものである。……購入した商品が傷物だったからといって、売り手にさらに代金を払う買い手はいないでしょう?」と言った。



「相手は『そんなものは詭弁だ! 雇用側の監督責任というものがあるでしょう!』と当然言ったわい。……じゃが、さらにクァルは畳みかけた」



……クァルカス曰く、

「我々と彼の契約に監督責任などという規則、条項は盛り込まれていない。彼と我々の間にあったのは、明日の夜明けまでの警護任務に対してそれ相応の支払いをするという契約のみ。我々が彼に対して戦闘を要請したり、全裸になれと命じた事実が無い以上、彼がハギルの命令を無視した時点で、契約は解消されている」



「……『したがって、今回、当方と先方の間で交わされた契約の内実とは、我々の契約を破棄したのちに、《ノクトゥム》で罪人となったオルレイウスの我々に対する罪を、その身柄のみによって、我々の探索クエスト責任者であるレシル・モリーナ・シュバリエ・デモニアクス殿が賠償として受け入れよう、というものなのです』と、クァルは言ったわけじゃ」

「――待って! 待ってください! ……なぜ? ……なぜ、レシルなのですか?」


 ようやく口を挟めたオルに答えたのは、クァルカスだった。


「それは、単純に《デモニアクス》の名望が未だにグリアにおいても高いからだ」

「クァルが《デモニアクス》の名を出した時の相手の驚いた顔は一見の価値があったわい」

「ついでにロスが『本来、オルレイウスは《グリア諸国法》の『《純潔神アルヴァナ》に対するみだらな行いに加えられる法規制』違反者として追放処分が妥当と思われる容疑者に過ぎぬ。それもお前さんはその姿さえ見ておらんじゃろう? ……欲をかき過ぎぬことじゃ』と言って止めを差した」


 待て、待ってくれ! 「ふふ、なかなかじゃクァル」「いや、ロスこそ」と言い交しているふたりに向かってオルは叫びたかった。

 そんなこと承認できるわけがない!

 自分がまさか自分の知らないところで奴隷になっていたなんて! と。

 しかも、所有者がレシルなんて?!


「勘弁してください!!」

「買い戻せばいい」

「え?」


 クァルカスの簡潔な言葉の意味をオルは把握できない。


「じゃから、オルよ。お前さんには《エンヘン・ディナ》の《魔材》の所有権がある」

「え? だって僕には支払い能力がないからって」

「詭弁じゃよ。んなもん、当然じゃろう。……オルが奴隷になる前に得た財産じゃ。その所有権はオルにある。……そもそも、オルの情報をもう少しハギルから聞き出しておくべきじゃったんじゃ、《ノクトゥム》宰相閣下は。全裸という言葉のインパクトと《テオ・フラーテル》の稼ぎに目が眩んでおったわけじゃい」

「じゃあ、僕は?」

「《妖獣種レムレース》の王の《魔材》じゃ。契約違反ぶんと己を買い戻すぶんを引いたって釣りがくるわい。その気になれば、今すぐにでも奴隷の身から脱することができる」

「…………だけど……」


 半ば安堵に身を委ねかけ、それでも口を濁したオルの心を見透かしたようにクァルカスが声をかける。


「言っただろう、オル。……『きみには、今、それを口にする権利さえない』と」

「…………それは、《エンヘン・ディナ》と僕の決闘のことを言っているのですか?」


 オルは見つめた。クァルカス・カイト・レインフォートを。

 決闘の勝利者は、《エンヘン・ディナ》だ。勝負の勝利者であるクァルカスにだってそれは譲れない。

 勝者の遺体を自由にできる敗者なんて、いるわけがない。そう、オルは考える。


「……オル。私とて《戦士》だ。誉れ高き戦いを認めないわけじゃない。……だが、死者はやはりすべてを喪ってしかるべき。それがこの世の常だ。……死者に勝利を譲る生者など」

「なにが言いたいのですか?」

「……きみは、舞台に上がってすらいないんだよ。……舞台をただ眺めて、喚声を上げる承認者。観客だ」


――オルにはクァルカスの言う意味がちっともわからない。

 わからないけれど、ひとつだけわかったことがある。


「……わかりました。……僕だって、レシルなんかの奴隷はごめんです」

「私だって、糞野郎へんたいが奴隷なんて願い下げだ!」


 レシルの絶叫に幌馬車が震撼している。

 怯える馬を御するのにルドニスがだいぶ苦労しているようだ。


「それなら話が早い。……そこでだ、オルレイウス。きみは流れ上、《共和国》での解放奴隷身分を得る。……いや、《エンヘン・ディナ》を倒したことを冒険者ギルドに申告すれば、一躍《最上位冒険者》の仲間入りをすることも可能かもしれない。だが、どちらにしてもルエルヴァには行かなければならない。……不服ならば」

「僕が、理解したことは、そんなことじゃない!!」


 オルは怒鳴った。今世でも、転生する前でも、怒りに肚の底から声を荒げたことなど記憶にはなかった。

 それでも、怒鳴っていた。

 大きく見開かれ、冷静さに細められるクァルカスの目を睨みながら、オルは絞り出す。


「……僕はあなたがキライだ。それをたった今理解した……クァルカス・カイト・レインフォート」

「……それが?」


 オルに選択肢を与えているようで、誘導しようとするクァルカス。

 どこまでも、オルを制御しようとするクァルカス。

 その動揺しそうにない灰色の瞳。


「僕をあなたの立っている舞台上へと導け! クァルカス・カイト・レインフォート!!」


 オルのその言葉に、《優良者》クァルカスの瞳が揺れる。


「……それは、どういう意味、かな?」


 クァルカスの試すような視線。

 オルは怒りと共にそれを睨み返す。


「あなたが、どこまでも僕に先んじようとするならば、僕はそれを凌駕してみせる!」

「…………」

「あなたが、どれだけ僕の先を歩んでいようとも、僕はそれを追い越して見せる!」


 オルは思っていた。

 単純なレシルよりも、よほど老獪なクァルカスのほうがキライだ。


……それでも、今は、そのクァルカスに何よりも認められたい。

 彼よりも、あらゆる意味で強くなりたい、と。


「だから! 僕を連れていけ! クァルカス・カイト・レインフォート!! あなたが立っている舞台上へ!!!」

「……それは、依頼、ということなのか……オルレイウス?」

「……っ! そうだ!」

「ならば、私が受け取る報酬は?」


 クァルカスの怜悧な灰色の瞳。

 それが、まだ、オルを試していた。


「…………あなたがまだ見たことのない景色」

「なんだと?」


 顔をゆがめたクァルカスに向かってオルは吼える。


「あなたが、未だ、目にしたことのない光景を、僕があなたのその瞳に映して見せる!」


 呆然とするクァルカス。

 それも当然のことかもしれない。そう、オルは思った。

 たった十三にすぎない少年の言葉が、歴戦の冒険者の心を動かすとは、到底思えない。


「…………馬鹿々々しい。きみはもっと賢いと」

「受けよ、クァル」


 驚きに目を見開いたオルの瞳に映ったのは、ロスの微笑み。

 クァルカスも驚きに目をみはっている。


「……なにを言っているんだ、ロス?」

「師匠命令じゃ。この依頼を受けよ。我が、唯一にして最良の弟子……クァルカス・カイト・レインフォート」


 オルが初めて見る、クァルカスの呆然とした表情。


「……本気なのか? ロス」

「ああ、至って正気じゃとも。……オルレイウスを、お前の弟子とせよ」


 珍しく微妙に情けない顔をしてみせるクァルカスに、オルは手を差し出した。


「――さあ、この手を取れよ、クァルカス!」



 オルの高らかな宣言に、クァルカス・カイト・レインフォートが、ゆっくりと緩慢に手を伸ばした――



 〓〓〓



 こうして、《最良者》クァルカス・カイト・レインフォートにひとりの徒弟が誕生した。

 この出会いがいかなる展開をもたらすか、《裸神》に報せを送る遣い《蛇》たる《ピュートーン》にも未だ知れない。


……ちなみに、この物語りにオルレイウスの視点が欠如している理由は、この《ピュート》が代弁していたからにほかならない。

 至上の尊位にあらせられる巨神の統率者、《裸神》にそれをお知らせする。


――《竜族ドラコーン》《ピュートーン》――



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