初めてのソロ狩り①
昨日はコムル。
今日は仕事。
でも、頭の中はまだコムル。
今回は少しだけ現実に戻って、職場でのお話です。
ゲームの中で一緒に遊ぶようになると、普段顔を合わせている相手まで、なんとなく違って見えてくる。
そして夜。
風月もいない。
マクビさんもいない。
ついに、一人で狩りへ行くことになりました。
それでは、続きをどうぞ。
翌朝。
目覚ましの音で目を覚ます。
「…………」
眠い。
猛烈に眠い。
原因は分かっている。
昨日のコムルだ。
2万円課金して、億単位のKalzを手に入れ、11億の装備を買った。
レベル110になり、マクビさんに殺され、本物のPKにも遭遇した。
「…………」
情報量が多い。
しかも寝る直前までコムルのことを考えていたせいで、完全に寝不足である。
たった数日前まで、仕事が終われば飯を食って、テレビを見て、適当に過ごしていた。
それが今では……。
次はどこで狩ろう。
新しい装備でどれくらい強くなった?
俺のODって何なんだろう。
気づけば、そんなことばかり考えている。
「…………」
完全にハマってんな、俺。
まあ……楽しいからいいか。
◇ ◇ ◇
重い身体を引きずって出勤。
「おはようございまーす」
いつものように挨拶をしながら、自分の持ち場へ向かう。
『おはよ』
風月だ。
「おっす……」
『何その顔』
「眠い」
『何時に寝たん?』
「知らん」
『知らんって何だよ』
風月が笑う。
「お前らのせいだからな」
『なんで俺まで入ってんの?』
くそ……。
同じ時間までゲームをしていたはずなのに、こいつは普通に元気だ。
なんか腹立つ。
「…………」
昨日の夜。
こいつはPKを数秒で瞬殺した。
そして今は、何事もなかったように仕事をしている。
なんだか変な感じだ。
『何?』
「いや……お前、普通に仕事してるんだなと思って」
『当たり前だろ』
「昨日PK瞬殺してたのに」
『それとこれ何の関係があんだよ!』
確かに。
何の関係もない。
でも……。
今まで職場でしか知らなかった風月に、コムルの中の風月が加わった。
同じ人間なのに、少しだけ違って見える。
ネトゲで一緒に遊ぶって、こういう感じなのかもしれない。
◇ ◇ ◇
昼休み。
飯を食った俺は、煙草を持って喫煙所へ向かった。
「お疲れさまでーす」
先にいた人たちへ軽く頭を下げ、煙草に火をつける。
「ふぅ……」
しばらくすると、扉が開いた。
マクビさんだ。
別部署なので、仕事中に顔を合わせることはほとんどない。
だが昨夜は、コムルの中でずっと一緒だった。
目が合う。
そして……。
ニヤッ。
「…………」
嫌な予感。
『よぉ、糞雑魚』
「職場でもそれ言うの!?」
マクビさんが笑いながら煙草へ火をつける。
「せめて会社では普通に接してくださいよ」
『普通やん』
「どこが!」
顔を見た瞬間、昨日の18万ロストを思い出した。
……腹立ってきた。
「そういや先輩。昨日の件、まだ許してないっすからね」
『昨日?』
「俺を殺した件ですよ!」
『あぁ……あれ洗礼だよ』
なぜか遠い目をする。
「そんな洗礼あるかい!」
そこへ風月も入ってきた。
『何騒いでんの?』
「聞いて! この人まだ昨日のMPKを洗礼とか言ってんのよ!」
『でも200%スクロール貰ったやん』
「それとこれとは別!」
『結果的にプラスやん』
「お前はどっちの味方なんだよ!」
マクビさんが笑う。
『ゲームで1回死んだくらいで小せぇ男やな』
「殺した本人が言うな!」
2人が笑う。
「…………」
敵しかいない。
「いつか絶対仕返ししますからね」
『俺に?』
マクビさんがニヤリ。
「…………」
昨日のPK戦が頭をよぎる。
4体のエレメンタル。
バフを剥がされ、逃げることすらできなかったPK。
……勝てる気がしない。
「まあ……いつか……」
『急に弱気になんなや』
風月が爆笑する。
『たこみじゃ100回やっても無理じゃね?』
「うるせぇ! お前もだからな!」
『俺も!?』
3人で笑う。
場所は会社の喫煙所。
話しているのは経験値だのMPKだのPKだの……。
完全にコムル。
数日前までは、ただの職場仲間だった風月と、別部署の先輩だったマクビさん。
それが今では、昨日ゲームで起きたことを昼休みに話して笑っている。
なんだか……。
悪くない。
◇ ◇ ◇
「そういや今日どうするん?」
俺が聞く。
『俺、今日は遅くなるよ』
風月が答える。
「え?」
『仕事終わってから用事あるから』
「マジか……」
俺はマクビさんを見る。
「先輩は?」
『俺も今日は分からんなぁ』
「…………」
2人ともいない。
たった数日前まで一人で遊ぶのが普通だったのに、少しだけ心細く感じた。
いつの間にか。
分からなければ風月に聞く。
強い敵がいればマクビさんに任せる。
それが当たり前になり始めていたらしい。
「……俺、何すればいいん?」
『知らんがな』
風月、即答。
「先生!」
『自分で狩り行けばいいやん』
「…………」
ソロ狩り。
マクビさんも頷く。
『ちょうどいいやん。昨日装備揃えたんだし』
「あ……」
そういえば。
ジェットブラックを装備してから、まともに自分で戦っていない。
昨日はマクビさんの横で……。
経験値吸う係。
「…………」
今の俺って。
どれくらい強くなったんだ?
そう考えると、不安より興味の方が勝った。
『POT買っとけよ』
「…………」
昨日の死亡シーンが蘇る。
「分かってますよ!」
『重量も見とけよ』
風月まで続く。
「分かっとる!」
『無理して奥行くなよ』
「俺を何歳児だと思ってんだ!」
『コムル歴なら生後数日』
「…………」
言い返せない。
完全に赤ちゃんである。
マクビさんが笑う。
『まあ、一回一人でやってみれば?』
「…………」
今までは、2人の後ろについていけばよかった。
でも。
装備も手に入れた。
レベルも110になった。
知識だって、ほんの少しは増えた。
だったら……。
そろそろ一人でどこまでやれるのか、試してみたい。
「……よし」
短くなった煙草を灰皿へ押しつける。
「今日は一人で狩ってみますわ」
『死ぬなよ』
「死なんわ」
『死んだら報告しろよ』
マクビさんがニヤリ。
「なんで?」
『笑うから』
「絶対報告せん!」
昼休み終了。
マクビさんは自分の部署へ。
俺と風月も、それぞれ仕事へ戻っていく。
でも……。
俺の頭の中は、もう夜のことでいっぱいだった。
初めてのソロ狩り。
今の俺は。
一体どこまでやれるんだろう。
少し不安で。
それ以上に……。
早く試してみたかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
数日前まで、
風月はただの同僚。
マクビさんは別部署の先輩。
それだけでした。
でも、一緒にゲームを始めると少し変わるんですよね。
昨日ゲーム内で起きたことを、翌日の昼休みに喫煙所で話す。
「あれは酷かった」
「いや、洗礼やろ」
そんなくだらない話で笑う。
今振り返ると、こういう時間もMMOの楽しさの一つだった気がします。
そして俺は、いつの間にか2人を頼るのが当たり前になっていました。
分からなければ風月。
困ったらマクビさん。
……まあ、マクビさんはたまに殺してきますが。
そんな2人がいない夜。
ようやくジェットブラック装備で、本格的なソロ狩りに挑戦します。
レベル110。
装備もある。
POTも……今度こそ忘れない。
もう初心者とは呼ばせない。
……たぶん。
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それでは、また次回!
初めてのソロ狩り。
果たして「コムル歴・生後数日」の俺は、一人でどこまでやれるのか。




