俺と風月とパワレベ万歳
前回、ようやく風月と合流した俺。
今回はいよいよ、
「風月先生のコムルオンライン初心者講座」
開講です。
装備。
ステータス。
GD。
そして、初めてのパワーレベリング。
昨日まで素足でチェシュカを走り回っていた初心者が、一晩でどこまで変わるのか。
それでは、続きをどうぞ。
風月先生による、コムルオンライン初心者講座が始まった。
まずレベル。
上限は210。
ただし……。
「210まで上げたヤツはおらん」
いきなり夢のない話である。
続いて装備。
NPCから買う。
モンスターから拾う。
課金ガチャで手に入れる。
ボス素材から作る。
大きく分ければ、この4つ。
「NPC装備は?」
「論外」
先生、即答。
昨日、76,000Kalzのロングソードを買おうとしていた俺は、危うく初心者ホイホイに引っかかるところだったらしい。
そして、強い装備になれば数億。
さらに上を目指せば数十億Kalz。
「…………」
自分の所持金を見る。
なんとなく現実の財布も見る。
……。
どっちを見ても悲しくなったのでやめた。
ちなみに風月が着ているのは『カイエンの正義』。
フルセットで9億Kalzはくだらないらしい。
昨日まで「なんか強そう」としか思っていなかった装備が、値段を聞いた途端……。
妙に輝いて見える。
人間とは現金なものである。
◇ ◇ ◇
そして、装備の中でも特殊なのが対人戦で手に入るもの。
バトルダンジョン。
通称……BD。
ギルド同士でダンジョンを奪い合い、防衛を重ねることで貴重な素材が手に入るらしい。
その素材を巡って、ギルド同士が本気で戦う。
「へぇ……」
俺は軽く相槌を打った。
今いるルディロスは平和そのものだ。
露店を出す人。
走り回る人。
チャットをする人。
そんな世界のどこかで、プレイヤー同士がダンジョンを奪い合っている。
……らしい。
この時の俺には、完全に他人事だった。
まさか後々。
自分がそこへどっぷり浸かるとも知らずに。
◇ ◇ ◇
続いてステータス。
レベルが上がるとポイントがもらえ、ファイターなら基本はSTR。
そしてSTRを上げると攻撃力だけでなく……重量にも余裕ができる。
「…………」
待てよ?
昨日の時点でSTR振ってれば……。
靴、履けたんじゃね?
「おおおおおっ……!」
頭を抱える。
重量オーバーでノソノソ歩いた俺。
靴を脱いでチェシュカを駆け回った俺。
全部なんだったんだ。
「まあ、適当に振らんかっただけマシやけどな」
「え?」
「初心者あるあるなんよ。変なステータス振って、後から作り直すヤツ」
振り直しアイテム。
約2,000円。
「…………」
高ぇ。
何も考えず放置していただけなのに、結果的にはファインプレーだったらしい。
◇ ◇ ◇
「で、次はGDな」
「GD?」
「ガーディアン。ペットみたいなもん」
風月が何かを操作する。
すると青白い光の中から、巨大な何かが現れた。
白銀の装甲。
深青色の結晶。
赤く光る単眼。
見るからにヤバい。
「うおっ、なにそれ!」
「アラー。雑魚いお前には絶対必要」
「…………」
明日、職場で殴ろう。
GDは一緒に戦ってくれる存在で、育てればかなり強くなるらしい。
ただし寿命があり、延命するにはアイテムが必要。
「露店なら1個300万くらい」
「…………」
このゲーム、何かと桁がおかしい。
「まあ、とりあえず1匹やるわ」
トレード欄に『GDの石』とスキルブックが入る。
「マジ?」
「育てながらレベル上げなよ」
……風月め。
かわいいヤツである。
さっきの暴言は水に流そう。
さっそくGDをセット。
「これどーすんの?」
「CtrlとG」
カチッ。
俺のファイターの足元に光が集まり……。
現れた。
人のような身体。
鋭い顔。
背中には大きな翼。
両手には長柄武器。
その名は……。
ツバイス。
「おおお……!」
かっけぇ。
めちゃくちゃかっけぇ。
ただし。
俺の横に……。
ちょこん。
「…………」
思ってたんと違う。
でも、かわいい。
さらに『アイスウェーブ』というスキルも覚えさせる。
ただスキルが1つ増えただけなのに、俺自身まで強くなった気がした。
◇ ◇ ◇
その後。
風月から突然トレードが飛んできた。
「はよ確認押して」
「お、おう」
カチッ。
20,000,000Kalz。
「…………」
桁を数える。
1、10、100、1,000……。
「ええええええ!?」
2,000万Kalz。
「こんなにもろていいの!?」
「ええよ。どうせすぐ貯まるし」
どうせ。
その言葉の軽さが怖い。
「さて、説明も終わったしパワレベ行くべ」
「おお!」
「ポーション500個と双子のカード50枚買っといて」
500個。
50枚。
初心者のお買い物とは思えない。
まあいい。
俺には今、2,000万ある。
金ならある。
言ってみたかっただけである。
◇ ◇ ◇
風月に連れられ、いくつもの町やダンジョンを回った。
知らない景色。
知らない地名。
知らないモンスター。
正直、どこがどこなのか全く分からない。
まあ……。
未来の俺が何とかするだろう。
そして辿り着いたのが……。
『タルノト』
今日のパワーレベリング会場である。
薄暗い石造りのダンジョン。
風月に呼ばれ、奥の部屋へ入った瞬間……。
「うおっ!?」
暗闇からマミーが飛び出してきた。
1匹。
2匹。
3匹。
気づけば8匹ほど。
「多っ!」
昨日までのチェシュカとは明らかに違う。
だが、風月は動じない。
巨大なアラーが前へ出る。
その足元から白い冷気が噴き上がり……。
シャァァァン……!
氷の波が部屋いっぱいに広がった。
ダメージ表示が一斉に跳ね上がる。
マミーたちが次々と崩れ落ちた。
「おお……」
これが……アイスウェーブ。
昨日までチェシュカでヒイヒイ言っていた俺には、完全に別世界だった。
「ちゃんとGD出しとけよ!」
「お、おう!」
Ctrl+G。
ツバイス召喚。
ちょこん。
「…………」
目の前では巨大なアラーがマミーを蹴散らしている。
その横に立つ、小粒のツバイス。
同じGD。
同じGDのはずなのだが……。
親子かな?
頑張れ。
いつかああなれ。
◇ ◇ ◇
そこからは、とんでもなかった。
シャーン!
マミーが倒れる。
レベルが上がる。
また倒れる。
また上がる。
「あれ?」
自分のステータスを見る。
レベル40。
「やっば! 風月! 俺もう40!」
「いや、雑魚やろ」
即答。
「今日中に100まで上げるぞ」
「ええええええ!?」
さらに経験値2倍アイテムまで渡される。
そこからはもう……。
マミーが倒れる。
レベルが上がる。
ツバイスも育つ。
風月が何か説明している。
またマミーが倒れる。
またレベルが上がる。
非常に大切な話だったと思う。
思うのだが……。
この辺りから情報量が多すぎたので割愛する。
ちなみに俺とツバイスは……。
棒立ち。
画面の中の俺は立っている。
現実の俺は椅子に座っている。
どちらも何もしていない。
「…………」
暇である。
「ねぇ、俺も攻撃したらあかんの?」
「してもええけど、死ぬよ?」
「お?」
「雑魚やし」
「あ、はい。やめときます」
即決だった。
たまにマミーがこちらへ流れてくれば、ポーションを連打。
戦っているというより……。
薬を飲みながら見学している。
◇ ◇ ◇
そして深夜。
「レベル見てみ」
「ん?」
ステータス画面を開く。
103。
「…………」
昨日。
レベル20。
今日。
レベル103。
「お、おおおおお……」
パワーレベリング。
おそるべし。
だが、喜ぶ俺に風月先生からありがたいお言葉が飛んできた。
「レベルだけ上がったけど、お前まだ雑魚やからな」
「…………」
装備は弱い。
知識もない。
中身がレベルに追いついていない。
「しばらくタルノトでPT覚えながら装備集めた方がいいな」
「なるほど」
「あと課金や」
出た。
この男。
ナチュラルに課金を勧めてくる。
ガチ勢、恐るべし。
「明日はマクさんも呼ぶわ」
「マクさん?」
「先輩。キャラ名マクビ」
「ああ!」
先輩もこのゲームをやっていた。
そこで、ふと気になった。
「風月ってレベルなんぼなん?」
「158。先輩は160以上やったかな」
「…………」
俺。
103。
風月。
158。
マクビさん。
160以上。
結構追いついたんじゃない?
などと思った数秒前の自分を殴りたい。
「ひぇぇ……頑張るわ」
そして俺は……。
課金することを心に決めた。
◇ ◇ ◇
翌日。
午後9時。
再びタルノト。
PTリストには3人。
俺。
風月。
そして……先輩こと、マクビさん。
今日もマミーを狩ってレベル上げ。
そのはずだった。
ふいに……。
チャット欄の流れが変わった。
「ん?」
白い文字が次々と流れていく。
明らかに様子がおかしい。
俺はマウスを止めた。
そして……。
その文字を見た。
『PKだ!!!!!』
「……え?」
さっきまでただの背景だったタルノトが、一瞬で違う場所に見えた。
薄暗い石壁。
枝分かれした通路。
その先の暗闇。
このダンジョンのどこかに……。
他のプレイヤーを狙っているヤツがいる。
俺は無意識にマウスを握り直した。
PK。
その2文字の意味を。
そして……。
モンスターではなく、人間に狙われる怖さを。
俺はこのあと、初めて知ることになる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
昨日までレベル20。
今日、レベル103。
これが俺にとって初めての「パワレベ」でした。
レベルがポンポン上がっていくのが嬉しくて、数字を見るたびにテンションが上がる。
でも実際にやっていることは……。
棒立ち。
風月のGDがマミーを蹴散らす横で、俺とツバイスは仲良く見学です。
それでも当時は、ものすごく楽しかったのを覚えています。
そして今回、ようやく相棒となるGD「ツバイス」も登場しました。
まだちょこんとしていますが、この先どんどん成長していきます。
俺も成長します。
……たぶん。
そして最後に出てきた、
『PKだ!!!!!』
俺がコムルを始めるきっかけになった言葉でもあります。
昼休みに聞いた時は、ただ「なんか面白そう」と思っただけ。
でも今度は、自分がその世界の中にいる。
ここから俺の知っていたRPGとは、また少し違う世界が見えてきます。
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それでは、また次回。
……初PK。
初心者には、刺激が強すぎました。




