最強装備(自称)を手に入れた俺…靴がはけない
前回、親切なプレイヤーから装備をもらい、
ついにアイテムの拾い方まで覚えた俺。
もう初心者ではない。
……本人だけは、そう思っています。
今回は、そんな初心者が「装備」と「重量」という新たな壁にぶつかります。
それでは、続きをどうぞ。
人間って、実に単純なものである。
昨日までサボテン相手に必死になっていた男が、見知らぬプレイヤーからちょっと強そうな装備をもらい、アイテムの拾い方を覚えただけで……。
「……俺、だいぶ分かってきたな」
なんて言い始める。
…………俺のことである。
チェシュカへ戻った俺は、さっそくアイテム欄を開いて、もらった装備を確認した。
数は5つ。
剣、盾、鎧、小手、そして靴。
プレイヤーは「ゴミ」と言っていたが、初心者の俺からすれば、どれも十分すぎるほど強そうに見える。
むしろショートソード1本で地下5階まで行った自分を褒めてやりたい。
いや。
褒めちゃダメだ。
ただの無謀である。
「どれどれ……」
まずは剣。
マルセンの旅支度……マルセンのソウルスレイヤー。
攻撃力や装備条件らしき数字が並んでいるが、意味はよく分からない。
ただ、ショートソードより数字が大きい。
大きいということは……たぶん強い。
初心者の判断基準なんて、だいたいそんなものである。
装備すると、銀色の刀身の中央に蒼い宝石が埋め込まれた剣へと変わった。
「おお……」
ソウルスレイヤー。
名前からして、魂を何個かまとめて斬れそうだ。
そして……かっこいい。
ショートソードの100倍はかっこいい。
いや、100倍は言いすぎかもしれない。
でも気持ちとしては100倍である。
次は盾。
高潔の盾……オーダーシールド。
銀色の重厚な盾で、ソウルスレイヤーと一緒に持たせると一気に戦士らしくなった。
「おぉ……イイ」
こういう無骨で存在感のある装備には、どうしても惹かれてしまう。
だって男の子だし……。
盾を持っただけで、急に「村を守る歴戦の戦士」感が出てきた。
実際には、数時間前までサボテンを必死に殴っていた男なのだが。
鎧と小手は、クオディッチの力。
カラペイスとブレイブハンド。
装備すると胴体と両腕が金属製の装甲に覆われ、一気にゴツくなる。
「硬そうやなぁ……」
これならサボテンに殴られても、サボテン側が「痛っ」と言いそうである。
そして最後。
ザフィの懺悔……懺悔の靴。
「名前、重っ」
履いただけで反省を強いられそうだ。
見た目は黒いブーツ。
派手ではないが……。
イイ。
実にイイ。
黒いブーツというだけで、なんとなく強者っぽい。
こうして5つの装備を身につけてみると……。
「おお……かっこいいやん……!」
さっきまでとは別人だった。
剣が違う。
盾が違う。
鎧が違う。
俺自身の知識も違う。
何より……地面に落ちているアイテムを拾える。
もう気分は中級者である。
いや。
下手をすると上級者の入口に、片足くらい突っ込んでいるのではないか。
ゲーム開始から、まだ数時間。
人間とは恐ろしいものである。
「よし!」
さっそく狩りに行こう。
俺は椅子から身を乗り出し、キャラクターを走らせた。
…………。
「動き遅っ!!!」
なんだこれ。
さっきまで軽快に走っていた俺のファイターが、ものすごく遅い。
走るどころか……。
のそのそ。
のそのそ。
「いやいやいや、遅すぎやろ!」
この速度では地下5階へ着く頃には、俺の方が寿命を迎えそうである。
「何が起きたんや……?」
アイテム欄を開いて調べてみる。
すると、隅の方に赤く表示された数字があった。
重量103%。
「…………」
おおう……。
ネトゲ初心者の俺にも分かった。
重量オーバーである。
強そうな装備を全部着込んだ結果、俺のファイターは戦う前から装備に負けていた。
「こ、これは……」
解決方法なんて分からない。
とりあえず歩いてみる。
のそっ。
「…………」
もう一歩。
のそっ。
もはや歩行ではない。
地面との交渉である。
「なんだこれ……」
仕方なく、装備を一度全部外してみる。
歩く。
…………。
「お」
普通に歩ける。
じゃあ、剣と鎧。
歩ける。
小手。
まだ歩ける。
最後に靴。
装備。
…………。
あ る け な い。
「お前か!」
どうやら、この靴を履くと重量オーバーになるらしい。
靴一足で、俺の冒険者人生が止まった。
「…………」
黒くてかっこいいのに。
名前も強そうなのに。
懺悔の靴。
なるほど。
俺は今、履いたことを少し後悔している。
「一旦、脱いどくか……」
こうして俺は、せっかくもらった靴だけを泣く泣く外した。
◇ ◇ ◇
靴問題さえ諦めれば、新しい装備はかなり強かった。
チェシュカへ戻った俺は、そのまま地下へ潜っていく。
「おらっ!」
ザシュッ!
モンスターが倒れる。
「おお!」
昨日まで苦戦していた相手が、明らかに楽になっている。
さらに倒す。
また倒す。
気づけばレベルも18になっていた。
地下4階までのモンスターなら、もうそれほど苦戦しない。
「俺……強くなってるやん」
これが楽しい。
ものすごく楽しい。
昨日まで必死になっていた相手が、今ではどんどん倒れていく。
RPGでレベルを上げる楽しさは知っていた。
でもオンラインゲームで、自分のキャラクターが少しずつ強くなっていく感覚は、また少し違った。
そして。
今回はもう一つ。
俺には新しく覚えた技がある。
モンスターを倒す。
地面にKalzが落ちる。
「来た!」
キーボードに指を伸ばす。
スペース。
チャリン。
「おお! 入った!」
所持金が増えた。
当たり前である。
だが、数時間前までその当たり前を知らなかった俺には、それだけで嬉しい。
またモンスターを倒す。
今度は白い袋が落ちた。
「おっ!」
スペース。
アイテムを拾う。
「何かのカード?」
アイテム欄に緑色のカードが追加された。
効果を見る。
「…………」
分からん。
だが、カードというだけで何となく強そうだ。
何となく強そうなら、それはもう半分くらい強い。
さらに狩りを続ける。
今度は青い袋。
「青い!」
これは絶対いいやつ。
俺の中で勝手に期待値が跳ね上がる。
「来い来い来い!」
スペース。
中身を確認。
「…………」
ショートソード。
「いらんやん……」
数時間前まで使っていた武器である。
だが……。
拾えた。
それだけで、なんとなく嬉しい。
昨日までの俺は、目の前にKalzやアイテムが落ちているのに、全部無視して帰っていたのだ。
「…………」
今さら、その事実がじわじわ効いてくる。
俺は画面を見ながら、小さく呟いた。
「俺……何しにチェシュカ来とったんや……」
ちょっとだけ恥ずかしくなった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
装備をもらった。
アイテムも拾えるようになった。
敵も楽に倒せるようになった。
もう俺、だいぶコムル分かってきたんじゃない?
……と思った直後の重量103%。
当時は重量なんてまったく気にしていなかったので、
「強い装備なら全部つければいい」
本気でそう思っていました。
そして、よりによって原因が「懺悔の靴」。
履いたことを後悔させるところまで含めて、実に素晴らしい名前です。
でも、この頃は本当に何を覚えても楽しかった。
敵を倒してKalzを拾う。
袋が落ちたらワクワクする。
中身を確認する。
ショートソード。
「いらんやん……」
そんなことの繰り返しなのに、気づけば何時間でも遊んでいました。
まだまだ初心者丸出しの俺ですが、少しずつコムルの世界を知っていきます。
ここまで一緒に楽しんでいただけていたら、いいねやブックマークをそっと押してもらえると嬉しいです。
それでは、また次回!
……とりあえず。
落ちてるKalzは全部拾います。




