↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔も知らない敵プレイヤーが、今では俺の嫁です!~すべてはあのMMOから始まった(旧題:GVGで敵だったアイツが俺の嫁になるまで…)  作者: むちゅぺろ
第一章 コムル オンライン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

MMOはあったかい……

今回は、俺が初めて「画面の向こうの人」と会話した頃のお話です。

アイテムの拾い方すら知らない。

露店も知らない。

もちろん、白チャの使い方だってよく分からない。

そんな初心者が、ついに他のプレイヤーへ話しかけます。

今では当たり前になったオンラインゲームでの交流。

でも当時の俺には、それだけでかなり勇気のいることでした。


それでは、続きをどうぞ。

**2026年**


「やっばい!」


リビングの向こうから、嫁の声が飛んできた。


「ん?」


ソファに座っていた俺が顔を上げる。


テーブルの上には布やら金具やら、作りかけの手帳やら。


嫁がネットフリマで販売しているハンドメイド作品だ。最近、それがどうにも好調らしい。


「毎日3個くらい売れてんだけど! 作るの追いつかんのやけど!」


「おぉ。嬉しい悲鳴やん。いい感じに軌道に乗れてんやん」


「んー。まだまだやろ。ひと月で50個は売れるようにしたい」


「へぇー」


「へぇーってなんよ」


「まあ、頑張れ!」


親指を立てる。


完全に他人事である。


嫁がこちらを見る。


「うわぁ……うざっ」


「なんでや!」


そんな感じで、俺たちは今でも憎まれ口を叩きながら、それなりに仲良くやっている。


嫁は今、MMOから離れている。


「子供が小学生になるくらいまでは無理だね」


本人はそう言っている。


とはいえ、俺が遊んでいるFF14を横から覗き込んでは、


「そこで死ぬ?」


「今の絶対お前が悪いやろ」


「その装備ダサくない?」


頼んでもいない実況を始める。


「うるせぇ!」


そう言うと、満足そうに笑いながら去っていく。


MMOは引退中。


口だけは現役である。


……そんな嫁と、俺が初めて出会った場所は。


職場でも、学校でも、友達の紹介でもなかった。


画面の向こう側。


オンラインゲームの世界だった。


もっとも、この頃の俺は……その「画面の向こうにいる人」とまともに会話する方法すら、まだ知らなかったのだが。


◇ ◇ ◇


話を戻そう。


時は、俺がコムルオンラインを始めたばかりの頃。


チェシュカ地下5階。


レベル13の俺は、レベル21のモヤモヤ光るエリゴールに挑み……。


見事に2発くらいで消し飛ばされた。


「…………」


さすがの俺でも思った。


これは……何かが足りない。


まあ。


全部足りないのだが。


「……一回、町戻るか」


このまま突撃を繰り返しても、勝てる未来がまったく見えない。


武器。


防具。


回復アイテム。


とりあえず、その辺を何とかしよう。


そう考えた俺はチェシュカを離れ、始まりの町ルディロスへ戻ることにした。


◇ ◇ ◇


**ルディロス**


ゲーム開始時に選択できる2つの町のうちの一つである。


もう一つはイダー。


砂漠の中にある町で、その上部にはなぜか湖がある。


砂漠。


その上に湖。


うむ。


ファンタジー世界あるあるである。


対するルディロスは、いかにもRPGの「始まりの町」といった雰囲気だった。


石畳の道。


洋風の建物。


中央には噴水と大きな女神像。


俺も深い理由などなく、こっちを選んでいた。


ただ、ゲームを始めたばかりの頃は町を見る余裕なんてなかった。


操作方法も分からない。


どこへ行けばいいかも分からない。


とりあえず外へ出る。


ダンジョンを見つける。


入る。


サボテンがいる。


殴る。


そんな感じだった。


だから改めて戻ってみると、初めて来た町のように感じた。


「おぉ……中々広いやん」


マウスを動かし、ゆっくりカメラを回す。


石畳の道を進んで、気になった細い路地へ入ってみる。


行き止まり。


「なんもないんかい」


今度は階段を見つける。


登る。


何もない。


「ないんかい」


ゲーム的には無駄である。


だが、それすら楽しかった。


自分のキャラクターで知らない町を歩いている。


それだけなのに、本当に知らない土地を散歩しているような気分になる。


そして、町並み以上に俺の目を引いたものがあった。


「……人、多っ」


プレイヤーだ。


初心者っぽいファイター。


召喚獣を連れたサマナー。


弓を背負ったレンジャー。


派手な装備を身につけたプレイヤーもいる。


「なんやあの武器……」


デカい。


光っている。


強そう。


「絶対つえーやん……」


気づけばカメラで追いかけていた。


その人が走る。


俺の視点も動く。


そして……見失う。


「あ」


知らない人である。


何の関係もない。


なのに、なんとなく気になる。


町を走っている人。


噴水の横にいる人。


何もせず座っている人。


その全員がNPCではない。


画面の向こうのどこかで、俺と同じようにPCの前に座り、このキャラクターを動かしている。


「……すげぇな」


何度考えても、やっぱりワクワクする。


◇ ◇ ◇


とはいえ、俺が戻ってきた目的は観光ではない。


「そうや。装備や」


エリゴールにぶち殺された原因。


たぶん装備。


少なくとも俺はそう思っていた。


「武器屋……武器屋……」


町を歩く。


…………。


「どこよ?」


NPCはポツポツ立っているが、誰が何の店なのかよく分からない。


一人に話しかける。


違う。


次。


違う。


さらに次。


「おっ」


ようやく商品一覧らしき画面が開いた。


武器屋。


「見つけた!」


NPCの名前はロコ。


「ロコさんね。じゃあ武器見せてもらいますよっと……」


商品一覧を見る。


剣。


剣。


剣。


「…………」


正直、何が強いのか分からない。


攻撃力らしき数字や必要レベルらしきものが色々書いてあるが、初心者の俺にはほぼ暗号である。


「まあ……強そうな名前のでいいやろ」


目についた武器を選んだ。


ロングソード。


「お、これでいいやん」


価格。


76,000Kalz。


「…………」


ん?


画面に顔を近づける。


76,000Kalz。


「7万……?」


右下の所持金を見る。


100Kalz。


もう一度見る。


ロングソード。


76,000Kalz。


俺。


100Kalz。


「…………え?」


椅子に座ったまま固まる。


「いやいやいやいや」


ロングソードよ?


RPGによっては、下手すりゃ初期装備で渡されるやつよ?


伝説の剣じゃない。


エクスカリバーでもない。


ロングソード。


76,000。


俺。


100。


「買えるわけないやん!」


ゲーム開始直後に住宅ローンを提示されたような気分である。


◇ ◇ ◇


ここで一つ、疑問が浮かんだ。


「……おかしくね?」


俺はチェシュカで結構な数のモンスターを倒している。


死んだ回数も多いが、倒した数だってそれなりだ。


なのに……所持金100Kalz。


「いや……何かがおかしい」


そこで、チェシュカでの光景を思い返した。


モンスターを倒したあと。


地面に何か落ちていた。


「…………」


Kalz。


確かに落ちていた。


白い袋みたいなものも。


たまに青い袋も。


「…………」


俺。


一度も拾ってない。


「…………」


なぜ?


Why?


画面の前で腕を組む。


「……自動で入るんじゃないの?」


家庭用RPGなら、敵を倒せば、


『50ゴールドを手に入れた!』


勝手に財布へ入ってくる。


だから俺は、落ちている物も自動的に取得しているものだと思っていた。


「……あれ、拾わないかんの?」


しかし。


拾い方が分からない。


「…………」


詰んだ。


◇ ◇ ◇


「まあ……もう一回チェシュカ行くか」


何の解決にもなっていない。


だが、そういう結論になった。


その前に広場へ戻ると、さっきから気になっていた人たちが目に入った。


「……あれ何してんの?」


座っている。


とにかく、どっしり座っている。


一人じゃない。


噴水の周りにも。


道沿いにも。


広場の端にも。


しかも、頭の上には吹き出しのようなものが出ている。


『○○売ります』


『装備販売中』


『激安』


『○○募集中ササヨロ』


「なんじゃこりゃ」


このときの俺はまだ知らなかった。


これがMMOの町では当たり前の光景。


露店。


プレイヤー自身が店を開き、手に入れた装備やアイテムを他のプレイヤーへ販売するシステムである。


だが、それより今は……。


「……一回、誰かに聞いた方が早くない?」


そう。


ついに俺は、画面の向こう側にいる人間へ、自分から話しかけてみることにした。


◇ ◇ ◇


チャット欄を見る。


文字を入力できそうな場所がある。


「ここか?」


とりあえず打ち込んでみる。


『すいません。チェシュカでいっぱいモンスターを倒したのにお金がたまらないのはなぜですか?』


「…………」


Enter。


送信。


これが、俺の記憶にある限り……コムルオンラインで初めて発した白チャだった。


白チャ。


正式にはSay。


周囲にいるプレイヤーへ発言が表示される、いわゆるオープンチャットである。


後々、散々使うことになるのだが……。


送信した瞬間。


俺はなんとなく後悔した。


「…………」


誰も返事をしない。


「……あれ?」


数秒。


返事なし。


『誰こいつ?』


『そんなことも知らんの?』


『自分で調べろよ』


そんなことを思われている気がしてくる。


「…………」


今思えば、完全に初心者丸出しである。


下手をすれば、


『ググれカス』


の一言で終わっていてもおかしくない。


マウスを握ったまま、少し恥ずかしくなってくる。


「聞かん方がよかったか……」


そう思った、そのとき。


チャット欄に文字が流れた。


『スペースを押したら拾えますよ!』


「……お?」


続けて、別のプレイヤーからも返事が来る。


『分かりづらいですもんねー』


「…………」


普通に。


優しい。


「スペース……」


キーボードを見る。


中央の大きなキー。


「これか」


カチッ。


なるほど。


スペース。


覚えた。


ゲーム開始から数時間。


俺はついに……アイテムの拾い方を習得した。


遅い。


ものすごく遅い。


◇ ◇ ◇


そんなやり取りをしていると、露店を出していた一人のプレイヤーが立ち上がった。


そして、そのまま俺のところへ近づいてくる。


「ん?」


ピコン!


突然、画面に何かが表示された。


「うおっ。なんやこれ?」


よく分からない。


とりあえず『確認』を押す。


すると、小さな収納BOXのようなウインドウが開いた。


「……?」


中には剣や防具。


しかも、さっきロコさんの店で見ていた装備より明らかに強そうだ。


「え?」


理解が追いつかない。


「え? あ? へ?」


うむ。


我ながら気持ち悪い声だったと思う。


すると、チャットが飛んできた。


『ゴミなんであげますよ。狩り頑張ってください!』


「…………」


ゴミ。


今、ゴミって言った?


俺からすれば……宝の山である。


『ええええええ! いいんですか?』


『いいですよ』


あっさり返事が来る。


すると、さっき拾い方を教えてくれたプレイヤーも会話に入ってきた。


『おお、装備もらったんですね』


さらにもう一人。


『俺も渡したいけど今ゴミみたいなのないので、狩り頑張って!』


「…………」


なんだ、この世界。


知らない人にアイテムの拾い方を教えてもらい、さらに知らない人から装備まで貰っている。


現実なら、町中で知らない男が、


「財布の使い方分かりません!」


と叫んでいたら、たぶん距離を取る。


だが……ここでは違った。


『ありがとうございます! 頑張ります! お金もちゃんと拾います!』


慣れないキーボードで打ち込み、送信。


すぐに返事が来た。


『よくルディロスで露店出してるので、良いのあったら買ってくださいね!』


「露店……?」


ここで初めて、その言葉を知った。


頭に吹き出しを出して、どっしり座っている人たち。


あれは休憩していたわけでも、ただ放置していたわけでもない。


自分で手に入れたアイテムに、自分で値段をつけ、他のプレイヤーへ売っている。


プレイヤーの店。


露店だったのだ。


「…………」


改めてルディロスの広場を見る。


さっきまで、ただ座っている人の群れにしか見えなかった。


だが……意味が分かった瞬間、景色が変わった。


これは……市場だ。


誰かが狩りで手に入れた武器。


もう使わなくなった防具。


珍しいアイテム。


それを売る人がいて、買う人がいて、眺めている人がいる。


そのすべてをNPCではなく、プレイヤーがやっている。


「……すげぇな」


自然と笑っていた。


モンスターを倒すだけじゃない。


人から買う。


人に売る。


人に聞く。


誰かが答える。


誰かから物を貰う。


俺の知らないところで、ゲームの中にちゃんと人の生活みたいなものが出来上がっている。


「ネトゲ……」


マウスを握り直す。


「マジでおもしれぇな」


◇ ◇ ◇


『ありがとうございます! 本当に感謝です!』


最後にもう一度チャットを打った。


『頑張ってー』


『いってらっしゃい』


そんな言葉が返ってくる。


「よし」


俺は椅子に座り直した。


装備。


前より強い。


アイテムの拾い方。


覚えた。


そして何より……。


ゲームの中にいる知らない人と、初めて会話した。


目的は決まっている。


レベルを上げる。


Kalzを拾う。


装備も拾う。


そして、いつか……。


あのモヤモヤ光るエリゴールをぶっ倒す。


妙な自信に満ち溢れながら、俺は再びチェシュカへ向かった。


このときの俺は、まだ知らない。


今日、何気なく打った一行の白チャ。


知らない誰かから返ってきた返事。


それが、この先オンラインゲームで何年も遊び続ける俺にとって、大きな意味を持つことになる。


画面の向こうにいるのはNPCじゃない。


ちゃんと、人間なのだ。


そして……。


その中の一人と、いつか俺はとんでもなく深く関わることになる。


……まあ。


そんなことより。


今は、落ちているKalzを拾う方が先だ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今思い返しても、

「敵を倒したら、お金は勝手に入る」

と本気で思っていた自分が恐ろしいです。

数時間モンスターを狩って、所持金100Kalz。

そりゃロングソードも買えません。

でも、この「アイテムの拾い方が分からない」という小さな出来事が、俺にとってはオンラインゲームの面白さを知るきっかけの一つになりました。

分からないから、人に聞く。

知らない人が答えてくれる。

さらに装備までくれる。

そして「頑張って」と送り出してくれる。

画面の向こうにいるのは、本当に人なんだ。

そんな当たり前のことに、妙に感動したのを覚えています。

ここから少しずつ、俺のコムル生活にも「人との出会い」が増えていきます。

そして、その出会いの先にはもちろん……。

例の「ヤツ」もいます。

まだまだ先は長いですが、一緒に当時のネトゲ世界を楽しんでもらえたら嬉しいです。

「懐かしいな」「初心者あるあるだな」と少しでも楽しんでもらえたら、いいねやブックマークをそっと押してもらえると、かなり喜びます。


それでは、また次回!


……次からはちゃんとKalz拾います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。