↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔も知らない敵プレイヤーが、今では俺の嫁です!~すべてはあのMMOから始まった(旧題:GVGで敵だったアイツが俺の嫁になるまで…)  作者: むちゅぺろ
第一章 コムル オンライン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

俺とコムルの出会い

ここから、すべての始まりです。


まだMMOも、PKも、GvGもよく分かっていなかった頃。

きっかけは、会社の喫煙所で聞こえてきた何気ない会話でした。

そして俺は……。

人生初のオンラインゲームへ足を踏み入れます。

小さい頃から、ゲームは好きだった。


アクション、格闘、シミュレーション。いろんなジャンルのゲームをやってきたけれど、その中でも特に好きだったのはRPGだ。


小学生の頃は、学校が終わると友達の家に集まって、みんなで同じRPGをやっていた。


「そこ右! 右に宝箱あるって!」

「いや、先にボス倒そうぜ!」

「待て待て、俺まだそこまで行ってない!」


そんなことを言いながら、一人用のゲームを何人かで囲んで遊ぶ。今思えば、ずいぶん不思議な遊び方だ。


でも、あの頃の俺にとってゲームとはそういうものだった。


誰かの家に集まって、同じ画面を見て、一緒に笑う。


まさかその何年か後、画面の向こうにいる顔も本名も知らない人間と一緒に冒険するようになるなんて。


ましてや、その世界で出会った一人のプレイヤーが、後に俺の人生そのものに関わってくるなんて……。


このときの俺は、知る由もなかった。


◇ ◇ ◇


大人になった俺は、ごく普通に就職した。


朝起きて会社へ行き、仕事をして、同僚とくだらない話をして、仕事が終われば家へ帰る。別に仕事が嫌いだったわけじゃないし、かといって何か大きな夢があったわけでもない。


良く言えば平和。

悪く言えば……平々凡々。


そんな毎日を送っていた。


「ちょっと一服してくるわ」


ある日の仕事中、いつものように休憩を見つけて喫煙所へ向かった。


中に入ると、先客が二人いた。


一人は別部署の先輩。仕事ではそれなりに頼りになる人なのだが、休憩中はだいたいくだらない話をしている。


もう一人は同じ部署の同僚。歳も近く、普段からよく話す間柄だ。


二人は俺に気づく様子もなく、何やら楽しそうに話していた。俺はたばこを一本取り出し、ライターで火をつける。


カチッ。


煙を吐き出しながら、なんとなく二人の会話を聞いていた。


「昨日、とあるダンジョンでPKにあったんよ」


先輩が、どうでもいい世間話でもするような口調で言った。


「まぁ、返り討ちにしたけど」


「へぇ~。なんて名前なん? 今度、俺もカモろうかな?」


「いいよ。ログインしたらササ送るわ」


「あざっす」


…………。


俺は、たばこを口に運ぶ手を止めた。


PK?

ダンジョン?

返り討ち?

カモる?

ササ?


なんだ、その会話。


意味は半分も分からない。なのに……なぜか妙に気になった。


子供の頃、新しいゲームのパッケージを手に取ったとき。雑誌で見たこともないRPGの記事を見つけたとき。友達から「すげぇゲーム見つけた」と聞かされたとき。


あの感覚に似ていた。


なんか知らんけど……それ、絶対おもしろいやつやん。


俺の中のゲームセンサーが、ものすごい勢いで反応していた。


「え? なんの話してんすか?」


気づけば、二人の会話に割って入っていた。


「もしかして……今流行ってるFF11とか?」


当時の俺が知っている「オンラインゲーム」と呼べそうなものは、それくらいだった。


先輩は「あぁ」と小さく笑い、肩をすくめる。


「んー、そんなメジャーじゃないよ」


すると同僚が、待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。


「そそ。コムルオンラインっていうヤツ」


「コムル……オンライン?」


聞いたことがない。


見事なまでに、一ミリも聞いたことがない。


「へぇー。それ、PS3とかです?」


「んや、PC」


「PC?」


そこで俺の頭に、自宅に置いてあるパソコンが浮かんだ。決して高性能とは言えない。というか、ゲームなんぞ動かしたことすらない。


「ほぉほぉ……うちにある糞みたいなPCでもやれるんかね?」


先輩が間髪入れず答えた。


「うちのPCも糞だからやれるやろ」


キッパリ。


なんという説得力。


スペックもCPUもグラフィックボードも何も分からない俺にとって、それ以上に分かりやすい説明はなかった。


「ふむ。じゃ、俺、今夜にでもPCに入れてみますわ」


「お、やる?」


「やってみる」


このときの俺はまだ知らない。


ネトゲというものが、どういう世界なのか。ゲームの中に他の人間がいるということが、どういう意味なのか。


そして……この何気ないたばこ休憩が、俺の人生を大きく変えることになるなんて。


◇ ◇ ◇


その日の仕事が終わった。


季節は10月。会社を出る頃には、外はもう薄暗くなっていた。昼間の暖かさが嘘のように、夕方の空気は少し冷たい。


同僚と並んで駐車場へ向かう。頭の片隅には、昼間聞いた「コムルオンライン」という名前がずっと残っていた。


すると、隣を歩いていた同僚が思い出したように言った。


「無事にコムル入れれたら電話してよ」


「ん? なんでよ?」


「パワレベしてやるけん」


…………。


また知らん言葉が出てきた。


「パ、パワ……なんだって?」


「パワーレベリングな!」


…………。


分からん。


正式名称を言われても、やっぱり分からん。


「お、おう。よく分からんが頼むわ」


とりあえず分かった顔をしておく。


「電話してこいよ」


「へいへい」


そうして駐車場で同僚と別れた。


ちなみに「パワーレベリング」、通称パワレベとは、高レベルのプレイヤーが低レベルのプレイヤーを連れ回し、ものすごい勢いでレベルを上げることだ。


ガンガン狩る。

ガンガン経験値が入る。

ガンガンレベルが上がる。


「え? もう上がったん?」


初心者からすれば夢のような話である。


……が。


このパワレベ。


後に中堅プレイヤーとなった俺を、大いに苦しめることになる。


まあ、それはまた別の話だ。


◇ ◇ ◇


そんな未来のことなど知るはずもない俺は、寄り道もせずさっさと家へ帰った。


飯もそこそこに済ませ、自室へ直行。


「さて……」


椅子に座る。


目の前には、例の糞みたいなPC。


昼間、同僚から教えてもらった方法を思い出しながら、コムルオンラインを探す。


「あー……これか」


インストール。

アカウント作成。

ID。

パスワード。


「なんや、余裕やん」


ここまでは実にスムーズだった。


ここまでは。


インストールを終え、ゲームを起動すると……アップデートが始まった。


「…………」


進捗バーを見る。


まだまだ。


しばらく待つ。


まだまだ。


「長ぇな……」


漫画を読む。

戻る。


まだ終わってない。


「嘘やろ?」


テレビを見る。

戻る。


まだやっている。


結局、およそ2時間。


長い。


とても、長い。


今なら「回線遅っ」で終わる話だが、当時の俺はそんなものだと思っていた。


そして、ようやくアップデートが終わった頃。


時計を見る。


21時00分。


「うん。悪くない時間だ」


椅子に深く座り直す。


ここからが本番だ。


2時間前に作ったアカウント情報を入力して、ログイン。


しばらくすると……スピーカーから、コムルオンラインのBGMが流れ始めた。


「お……」


思わず少し前のめりになる。


「ふむふむ……音楽は悪くない」


なぜか偉そうに評価しながら、キャラクター選択画面へ進む。


そこには5つの職業が並んでいた。


高い火力と防御力を持つファイター。

召喚獣を操るサマナー。

火力と回避能力に優れたレンジャー。

圧倒的な高火力を誇るソーサラー。

そして、味方への支援を得意とするプリースト。


一通り説明を眺める。


「なるほどなるほど……」


俺は悩んだ。


……いや。


嘘をついた。


ほとんど悩んでいない。


「ファイターやな」


言うまでもなく、脳筋である。


高火力。

高防御。


殴る。

耐える。

また殴る。


実に分かりやすい。


ネトゲ初心者の俺には、それで十分だった。


名前は……。


「たくみ」


とりあえず、これでいい。


そもそもキャラクターメイクだって、何が正解なのか分からない。髪型を変えて、顔を変えて、また戻して……。


「まぁ、こんなもんやろ」


最後は適当に決めた。


決定。


そして……俺は初めて、オンラインゲームの世界へ降り立った。


◇ ◇ ◇


最初の町。


**ルディロス**


画面が切り替わった瞬間、思わず声が漏れた。


「おぉ……」


そこには、見知らぬキャラクターたちが歩き回っていた。


右から左へ走っていくヤツ。店の前でじっとしているヤツ。何かを売っているらしいヤツ。


そして、その一人一人を、どこかにいる本物の人間が操作している。


今なら当たり前のことだ。でも当時の俺には、それだけでも妙に新鮮だった。


……が。


感動している暇はなかった。


「……で、何すればいいん?」


画面を見ても、さっぱり分からない。


この時代、親切なチュートリアルなんてものはほとんどなかった。


『ようこそ! まずは移動してみましょう!』


なんて教えてはくれない。


ログインできた?


ふむ。


じゃあ、あとは頑張れ。


だいたいそんなスタンスだった。


「いや、いや、いや、いや……」


とりあえずマウスを動かす。


視点が変わる。


「おっ」


ボタンを押す。


キャラクターが動く。


「おおっ!」


変な方向へ走る。


「そっちじゃない!」


壁にぶつかる。


「…………」


曲がろうとすると、今度は視点だけがグルグル回る。


「ちょ、待て待て」


この時点で、すでにRPGどころではない。


敵と戦う以前に……移動そのものが敵だった。


家庭用ゲーム機のコントローラーしかまともに触ってこなかった俺にとって、マウスとキーボードでキャラクターを操作すること自体が未知の世界だった。


それでも30分ほど試行錯誤していると、ようやく思った方向へ動けるようになってきた。


「……お? いけるやん」


調子に乗る。


人間、少しできるようになると急に自信が出てくるものだ。


そして俺は、最初のダンジョンへ向かった。


その名は……チェシュカ。


そこで俺を待っていたのは、世界を滅ぼす魔王でもなければ、伝説のドラゴンでもない。


凶悪なPKプレイヤーでもない。


…………。


サボテンだった。


「…………」


画面の中で、サボテンがウロウロしている。


「こいつを……狩るんか?」


とりあえずクリック。


俺のファイターがサボテンへ向かって走り出す。


そして……殴る。


殴る。


ひたすら殴る。


「おらっ!」


もちろん俺自身が叫ぶ必要はない。


だが、なぜか声が出る。


やがてサボテンが倒れた。


「おぉ!」


なんか知らんが……楽しい。


「次!」


別のサボテンを見つける。


殴る。


「次!」


またサボテン。


殴る。


「次ぃ!」


気がつけば、俺はチェシュカでサボテンを鬼のように狩っていた。


ネトゲとは何なのか。

PvPとは何なのか。

PKとは何なのか。

ギルドとは何なのか。


そして、この世界でこれから誰と出会うのか。


このときの俺は、まだ何も知らない。ただひたすら、目の前のサボテンを殴っていた。


でも……間違いなく、ここがすべての始まりだった。


後に俺がGvGの世界へ足を踏み入れることも。


仲間と出会い、敵と出会い、笑って、怒って、本気で悔しがることも。


そして……ゲームの中で出会った「アイツ」が、いつか俺の嫁になることも。


まだ知らない。


この夜。


俺の長いネトゲ人生は……。


チェシュカのサボテン狩りから始まった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


こうして俺のネトゲ人生は、華々しい冒険でも壮絶な戦いでもなく……サボテンをひたすら殴るところから始まりました。

今振り返ると、初めてオンラインゲームにログインしたときの「画面の向こうに本当に人がいる」という感覚は、今でもよく覚えています。

操作方法すら分からず、何をすればいいのかも分からない。

それでも、なぜかめちゃくちゃ楽しかった。

そんな昔のMMOならではの不便さやワクワク感も、一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。


ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。


「ちょっと続きも気になるな」と思っていただけたら、ブックマークやいいねでそっと応援してもらえると、執筆の励みになります。


さて次回。


サボテンを殴って喜んでいた初心者が、少しずつコムルの世界を知っていきます。

……もちろん、この頃の俺はまだ知りません。

ネトゲの本当の恐ろしさは、モンスターではないということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。