プロローグ
これは、まだ「ネトゲで出会って結婚した」と言うと、少し変な目で見られていた頃のお話です。
当時のMMOを知っている方には懐かしく、知らない方には「昔のネトゲってこんな感じだったのか」と楽しんでもらえたら嬉しいです。
そして何より……
まさか敵プレイヤーが、未来の嫁になるとは。
当時の俺は、まだ知りません(笑)
2026年現在。
ネトゲで知り合って結婚した。
今なら、別に珍しくもない。
「へぇー、ゲームで出会ったんですね」
くらいで終わる。
なんなら、
「素敵な出会いですね!」
なんて言われることもある。
……時代は変わった。
俺たちが出会った頃なんて、
「ネトゲで知り合った女と付き合ってる」
なんて言おうものなら、まず返ってくる言葉はこれだった。
「……それ、本当に女?」
失礼な話である。
まあ。
俺も最初はそう思っていたけど。
当時は「ネトゲ」というもの自体、今ほど一般的じゃなかった。
スマホなんてない。
Discordもない。
SNSだって今みたいに便利じゃない。
攻略動画を検索すれば、答えが一発で出てくるような時代でもない。
分からなければ、自分で調べる。
それでも分からなければ、人に聞く。
そして……
たまに嘘を教えられる。
そんな時代だった。
そんな俺が初めて本格的にハマったMMORPG。
それが……
『FF XI』。
……ではない。
『コムルオンライン』。
知らない?
大丈夫。
たぶん正常だ。
当時としても、決して超メジャーなゲームではなかった。
それでも俺は、このゲームに見事にハマった。
モンスターを狩る。
レベルを上げる。
装備を集める。
チャットする。
また狩る。
そして……
人を殺す。
もちろん、ゲームの中での話だ。
コムルオンラインには「バトルダンジョン」。
通称……BDと呼ばれるコンテンツがあった。
簡単に言えば、ギルド同士でダンジョンを奪い合うGvGだ。
これが、とにかく熱かった。
「ゲームなんだから、みんな仲良く遊べばいいじゃん」
そんな平和的思想は、少なくとも当時の俺たちにはなかった。
敵対ギルド?
攻撃する。
昨日しゃべったヤツ?
敵なら攻撃する。
なんかムカつくヤツ?
……できれば2回倒す。
我ながら、ひどい。
でも……
めちゃくちゃ楽しかった。
俺が活動していたのは、比較的新しくできたハルディンサーバー。
通称……ハル鯖。
新しいサーバーだったこともあり、まだ勢力図は固まっていなかった。
強いギルドが現れれば、それを倒すために別のギルドが手を組む。
昨日の敵が今日の味方になり、
今日の味方が明日には敵になる。
そしてBDが始まれば……
画面いっぱいにプレイヤーが走り回る。
魔法が飛ぶ。
ギルチャが流れる。
誰かが叫ぶ。
誰かが倒れる。
誰かがキレる。
そして翌日。
掲示板が荒れる。
……実に平和なオンラインゲームだった。
そんなハル鯖で、俺もあるギルドに所属していた。
当然、敵対するギルドもあった。
そして……
その中に、アイツがいた。
別に、最初から気になっていたわけじゃない。
一目惚れ?
ないない。
運命を感じた?
もっとない。
そもそも顔すら知らない。
画面に映っているのは、ポリゴンで作られたキャラクター。
そして頭の上に浮かんだ名前。
俺から見れば……
ただの敵だった。
BDで会えば攻撃する。
向こうも攻撃してくる。
倒す。
倒される。
見つける。
また戦う。
本当に、それだけの関係だった。
だから、もし当時の俺の後ろに未来人が現れて、
「お前、そのキャラの中身と将来結婚するぞ」
なんて教えてくれたとしても、絶対に信じなかったと思う。
たぶん画面を指さして、こう言う。
「は? こいつと?」
そう。
こいつと、である。
後に俺の嫁になる女との最初の思い出。
夜景の綺麗な場所でもない。
お洒落なレストランでもない。
学校の教室でもない。
薄暗いダンジョンの中。
しかも……
敵同士。
ロマンチックの欠片もない。
でも。
俺たちには、それくらいがちょうどよかったのかもしれない。
これは……
まだ「ネトゲ婚」なんて言葉が一般的じゃなかった頃。
ハル鯖という小さな世界で、
敵として出会った2人が、
いつの間にか仲間になり、
いつの間にかゲームの外でも話すようになり……
そして。
なぜか十年以上経った今も、一緒にいる。
そんな話だ。
人生、誰とどこで出会うかなんて本当に分からない。
だって俺の場合……
嫁との馴れ初めが、GvGなのだから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ここから、俺がコムルオンラインを始め、少しずつハル鯖の世界へとのめり込んでいきます。
ただ、この時点ではネトゲの事すら理解してません。
これから出会うプレイヤーたちが、その後の俺の人生に大きく関わってくることを。
もちろん、未来の嫁になる「アイツ」とも。
昔MMOを遊んでいた方には「あったあった」と笑ってもらい、知らない方にも当時のネトゲの空気を楽しんでもらえるような物語にしていきたいと思っています。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
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それでは次回。
俺がまだ、嫁どころかまともな装備すら持っていなかった頃のお話から始めます。




