闘争ボックス解禁①
前回。
見知らぬ集団に絡まれ。
ニワトリを渡され。
言われるがまま着て。
気づけば深夜1時。
狩り……0。
経験値……ほぼ0。
残ったもの。
ニワトリとの思い出。
今回はちゃんと狩ります。
……たぶん。
それでは、続きをどうぞ。
昨日のことを振り返る。
うーむ……。
あいつら、一体なんだったんだ。
考えれば考えるほど、よく分からない。
昨日の俺は、追従者の塔で狩りをする予定だった。
野良PTの予約までして、順番が来るまで露店でも出して待つ。
完璧な予定だったはずだ。
それがどうして……。
知らないヤツからニワトリの着ぐるみを渡され、見ず知らずの連中と輪になって座ることになったのか。
しかも気づけば深夜1時。
狩りはしていない。
経験値も増えていない。
残ったもの。
ニワトリとの思い出。
「…………」
いらん。
「次は絶対断る!」
『なになに、どしたん?』
「ん?」
顔を上げると、風月がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
どうやら声に出ていたらしい。
「どーしたもこーしたもないって」
昨日の出来事を一通り説明する。
追従者の塔が満員だったこと。
仕方なくイダーへ戻ったこと。
そこでニワトリの着ぐるみを着た集団を見つけたこと。
『関わらんどこ…』
と思った直後、
『ニワトリ着な!!!』
と絡まれたこと。
そして本当に着てしまったこと。
『ぶはっwww』
「笑うな!」
『いや、着たんかいwww』
「知らんヤツからいきなりトレード飛んできたんやぞ? 初心者なら、とりあえず受け取るやろ」
『受け取っても着ねーよwww』
「…………」
言われてみればそうである。
俺は昨日まで、
『悪いのは遊羅』
だと思っていた。
もしかすると。
俺にも多少の責任があるのかもしれない。
「でさ、ChronosCollarって知っとる?」
『あー、Collarのヤツらねぇ』
風月の反応が少し変わった。
「なに? ヤバい人たちなん?」
『んや。俺もそんな詳しくは知らんけど』
風月が少し考える。
『今、最大手のギルドとバチってるってくらいしか情報持ってねーわ』
「…………」
最大手と?
昨日のニワトリが?
頭の中に、あの光景が蘇る。
輪になって座るニワトリたち。
『ニワトリ着な!!!』
『人数多い方が楽しいだろwww』
『しらねwww』
「…………」
「あいつら、そんな武闘派なん?」
『BDじゃ結構見るぞ。装備も強かったやろ?』
「まあ……光ってたな」
昨日はニワトリのインパクトが強すぎて気にしていなかったが、確かに装備は派手だった。
黄色や青色に光る武器や防具。
初心者の俺でも、
「あ、こいつら強そう」
と思う程度には目立っていた。
『Collarは規模も中堅よりちょい大きいくらいだから、大手に簡単に潰されることはないと思うけどな』
「へぇ……」
コムルには、俺の知らない世界がまだまだある。
ギルド同士の関係。
BDでの争い。
仲の良いギルド。
敵対しているギルド。
『再誕』に入るまでは、そんなものをほとんど意識していなかった。
俺にとってコムルは、モンスターを倒してレベルを上げるゲームだった。
でも最近。
少しずつ、それだけじゃない気がしてきている。
「まあ、とりあえずだ」
俺は煙草を灰皿へ押しつけた。
「今日は絶対狩りをする!」
『おぉ……偉いやん』
風月が感心したように頷く。
『このままだと追い抜かれそうだわ』
「いや、女にかまけてないで狩りしろよ」
すかさずツッコむ。
すると風月がニヤッと笑った。
『いやいや、それが昨日さー』
「…………」
しまった。
この話題。
触れてはいけないヤツだった。
そこから休憩終了まで。
俺は延々と風月の惚気話を聞かされることになった。
昨日Skypeで何時間話した。
あんなことを言われた。
今度一緒に狩りへ行く。
『いやー、あいつ面白いんよ』
「へー」
『昨日もさ』
「ほー」
『そしたら向こうが』
「へー」
「…………」
長い。
なんだ、この時間……。
俺はコムルのスキルについて聞いていた時の風月先生は好きだ。
説明も分かりやすい。
頼りになる。
しかし。
恋愛相談員・風月。
こいつはいらない……
休憩終了の時間になる頃には、俺の生気は完全に吸い取られていた。
「仕事するか……」
『おう』
満足そうな風月。
疲れ果てた俺。
「…………」
何なんだ、一体。
◇ ◇ ◇
その日の仕事も無事に終わった。
風月と一緒に駐車場へ向かう。
季節は12月。
少し前まで仕事終わりでもまだ明るかった気がするのに、今では外へ出る頃には真っ暗だ。
自動ドアが開いた瞬間、冷たい風が吹き込んでくる。
「さむっ……」
思わず肩をすくめ、ポケットへ手を突っ込む。
吐く息も白い。
『今日なにするん?』
隣を歩く風月が聞いてくる。
「ん? 塔で狩りに決まっとるやん」
『昨日のリベンジ?』
「そう。今日はニワトリにならん」
『普通は毎日ならんけどな』
「…………」
確かに。
『レベルいくつになった?』
「126」
『結構上がったな』
「ツバイス148」
『GDの方が育ってるやん』
「言うな…」
俺だって気にしている。
ただ、レベルは順調に上がっている。
ボソコ。
アクセサリー。
そして1壁。
少し前まで意味すら分からなかった言葉が、今では自分の目標になっていた。
強くなったらBDにも出てみたい。
『再誕』のメンバーと一緒に戦ってみたい。
最近は、そんなことまで考えるようになっている。
「風月は今日……」
そこまで言って、やめた。
『ん?』
「いや。なんでもない」
聞かなくても分かる。
どうせSkype。
どうせ女。
「…………」
俺は狩る。
風月は喋る。
人それぞれである。
◇ ◇ ◇
**追従者の塔**
帰宅後。
飯と風呂を済ませ、コムルへログイン。
そのまま追従者の塔へ向かう。
昨日と同じように野良PTを探してみると……。
『ちょうど1人抜けますよー』
「マジっすか! 入ります!」
今日は運がいい。
すぐにPTへ入れてもらう。
「よろしくお願いします!」
『よろしくー』
『よろです^^』
『お願いします』
画面のPT欄に名前が並ぶ。
「…………」
よし。
今日はちゃんと狩れる。
塔の中では、ゴーストメイデンが次々と湧いていた。
半透明の身体を揺らしながら近づいてくる敵を、PTメンバーが次々と攻撃していく。
魔法のエフェクト。
武器の音。
ツバイスのアイスウェーブ。
画面の上にはダメージ表示が次々と浮かび、経験値が少しずつ増えていく。
俺も敵をクリックし、攻撃。
ツバイスも動かす。
次の敵。
また次。
「…………」
うむ。
これだ。
俺が昨日やりたかったのは。
ニワトリを着て地面に座ることではない。
「いやー、PT空いててよかったっすわ」
『こちらこそー。ちょうど1人抜けるところだったんで助かりました』
狩りながら、自然と会話が始まる。
初めて野良PTを組んだ時は、知らない人に話しかけられるだけで少し緊張した。
今はもう、
『こんばんは』
『空いてます?』
『入れてください』
くらいなら普通に打てる。
ギルドへ入ったことも大きいのかもしれない。
知らないプレイヤーと話すことへの抵抗が、少しずつなくなっていた。
しばらくすると、一人が何気なく言った。
『そういや明日のメンテで、新しい課金ボックス出ますね!』
『え? そうなんだ』
『どんなの出るんですかね?』
「新装備?」
『らしいですよー』
「へぇ……楽しみですね」
そう返しながら、俺は画面のマミー……ではなく、ゴーストメイデンをクリックする。
その時の俺にとっては、
「ふーん。新しい装備ねぇ」
その程度だった。
今のジェットブラックにも十分満足している。
黒い見た目も気に入っている。
ハンの小手+10もある。
まずはアクセサリーを揃えて、1壁を目指す。
それが先。
「…………」
課金装備なんて。
別にいらん。
……たぶん。
そこからも狩りは続いた。
経験値が増える。
レベルアップまでの数字が少しずつ減っていく。
途中でメンバーが入れ替わり、それでもPTは続く。
誰かが眠いと言えば、
『寝たら死ぬぞ』
と返され。
誰かがPOTを買いに戻れば、
『はよ戻ってこーい』
と白チャが飛ぶ。
効率だけなら、もっと良いやり方があるのかもしれない。
でも俺は、このダラダラした感じが結構好きだった。
モンスターを狩りながら。
どうでもいい話をする。
たまに笑う。
そして気づけば経験値が増えている。
「ネトゲって、こういうのでいいんだよなぁ……」
誰にも聞こえないように呟く。
時計を見ると、深夜1時。
「…………」
さすがに寝るか。
昨日とは違う。
今日はちゃんと狩った。
経験値も増えた。
満足。
『おつかれでしたー』
『おつー』
「お疲れ様でした!」
PTを抜け、ログアウト。
布団へ入りながら、ふと思い出す。
明日。
新しい課金ボックス。
「…………」
まあ。
起きてから見ればいいか。
この時の俺は、本当にその程度にしか考えていなかった。
◇ ◇ ◇
**翌日**
目が覚める。
「…………」
明るい。
時計を見る。
昼過ぎ。
今日は仕事が休みだ。
昨夜も深夜1時まで狩っていたせいで、見事に昼まで寝ていた。
「腹減った……」
重い身体を起こし、冷蔵庫を漁る。
朝飯なのか昼飯なのか分からない、その日最初の食事を済ませる。
今日は平日の火曜日。
予定。
なし。
「…………」
素晴らしい。
飯を食いながら考える。
何しよう。
外は寒い。
出かける用事もない。
「コムルでいいか」
我ながら休日の過ごし方が完全に固定されてきた。
とはいえ、ガッツリ狩りをするほど目は覚めていない。
適当に露店を出す。
売れるまで放置。
そして二度寝。
「完璧やん」
PCの電源を入れる。
コムルを起動。
IDとパスワードを入力しようとして……。
画面に表示された文字を見た。
『ただいまメンテナンス中です』
「…………」
あ……
そうだった。
昨日の野良PTでの会話が蘇る。
『明日のメンテで、新しい課金ボックス出ますね!』
「あー……言いよったな」
公式サイトを開く。
メンテナンス情報。
新しいアップデート。
そして。
新課金ボックス。
「…………」
なんとなく気になる。
クリック。
まだ詳細はメンテナンス終了後に確認する部分もあるようだ。
「どんな装備なんやろ」
昨日までは大して興味がなかった。
だが。
人間とは不思議なもので。
『新しい』
と言われると見たくなる。
しかも装備。
今より強かったら?
1壁に近づける装備だったら?
高く売れるアイテムが出たら?
「…………」
いやいや。
待て。
俺にはジェットブラックがある。
ハンの小手+10もある。
まずアクセサリー。
無駄遣いする必要はない。
「…………」
「とりあえず2万だけ課金しとくか」
言ったあと。
自分で少し固まった。
「…………」
とりあえず。
2万。
少し前まで。
風月から、
『とりま2万?』
と言われただけで、
『に、2万ひぇん??』
となっていた男である。
今。
自分から言った。
『とりあえず2万』
「…………」
慣れって怖ぇ……
とはいえ。
俺は独身。
働いている。
家賃や生活費に手を出しているわけでもない。
生活に支障が出ない範囲で、趣味として楽しむ。
それならいい。
花の独身。
使える時に使わずして、いつ使う。
「…………」
完璧な理論だ。
たぶん。
上着を羽織る。
財布を持つ。
向かう先はもちろん。
以前、WebMoney購入でお世話になった某7。
前回。
WebMoneyの買い方すら分からず、女性店員さんへ聞き。
男性店員さんを呼ばれ。
ようやく2万円を課金した俺。
だが今日は違う。
もう迷わない。
店内へ入る。
端末を操作。
WebMoney。
2万円。
レジ。
支払い。
終了。
「…………」
早い。
誰にも聞いていない。
誰にも助けてもらっていない。
一人でWebMoneyを買えた。
「成長したな……俺」
方向性が正しいかどうかは知らない……
◇ ◇ ◇
自宅へ戻り、
WebMoneyの準備は完了。
あとはメンテナンスが終わるだけ。
公式サイトを見る。
メンテ終了予定。
17時。
時計を見る。
14時30分。
「…………」
あと2時間半。
長い。
普段仕事をしている時なら、2時間半なんて気づけば終わる。
だが、メンテ終了を待っている2時間半。
これは長い……
何度時計を見ても時間が進まないヤツだ。
新しい課金装備。
どんな見た目だろう。
ジェットブラックより強い?
速度は?
セット効果は?
高く売れる?
「…………」
気になってきた。
さっきまで、
『別にいらん』
と思っていたはずなのに。
既にWebMoney2万円を買っている時点で説得力はない。
「…………」
寝るか。
これが一番早い。
布団へ潜り込む。
平日の昼間。
外は寒い。
布団は暖かい。
仕事は休み。
財布には……ではなく。
机の上にはWebMoney2万円。
そして17時になれば、新しい課金ボックス。
「…………」
最高じゃないか。
目を閉じる。
この時の俺は知らなかった。
メンテナンス終了後。
公式サイトに追加された新装備を見た瞬間。
『別にいらん』
と言っていた数時間前の自分が……。
綺麗さっぱり消え去ることを。
そんな未来など知る由もなく。
俺は再び。
夢の国へ旅立った。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
前回のニワトリ事件から一夜。
ようやく普通に狩りができました。
野良PTに入って。
モンスターを倒して。
くだらない話をしながら経験値を稼ぐ。
今思えば、こういう何でもない時間もネトゲの楽しいところだった気がします。
そして今回、一番成長したこと。
レベルでもありません。
装備でもありません。
WebMoneyを一人で買えるようになりました。
……。
成長の方向性が怪しい。
何より恐ろしいのは、
少し前まで、
『に、2万ひぇん??』
と言っていた男が、
『とりあえず2万だけ課金しとくか』
と言い始めたこと。
慣れって怖いですね。
そしてメンテナンス終了後。
新しく追加される課金装備。
この時の俺はまだ、
「ジェットブラックあるし、別にいらん」
くらいに思っていました。
……思っていたんです。
次回。
メンテ終了。
そして俺は、新装備を目にします。
今回も楽しんでいただけたら、いいねやブックマークをそっと押してもらえると嬉しいです。
それでは、また次回!
……「とりあえず2万」。
この言葉を自然に使い始めたら、もう手遅れなのかもしれない。




