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顔も知らない敵プレイヤーが、今では俺の嫁です!~すべてはあのMMOから始まった(旧題:GVGで敵だったアイツが俺の嫁になるまで…)  作者: むちゅぺろ
第一章 コムル オンライン編

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闘争ボックス解禁②

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


今回は、コムルの世界が少しずつ変わり始めるお話です。


そして俺自身も、知らないうちにその流れの中へ……。


それでは、続きをどうぞ!

闘争ボックス。


それは、今までのコムルオンラインの装備環境を根底からひっくり返すことになる課金ガチャだった。


1個、1,000円。


10個で1万円。


20個なら……2万円。


当然、欲しいものが出る保証なんてない。


そんな闘争ボックスを見たプレイヤーたちは、口を揃えて言った。


『運営、集金に来たな』


実に分かりやすい。


そして、その集金アイテムに全力で釣られる男が……

ここに一人いた。


◇ ◇ ◇


目を覚ます。


「…………」


部屋が暗い。


寝る前は、まだカーテンの隙間から昼の光が差し込んでいたはずだ。


嫌な予感がして時計を見る。


19時。


「…………」


メンテ終了予定は17時。


完全に寝過ごした。


布団からむくりと起き上がり、とりあえず煙草に火をつける。


「ふぅ~……」


吐き出した煙が、薄暗い部屋の中をゆっくり漂っていく。


まだ頭がぼんやりしている。


飯にするか。


風呂にするか。


それともコムルか。


しばらく考えた結果、とりあえずPCの電源だけ入れて、その間に飯と風呂を済ませることにした。


「ん?」


携帯を見ると、着信ランプが光っている。


風月だ。


そのまま電話をかける。


「うい……電話した?」


『闘争ボックス引いた?』


「…………」


第一声がそれ?


挨拶も何もない。


完全にコムル脳である。


「んや。今起きた。俺はこれからかな」


『あーね。お前は絶対引くべきよ』


「ふむ……」


寝起きの人間へ、いきなり課金を勧めてくる。


だが、わざわざ電話してくるくらいだ。


何かある。


眠かった頭が、少しだけコムルへ切り替わった。


「んで、何が出るのかな? お兄さんに教えてごらん?」


『うわぁ……』


「なんで引くん?」


『いや……キモかったから』


「…………」


辛辣。


俺は煙草の灰を落とす。


寝起きの人間に対して、もう少し優しくしてもいいと思う。


「で、何が出るん?」


『アクセやね。しかも、かなり強い』


「アクセ?」


その一言で眠気が飛んだ。


今の俺が一番欲しいもの。


まさにアクセサリーである。


「え? もしかして1壁超えられる?」


『いや』


風月が即答する。


『1壁どころの話じゃねーぞ』


「え?」


意味が分からない。


『たぶん今回ので、装備環境かなり変わる』


「そんなに?」


『運営の集金やな。現状の装備を一気に変えてくるまである』


「…………」


やっぱり意味が分からない。


俺もコムルを始めた頃に比べれば、だいぶ知識はついた。


レベル126。


自称・中堅プレイヤー。


スキルも少し分かる。


装備も少し分かる。


1壁の意味も分かる。


それでも『装備環境が変わる』と言われても、いまいちピンとこない。


俺のジェットブラック。


結構高かったぞ?


ハンの小手+10だって強い。


それをひっくり返す?


『とりま、たこみは絶対買っとけよ』


「お、おう……」


そこで電話は終わった。


しばらく携帯を眺める。


よく分からない。


でも、風月がここまで言うなら何かあるんだろう。


買えと言われたら素直に買う。


それが俺の良いところである。


……たぶん。


◇ ◇ ◇


飯と風呂を済ませる頃には、寝起きの重さもすっかり消えていた。


むしろ今は、風月が言っていた、


『1壁どころの話じゃねーぞ』


その言葉が気になって仕方ない。


俺はPCの前に座り、コムルの公式サイトを開いた。


**コムル公式サイト**


トップページには新しいお知らせ。


『闘争ボックスをマイレージショップに追加しました。』


「…………」


以上。


「地味やな……」


毎回思う。


ここの運営、新商品を売る気があるのかないのか、よく分からない時がある。


今日からゲーム環境を変えるかもしれない新商品。


しかも1個1,000円。


なのに宣伝は実に地味。


ただ、その地味なお知らせの向こう側で、ゲーム内は既に騒ぎになっているらしい。


そう考えると、少しだけワクワクした。


マイレージショップを開く。


闘争ボックス。


1個1,000円。


「…………」


改めて見ると高い。


だが俺の手元には、昼間買ってきたWebMoney2万円分がある。


つまり。


20個。


「さてさて……20個っと」


ポチッ。


購入完了。


「…………」


早い。


初めて2万円課金した時は、あれほど震えていたというのに。


今の俺には迷いも躊躇もない。


そう。


俺はゲームでもファイター。


リアルでもファイター。


「…………」


何言ってんだ、俺。


まあいい。


買ってしまったものは仕方ない。


問題は、この2万円が何に変わるのか。


少し期待しながら、俺はコムルを起動した。


◇ ◇ ◇


いつものログイン画面。


いつものBGM。


画面が切り替わり、イダーの街が表示される。


たった数時間ログインしていなかっただけなのに、今日は何となくいつもと違って見えた。


「こんばんはー」


ギルドチャットへ挨拶すると、次々と返事が並ぶ。


『ばんわー』


『おかえりー』


『こんばんは^^』


そして。


『闘争ボックス買った?』


「…………」


いきなり課金の話である。


今日の挨拶。


『こんばんは』


からの、


『課金した?』


みんな金の話しかしていない。


どうやら風月だけではない。


ゲーム全体が、この新しい箱に浮かれているらしい。


そこへ、やちこさんが割って入った。


『こらこら。たくみ君はまだ初心者に毛が生えた程度やから、あんま課金勧めたらあかんよー』


「…………」


優しい。


このギルドにも良心はあった。


「あ、なんか凄いの出たみたいっすね」


『そうそう。運営さん集金する気満々やんw』


「やちこさんは課金したんです?」


『全力でしたったわ』


「…………」


良心。


消滅。


『出なさらんかったけどなぁwww』


「…………」


全力でいって、出なかったらしい。


画面の向こうで笑っているやちこさんを想像する。


笑っている場合なのだろうか。


でも。


それがネトゲなのかもしれない。


「そんなに出ないなら、俺が出るわけないか……」


ちなみに俺は、


『もう2万円分買いました』


とは言わなかった。


なんとなく恥ずかしかったからである。


◇ ◇ ◇


しばらくギルドチャットを眺めている。


話題は、やっぱり闘争ボックス。


誰が何個引いた。


何が出た。


出なかった。


売った。


買った。


今日実装されたばかりのアイテムなのに、既にコムルの中心にいる。


「…………」


そんな凄いのか。


俺はアイテム欄を開いた。


闘争ボックス。


20個。


ずらりと並んでいる。


「さて……開けるか」


でも、なんとなくギルドメンバーの近くでは開けたくない。


別に見えるわけでもないのに。


俺は人の少ない場所を探し、イダーの建物の奥へ移動した。


「ここならいいやろ」


誰から隠れているのか。


自分でも分からない。


ただ、ガチャを引く時というのは。


なぜか一人になりたくなる。


カーソルを闘争ボックスへ合わせる。


「頼むぞ……」


クリック。


1個目。


箱。


「ん?」


2個目。


また箱。


「…………」


3個目。


箱。


「いや、箱から箱出てきたんだけど」


意味が分からない。


俺は思わず画面へ顔を近づける。


間違えて別のアイテムを買ったわけではない。


確かに闘争ボックス。


なのに。


箱を開けたら箱。


マトリョーシカか。


そのまま20個すべて開ける。


結果。


橙色の箱、13個。


銀色の箱、4個。


強化スクロール、3個。


「…………」


「装備出らんやん……」


2万円使った。


出てきたもの。


箱。


箱。


箱。


スクロール。


「…………」


やられたか?


さっきまでのワクワクが、一気に不安へ変わる。


2万円。


俺の2万円。


頼むから。


ただの箱で終わらないでくれ。


◇ ◇ ◇


少し嫌な汗をかきながら、とりあえず橙色の箱を開けてみる。


クリック。


1個目。


『闘争のリングⅠ』


「お?」


2個目。


『闘争のネックレス』


「おお?」


3個目。


『闘争のリングⅣ』


「…………」


おおお?


さっきまで沈みかけていた気持ちが、少しずつ浮かんでくる。


次。


また次。


リング。


ネックレス。


リング。


またリング。


画面のアイテム欄に、見たことのないアクセサリーが増えていく。


8個ほど開けたところで、俺の手が止まった。


「…………」


ちょっと待て。


何種類か被っている。


まだ開けていない箱も残っている。


全部開けていいのか?


急に怖くなってきた。


今度は銀色の改革箱を開けてみる。


1個目。


リング。


2個目。


別のリング。


3個目。


また別。


4個目。


「…………」


被ってない。


アイテム欄に並んだアクセサリー。


そして、まだ開けていない箱。


交互に見る。


「…………」


ゴクリ。


何か。


とんでもないことが起きている気がする。


ここでようやく、俺はリングの性能をちゃんと確認し始めた。


ステータス補正。


スキル補正。


セット効果。


「…………」


ん?


別のリングを見る。


「…………」


んん?


もう一つ。


「…………」


いやいやいや。


強くね?


今まで使っていたアクセサリーと見比べる。


明らかに数字が違う。


俺の装備欄には、リングを6個。


そしてネックレスを1個装備できる。


そこへ。


闘争のリング、3個。


改革のリング、3個。


6枠すべてが埋まる。


さらに。


セットボーナス。


【スキル+10】


「…………」


一瞬。


意味が分からなかった。


「じゅう?」


もう一度見る。


【スキル+10】


見間違いではない。


俺が何レベルも上げて。


スキルポイントを貯めて。


装備を揃えて。


少しずつ強くしてきた。


その数字が。


+10。


俺はしばらくマウスから手を離した。


「…………」


風月。


お前が言ってた意味。


今なら分かる。


1壁を超える。


そんな話じゃない。


今までのスキル構成そのものが変わる。


そこへジェットブラックのセットボーナス。


ハンの小手+10。


ボソコ。


マスタリー。


攻撃速度。


今まで風月から教わってきた知識が、頭の中で一気につながっていく。


そして、その先に出てきた答え。


「…………」


これ。


俺。


めちゃくちゃ強くなるんじゃね?


しばらく画面に並んだリングを眺めていた。


少し前まで、1壁に届くかどうかでワクワクしていた。


それが今。


突然、その先が見えた気がした。


◇ ◇ ◇


風月に聞こう。


そう思って携帯へ手を伸ばす。


「…………」


いや。


やめとこ。


どうせ今頃。


Skype。


女。


「やちこさんに聞くか」


俺はささやきを送った。


『闘争箱、めっちゃ出たんですけど……』


『お? そーなん? よかったやんー』


『よかったんすけど、まだ箱5個余ってるんすよ。これ売った方がいいんですかね?』


『そりゃ売った方がいいと思うけど、自分の分は確保できたん?』


「…………」


やっぱり優しい。


自分は全力課金して爆死したのに、俺の装備を心配してくれている。


『何が良いのかまだよく分からないんですけど、たぶん確保できたと思います』


『そかそか。なら一回ルディ見てきたら? 今なら箱の相場も分かると思うで』


「なるほど」


さすが先輩。


言われた通り、一度外の世界を見てみることにした。


◇ ◇ ◇


**ルディロス**


久しぶりに露店の街へ戻る。


イダーとは違う。


この街には独特の活気がある。


道の両側には露店がびっしりと並び、その間をプレイヤーたちが行き交っている。


装備。


素材。


課金アイテム。


強化品。


そして今日。


その中に、見慣れない名前が大量に並んでいた。


『闘争』


『改革』


『闘争』


『闘争』


「…………」


今日実装されたばかりなのに。


もう街が闘争だらけである。


さっきギルドチャットで感じた熱気。


それが今度は、目の前に広がっていた。


ちなみに闘争系のアイテムは、一度箱を開けるとキャラクターへ帰属してしまう。


つまり、売るなら箱のまま。


買ったプレイヤーが何を引くかは……完全に運。


「怖ぇ商売だな……」


そう思いながら露店を一つずつ見ていく。


そして。


見つけた。


【闘争箱 1,000,000,000 Kalz】


「…………」


ん?


桁を数える。


一、十、百、千、万……。


「…………」


10億?


もう一度見る。


10億Kalz。


「え?」


一瞬、何かの間違いかと思った。


別の露店を見る。


9億。


その隣。


10億。


さらに隣。


11億。


「…………」


マジだ。


相場が壊れている。


俺がジェットブラック一式とハンの小手+10を揃えるために払った金額。


11億Kalz。


あの時、自分の8億にマクビさんから3億を借りて、ようやく揃えた装備。


それに近い金額が……。


箱。


1個。


「…………」


俺。


まだ5個持ってるんだけど。


単純計算。


約50億。


「…………」


急にアイテム欄に入っている箱が怖くなった。


ついさっきまで、ただの『余った箱』だった。


それが今。


とんでもない金額に見える。


そして同時に、風月が電話で言っていた言葉を思い出す。


『現状の装備を一気に変えてくるまである』


あの時は意味が分からなかった。


でも。


今なら分かる。


これは。


ただ強いアクセサリーが追加されたんじゃない。


ゲームそのものが。


変わろうとしている。


◇ ◇ ◇


今振り返ると。


あの日は、コムルオンラインにとって一つの境目だったと思う。


それまでのコムルでは、狩り場の適正レベルを超えても、安全性を優先して同じ場所に残るプレイヤーが多かった。


無理して上の狩り場へ行って死ぬより、経験値が減り始めるギリギリまで安全に狩る。


それが普通だった。


だが。


闘争のリング。


改革のリング。


高いステータス補正。


そして強烈なスキル補正。


それらが一気に入ってきたことで、状況が変わった。


火力が上がる。


スキルレベルが上がる。


ODがさらに強くなる。


今まで時間がかかっていた敵を、より速く倒せる。


今まで危険だった狩り場へ行ける。


狩りの速度が上がれば、レベルも上がる。


そして。


強くなったプレイヤーが向かう場所。


BD。


「…………」


ルディロスの露店を眺めながら、ようやく分かった。


みんな。


強くなりたいんだ。


もっと速く敵を倒したい。


もっと上の狩り場へ行きたい。


もっと良い装備が欲しい。


そして。


BDで勝ちたい。


俺だって、同じだった。


闘争と改革。


このアクセサリーの登場を境に、コムルは一気に火力インフレの時代へ突入していく。


狩りが楽になる。


レベルが上がる。


強いヤツが増える。


BDが活発になる。


ギルド同士がぶつかる。


勝った。


負けた。


あいつは強い。


あいつの装備はおかしい。


課金しすぎ。


廃人。


妬み。


嫉妬。


煽り。


そして……掲示板が荒れる。


「…………」


実にオンラインゲームである。


でも。


楽しかった。


少なくとも、俺はワクワクしていた。


俺も強くなりたい。


1壁を超えたい。


BDへ出たい。


そして何より。


風月やマクビさんたちと。


いつか同じ場所に立って戦いたかった。


少し前まで、素足でチェシュカを走り回り、エリゴールに殺され、


『に、2万ひぇん??』


と課金に震えていた男が。


今では2万円分の課金ボックスを開け、10億Kalzの相場を眺めながら、BDで強くなることを考えている。


「…………」


人間。


変われば変わるものである。


そして、この闘争ボックスの登場を境に。


コムルオンラインは、俺が知っていた世界から少しずつ姿を変えていく。


強い装備を手にしたプレイヤーたち。


活発になっていくBD。


激しくなっていくギルド同士の争い。


『再誕』


そして。


『ChronosCollar』


この時の俺は、まだ知らない。


ニワトリを着せてきたあの連中と。


そして……。


あの『遊羅』と。


今度はふざけ合うのではなく。


BDという戦場で。


敵として、本格的にぶつかり始めることを。


ニワトリを着て。


くだらない話をして。


『またなニワトリwww』


そんな言葉を交わした相手が。


次に会った時には。


敵になる。


そして俺自身も。


ただ後ろから風月やマクビさんたちを追いかけていた初心者ではなくなっていく。


コムルオンライン。


BD戦国時代……。


その入口は。


運営が販売した。


たった1個、1,000円の箱だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


振り返ってみると、この頃から少しずつコムルの景色が変わっていった気がします。


そして俺も、気づけばどんどん深いところへ……。


まだまだ先は長いですが、引き続き一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!


いいねやブックマークも、そっと応援していただけると励みになります。


それでは、また次回!


……闘争ボックス13個は中々の偉業だったらしいです…

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