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久々の仕事の依頼、カケルの決断。


「ーーしもしっ、繋がってマスカッ!?もしもしっ!!」


突然起動したPC画面に映る少女のドアップに一瞬だけ戸惑った後、独特なイントネーションの声を聞いてすぐにアリスなのだと理解出来た。


(相変わらず慌ただしい子だな。)


「もしもし、聞こえてるよ。久しぶりだね。」

「うぅ、うぁああああんっ。ハジメさん帰って来れたんデスねっ!!ユイさんからお話を聞いて以来ずぅううううっと心配してたのデス。ワタシもお手伝いしたかったのデスが、色々と忙しくて力になれなくて...ハジメさんが無事で良かったデスぅうう!!」

「心配掛けて悪かったね、みんなのお陰でどうにか帰って来られたよ。...アリスは調子はどう?」


慌ただしい言葉の中に混じった優しさや温もりを有り難く受け止め、また不甲斐なさを噛み締めながら久々という事もあって他愛の無い会話を続けていく。


不意に昨日見た書類の事項を思い出し、アリスが無事で良かった、などと思っていれば飛び出してきたのはギルドへの依頼。


「ハジメさん、どうか助けてクダサイ。もうワタシじゃあどうにも出来なくて...みんな、あの化け物に...うわぁぁあああああっん。」

「ちょっ、アリスっ!?一体どうしたのさ。ユイ、どうしよ?」


画面の向こうで泣きじゃくっているアリスを前に困惑していれば、ため息を零しながらも、可愛い妹分の為、と画面の前からハジメを押し退けて一言二言声を掛ければ、あら不思議。


少しだけ落ち着きを取り戻し泣き止んだアリスとこちらに残念な視線を送るユイ、そして朝っぱらからの騒音にため息を吐きながら部屋へと入ってきた我らがリーダーのカケルによって話は進む。


「よう、アリスちゃんか久しぶりだな。そっちは馬鹿デケェドラゴン相手に大立ち回りしてるって聞いてるけど、あんまり奮ってねぇみたいだな。」

「カケルさん、お久しぶりデス。あ、上官が話をしたいと言っているので変わります。」


先程までの泣き声を聞かれた事が気恥ずかしかったのか、慌てた様子で上官に繋ぐアリスの姿を想像して非常時ではあるが頬が緩むのを抑えられずに隣にいるユイから以前よりもスリムになった脇腹をつねあげられる。


「ウィリアムさん、で良かったですかね?」

「ああ、魔石の取引以来かな?活躍は耳にしてるよMr.御堂。ここ最近は表舞台に立ってないようだが、行方不明の仲間を救出しているとは、流石としか言えないね。是非ともその力を貸して欲しいものだ。」

「随分と高く評価してもらってるようですが、どこまで期待に応えられるか...ご所望は女神の魔石ですか?それとも...。」


鋭い視線を画面にぶつけるカケルの姿に、仄々とした雰囲気は遥か彼方へと吹き飛んでいき、なんとも場違い感を覚えるが、ここは自室であり、腹の探り合いに使われているのは自分のPCである。


もうどうすればいいのか、と視線を彷徨わせていれば早々にベッドへと退避していたユイが手招きしているので相席?にあやかる事にする。


...決して高度な話し合い、もとい駆け引きに尻込みして逃げ出した訳では無い。あくまで戦略的撤退である。

などと、ふざけた思考を読み取ってか、折角手間暇かけて淹れた珈琲をカケルに徴収されてしまう。


「ははっ、交渉担当のMr.和田じゃなければ丸め込めると思ったが流石は曲者揃いのギルドを束ねる男と言ったところか、参ったな。」

「それは過大評価ですよ、こっちも手一杯でボランティアをしてる暇は無いだけですよ。」

「単刀直入に言えば、女神の魔石が足りない。40階層を突破した際に手に入るであろう女神の魔石を譲って貰いたい。」


そっと聞き耳を立てていれば、そんな会話が聞こえて来たために自身の端末を操作して米国の状況を改めて調べ始める。


画面を覗きながらふむふむ、とメディアの報道によるオブラートに包まれた曖昧な情報を吟味していれば視界の端に映るカケルの手招き。


珈琲だけでなく携帯端末もか、とどこか諦めの境地を覚えつつカケルにいくつかピックアップした情報を表示した状態で携帯端末を渡す。


...渡す際に少しだけ未練がましく力を込めたのは秘密である。


PC画面の向こう側と話し合いを続けるカケルからビシビシと突き刺さる非難の視線を掻い潜り、ベッドへと戻れば、ユイが優しく迎え入れてくれた。


オッさんに片足突っ込んだいい歳した大の大人が、頭をよしよしされるシュールな絵図。

先程まで非難の視線をくれていたカケルの口から珈琲が吹き出したので、側から見てもなかなかにまずい絵図なのだろう、と考察するも何故かユイの手を振り払えない。


「あの、ユイさん?カケルに仕返しも出来たし、そろそろヨシヨシするのは...あ、なんでもないですぅ。」


未だ満足し足りぬ様子のユイに抱え込まれて、二人仲良くユイの携帯画面を覗き込む。


頬に当たる髪が少しばかりこそばゆく、身体を震わせれば、ニヤリと笑うユイがサラサラの髪を何とも言えぬ塩梅で揺らすので、理性の守護者である素数を数えながら画面の内容に集中する。


カケルの肩が震えてるのはきっと話し合いの内容が気に食わないからであって、断じて俺の所為ではないはず。


「こっちにも都合があるから、正直なところ40階層の突破は何とも言えん。一応努力はしてみるが、期待はしないでくれ。なんせ病み上がりと爆弾を抱え込んだ馬鹿たれ共が呑気にしてるもんでな、ウィリアムさんが叱り上げてくれりゃちょっとは確率も上がるかもな。」


はぁ、とカケルと画面の向こう側からため息が聞こえた気がするが、俺にユイの暴走は止められん。


「あーMr.周防、聞こえてるか?こちらの状況は極めて複雑かつ危険だ。病み上がりの君に無理を言う権利は私には無いが、頼む。我が母国と命を懸けて戦っている部下の為に立ち上がってくれ。」


いきなりのど直球な横槍に戸惑いながら、カケルに視線をやれば好きにしろ、との事。

病み上がりなのは否定しないが、身体の調子は悪くない。むしろ以前よりも格段に増した魔力量が身体にチカラを与えてくれている程だ。


そこに来た妹分のアリスからのお願い、もとい依頼ならば断る道理は無い。

ウィリアムさんとはほとんど面識はないが、カケルとの話し合いを聞けば決して悪人では無いのだろう。


ならば答えは一つしかない。


隣にいるユイの手を握れば、そっと握り返し頷いてくれる。


「ウィリアムさん、カケルも言った通り40階層の突破は確約は出来ません。ですが、可愛い妹分のアリスが泣きながら頼み込んで来た依頼です。是非とも受けさせて貰います。」

「ありがとう。報酬等の詳しい話はMr.和田を通じて追って連絡させてもらう。」

「...魔石を届けるまでアリスをよろしくお願いします。」

「言われずとも私の全力を持って守ってみせるさ、今の彼女は私たちの光だからな。」


こうして騒がしい朝は終わり、慌ただしい一日が始まりを告げた。


続く。

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