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3


-ふにゅり。


多少の息苦しさを感じて目を覚ませば、眼前に広がる闇に戸惑いながらも頭を覚醒させる。


もぞもぞと自身を縛る拘束を解きながら現状を確認すれば、一人用の狭いベッドでハジメの頭を抱える様にして眠るユイがそのスレンダーな身体付きでハジメを大事そうに抱きしめて眠っていた。


(据え膳食わぬは男の恥、か?)


なんとも言えぬピンク色な思考に染まりながらも、どうにか理性で抑え込みベッドから抜け出す。


カチリ、と自家製の魔道具のスイッチを入れてお湯を沸かし始め、その間に眠るユイに悪いな、と思いながらもゴリゴリと珈琲豆を挽いていく。


失踪以前には無かった銘柄の珈琲豆はきっとユイが持ち込んだのだろう、と予測を付けて、もうすぐ起きて来るだろう彼女の為にゴリゴリと豆を挽く音が静かな部屋に響く。


失踪前にはルーティンとなっていた珈琲を淹れる作業は、どれだけ日が経っていても身体に染み付いていた様で淀みなく動く自身に少しだけ安心しながらのんびりとお湯を注ぎ香り立つ珈琲の風味を楽しむ。


(香りはいいな、これで味わう事が出来れば...いや、自分への戒めとして受け入れるしかないか。)


コポリ、と出来上がった珈琲をカップに注ぎ入れる段階でようやく目を覚ましたユイと目が合い和かに挨拶を交わす。


「おはよ、昨日は寝落ちしちゃってゴメンね。お詫びと言っちゃあれだけど淹れたての珈琲でもどう?」


目覚めた瞬間にハジメが居なくて不安げだったユイの瞳がハジメを捉えると共に安堵に染まる。


「...おはよ、珈琲貰おうかな。」


朝の爽やかな空気を味わいながら、淹れたての珈琲を啜り一息吐く。


「...味覚が無くなるってどんな感じなの?」

「んー?珈琲を味わう事よりその過程を楽しむ方が楽しくなった、かな?ユイの料理が楽しめなくなったのは残念だけど、これを戒めとして自分勝手な行動は抑える様にするよ。」


苦笑いを零しながら自分に訪れた変化を受け入れる。


餓鬼から人間へと戻った後、ハジメの身体は味覚を失った。


それは餓鬼の性質か、魔物化の代償か。

真相は明らかにはなっていないが、確かな事は巨大なチカラには何かしらのリスクが存在しているという事だろう。


「他に後遺症は?」

「今のとこは味覚くらいかな?むしろ左腕が完全に元通りになったからトントンなのかも?」


バシッとユイのチョップが炸裂。


リュウほどではないが、相当に無茶な行軍をこなしたユイの身体能力はそこそこ上がっている。

そんな彼女のチョップは以前よりも格段に威力を増しており、じゃれあいと侮っていたハジメは涙目に。


「めっちゃ痛いっ!?」

「当たり前でしょ。元々料理なんてしなかった私がどれだけ頑張って練習したと思ってるの?それを腕の完治とトントンだなんて認めるわけないでしょうが!次に猿神様に会った時にでも治せないか聞いてみるから、供物用の魔石はハジメの研究分から抜くからね。」


えぇ、と不満の声を上げるハジメの頭に叩き込まれる強烈なチョップに口を噤む。


何だかんだで仲良しな二人の元に届いた報せ。


二人にとって可愛い妹分のアリスからの助けを求める声に、爽やかな朝の空気は霧散して慌ただしい日々が始まる。



ニートのダンジョン攻略記。

二人のイチャイチャタイムに届いたアリスからの助けを求める便りが激動の始まりを告げる。


次回、久々の仕事の依頼、カケルの決断。

乞うご期待。

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