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振るわれた拳が顔面スレスレを通った事に少しばかり嫌な汗をかいたが、その強烈な一撃は先程まで抑えていたワーウルフの頭部を粉砕しようやく張り詰めていた緊張の糸を弛める事が出来た。


「助かったよ、やっぱり頼りになるね。」


ワーウルフご自慢の鋭い爪で切り裂かれ、所々破けた服と至る所に刻まれた傷に顔を顰めながら、戦闘が始まった際に投げ出した荷物を取りに戻る。


「荷物は俺が回収しとくから先にその怪我を治してもらって来いよ。向こうでユイが恐い顔して待ってるぜ?」


チラリと視線を向けて見れば、白蛇のレピィを背後に控えさせて静かに怒っているユイの姿を捉える事となり、自分の行動に少しばかりの反省をしながら途端に重たくなった足を進める。


「あー、これ以上怒らせる前に早いとこ怒られて来ようかな。荷物はよろしく。」

「おう、たっぷり嫁に叱られて来いや。」


豪快に笑いながら送り出してくれたリュウと極寒の雰囲気を纏い待つユイとの温度差に、内心うんざりしながらも小さな怪我とは言え、これ以上放置しておくのも得策ではない為に大人しくユイの下へ。


「あー、ユイ?こちらとしては病み上がりの状態で飛び出した事に対して非常に反省してるから、色々とお手柔らかにお願いしたいのですが...どうかな?」


何も言わずにニコリと微笑むユイの様子に諦めにも似た何かを感じながらも、最後の足掻きとばかりにレピィを見上げながら視線を送ってみるも、まるで理解をしていないのか可愛げのある仕草で首を傾げるのみ。


ふぅ、と大きく息を吐いて気合いを入れれば眼前に佇むユイが笑みを深めて一言。


「レピィ丸呑みして全身くまなく治療してあげてくれる?」


視界がブラックアウトする寸前に見たのは巨大な白蛇が嬉々として口を開き迫り来る、レピィの事を知らなければトラウマになるような光景だった。



ハジメの治療の為に一旦休憩となった40階層攻略は思った以上に苦戦を強いられていた。


その原因は病み上がりのメンバーの不調、いまいち噛み合わないメンバー同士の連携、何よりも出現する魔物の強さと言うよりも厄介さがこれまでの階層に比べて段違いに高いのだ。


この階層に出現するワーウルフの身体を覆う剛毛はカケルの聖剣を防ぎ、メグの矢を弾く程の防御性能を誇り、側から見ても分かる程に隆起した筋肉は大盾を構えたタモツをガードの上からでも吹き飛ばす程の剛力を秘めている。

そして両腕に備えられた鋭い爪はメンバーに配布されている高い防弾・防刃性能を持つ防具を易々と斬り裂いてしまうのだ。


それでも35階層から既に37階層の半ばまで攻略を進めているのだから、ギルドの面々の地力の高さは現在の世界ではトップクラスを誇っていることが伺える。


「カケル、このままごり押しで40階層主まで行けんのか?」


一戦毎に前衛を担うメンバー全員が少なくない怪我を負い、階層が進む度に魔物との遭遇率は上がり、酷い時には連戦でメンバー総掛かりでぼろぼろになりながらどうにか討伐となった事もある。


「ん?あぁ、ユイの回復で戦闘復帰は早いしぼちぼち慣れて来たから階層主以外はどうにかなるだろ。」


鈍い光を放つ聖剣の手入れをしながら少しだけ投げやり気味な返事をするカケルに溜息をひとつ零す。


「安心しろリュウ、俺もあの狼供の馬鹿力にも慣れて来たからもう転がされる事は無い。俺が抑え込んだ所に全力で打ち込めばそれで解決だ。」


これまでの戦闘では何度も転がされ泥塗れになって来たタモツが沈黙を破り声高に宣言するのだ、流石のリュウもタモツの熱に押され、これ以上の言及はする事が出来ず肩を竦めながら退散する事となる。


未だメンバー同士の連携も思いも噛み合わないまま、彼らのダンジョン攻略は進んでいく。


続く。

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