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嵐の前のなんとやら。


「久し振りの地上の空気はどう?」


ダンジョン内でも変わらずに擬似太陽は昇り、そして夜になれば沈む。


だが、鬼に堕ちていたハジメにとって本当に久々となる太陽の光は、身体の芯から温められる錯覚を覚える程に暖かいものに感じて涙が溢れそうになる。


「ほんと眩しいね。帰って来れたんだ...。」


隣ではハジメ失踪して以来、笑顔を浮かべる事の無かったユイがニコニコと上機嫌な顔でハジメの手を引き、以前より少し増えた建物なんかの説明をしつつ自室までの間を歩いて行く。


「それじゃあ、リュウと修練場に行ってくるからハジメは大人しく部屋で休んでててね。抜け出すのも勝手に研究するのも禁止、鬼化の副作用なんかも心配だし絶対安静だからね。」


ニコニコと笑ってはいるが、その瞳の奥に見え隠れする狂気にも似た妖しい揺らめきに、ただただ頷くしか出来ないハジメは自室前でユイを見送り、随分と久し振りのベッドの柔らかさに埋もれる。


(はぁ、これまでも随分と無茶した自覚はあるけど、流石に今回ばっかりは迷惑かけ過ぎたな。)


きっとハジメが不在の間も定期的に掃除がされていたであろう部屋は綺麗で、机の上に散らかしてあった研究資料なんかはファイルに纏められているのをベッドの上から眺める。


(ぼちぼち次の研究内容も考えないとなぁ、というか、先ずは現状把握からか。)


思い立ったが吉日どころか即行動とばかりに、部屋の前で待機していた黒服さんに近況を確認出来る資料なんかを一通りお願いし、届くまでの間に整頓された机を自分好みへと模様替えして行く。


「ユイが使ってたのかな?綺麗に片付けられてるのは有難いけど、時には乱雑な配置の方が閃きは生まれるんだよねー。」


そんな風に片付け出来ない事への言い訳を口ずさみながら、ごみごみとした状態に戻りつつある自分の机を見て、どこか満足気。


「失礼します、頼まれていた書類を届けに来ました。あと、良ければ珈琲もどうぞ。」


ひと息入れようか、といったタイミングで届いた書類と珈琲になんとも言えない充足感を感じ、届けてくれた黒服さんに軽く挨拶をした後、ベッドに転がりのんびりとした時間を過ごす。


-全世界を巻き込んだスタンピードの発生。

-北欧にて連合軍の大敗。

-日本では迅速なスタンピード鎮圧が完了した模様。

-米国にて緊急事態宣言の発令、特殊個体と見られる地竜の出現により特殊編成軍が壊滅した模様。

-全世界で食糧難が発生しており、各地で暴動の発生。

-東南アジアは二度のスタンピードにて壊滅的な被害を受け絶望的な状況。

-組織主導の下、比較的被害の少ない地域を取り戻す為の計画が打ち立てられた模様。

-全世界での避難民の数が15億人を超えている。

-ダンジョン攻略にて、中国が大々的に募集を掛けて大規模な攻略が開始される模様。


次々と目に入る悲惨な状況を伝える内容に困惑しながらも、これほど酷いドッキリを仕掛けはしないだろう、とどこかズレた考えでどうにか平静を装いながら渡された書類に最後まで目を通して行く。


5分程度で読み終えただろうか。


自分がダンジョンで彷徨っている間にこんなにも世界は窮地に陥っているとは想像もしていなかった。


ふぅ、とため息をひとつ零せば、ふわりと漂う珈琲の香りに癒しを求め一口啜る。


「参ったな、色々と想像は出来ても実感が湧かないや。」


なんとも言えぬ後味の悪さを感じながら、全ての書類に目を通し終えたハジメは少しだけ疲れた目を揉み解しながら、柔らかなベッドに身体を預けて久々の休息に浸るのだった。


この後、調整を終えたユイが急ぎ足で訪ねて来て怒髪天モードを味わったのはギルドメンバーと黒服さんだけの秘密である。

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