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「ウキャーッ!!」

「小賢しい猿がぁぁあああ!!」


小さな身体を活かし、避けて、避けて、また避けて。

振るわれる拳をひたすらに避けた後、わずかに生まれた隙を突き、生まれ持って手にした鋭利な爪を大鬼に突き立てる。


決して勝負を決める程の決定的な攻撃では無いが、小猿の稼ぐ時間はリュウやユイを生かす。


「ウキャーッ!!」


かつては戦うチカラを持たなかった小猿は、ハジメ達と出会い、猿神の顕現を果たし、そして今は猿神の側に控える事が叶った。


そんな小猿のチカラの源の多くは猿神の加護であるが、神の威を借りる、ということは言うほど易くは無い。


ギルドの面々の中でも、猿神の加護を受ける事が出来たのがカケルだけだった様に、本人の適正やキャパシティなど様々な要因が絡んだ上で成り立つ奇跡の様な事象が神威を纏うということなのだ。


「あれは妾の顕現において最も尽くしてくれた子でな、いつの間にやら神威まで纏う程に成長してくれたのよ。」


したり顔の猿神が隣に居る鬼神に語りかければ、戦いを眺める鬼神は余裕ある表情のままニヤリと嗤う。


「俺が唯一、眷族として認めた鬼が借り物のチカラ程度に屈すると思うのか?なかなかに面白い冗談だ。」


鬼神の言葉通り、戦いは決して優勢と呼べるものでは無く、ジリジリと地力の差で詰められていく小猿に檄を飛ばす猿神。


「ウウゥ、ウッキャァァァアアア!!」


猿神からの檄に応えようと気合い十分な小猿は迫る大鬼相手に渾身のカウンターで迎え撃つ。


「まだ足掻くかっ、身の程を知れっ!!」


-ズドンッ。


地力の差か、経験の差か。

小さな身体に叩き込まれた大鬼の強烈な蹴りは小猿の意識を刈り取り、尚且つ、戦いの場には不要とばかりに彼方へと蹴り飛ばす。


「実に良い蹴鞠よ。ただ、戦いの場において遊具は不要。いや、その様では既に戦いとも呼べんか。」


大鬼の放った侮蔑の言葉にも言い返せない程に疲弊した二人。


少しずつ近づいてくる絶望。


抗えない程のチカラの差、動かぬ身体と枯渇した魔力。


「ユイ、すまねぇ。」

「私の方こそ無茶に付き合わせてごめん。」


互いに全てを賭した結果がこれなのだ。

そう、互いに全てを賭したのだ。


眠る時間、食事の時間、娯楽すら捨てた。

二人はハジメを取り戻す為に、人である事を諦め魔物に近い性質を得たのだ。


魔物と呼ばれる存在は食事をしない。

正確には取り込んだ魔力を糧に生きている。


そして、飽和した魔力は自らの存在を強化する。


ハジメが考えた禁忌とは、幼女神が与えたチカラを更に深めて、魔物に似た性質まで変質させるものだったのだ。


「実に惜しい事になった。下層で相見える事となればもっと楽しめたであろう...いや、戦いは最後までわからんか。」


ドロリ、と溢れ出した闇を避ける形で後退した大鬼の口元が歪な笑みに変わる。


「久しく見ない間に随分と変わったものだな。」

「ん?なんで大鬼までここに居んの?まぁ忙しい身としては有難いが...とりあえず、やろうか。」


二人の稼いだ時間、小猿の稼いだ時間。

カケルの余裕そうな笑みの下に隠された必死の進撃。


不安定なバランスの上に成り立った奇跡の様な戦いの連続。


全てはハジメを取り戻す為に。

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