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「コネクト。」
凛と響く声音が空間に響き渡る。
シャン、と鈴の音が微かに聞こえたかと思えば、激戦の中で舞い上がった砂埃がモーゼの十戒の如く分かれていき、まさに神気と呼べる程の覇気を纏った猿神が共を引き連れ堂々と登場する。
「クカカッ、半ば冗談半分であったが本当に神を降臨させるとは大した心根よ。その想いの強さ、そして対価に免じて妾の本気を見せてやろう。」
グルル、と突然の乱入者に警戒心を露わにするハジメを憐れむ様な視線を向ける猿神がちょいちょい、と挑発するように指を振るえば次の瞬間にはハジメの強烈な一撃が猿神に襲い掛かる。
ひょい、と軽快な擬音が付きそうな程に身軽な体捌きを見せ、ハジメの拳を躱す猿神に苛立ちをぶつける様に拳を振るうハジメの表情はやや苦しそうで、振るう度に少しずつ拳速が落ちていく。
「月詠には及ばずとも妾とて先見の力を持っておる、その程度では妾に触れる事も叶わんて。」
ストン、とハジメの肩に乗ったかと思えば瞬間、強烈な蹴りがハジメの顔面に炸裂し鬼の象徴である双角のうちの一本をへし折る。
「クカカッ、小僧では鬼にはなりきれんよ。大人しく妾の眷属で収まっておれ。」
振り払う様に拳を振るうハジメを相手に文字通り神懸かり的な回避を見せ、一切を掠らせる事も無く圧倒的なチカラの差を見せつける。
一撃毎に鬼の氣を削り、ハジメの纏う鬼を剥がす猿神の技術を虚ろに眺めるだけのリュウが、力の篭らぬ拳をグッと握れば、僅かに漏れ出す魔力が蛍火の如く儚く宙を舞い消える。
「そろそろ頃合いかの。」
もはや揶揄われているだけのハジメがクルクルと一向に当たる気配を見せない拳を振るう中、共の小猿に手を引かれたユイがケセラセラの片割れを大事に握り締め、ハジメへと近付いていく。
「...無粋な輩が邪魔立てに来おったか。」
ふらりとハジメの前から離れた猿神がユイを抱えて一足飛びで後方へと飛び退けば、ハジメの前に立ちはだかる形で姿を現したのは赤の巨影。
「すまんな、神の意には我とて及ばん。不本意ではあるがここらで諦めよ。」
かつて相対した時には無かった幾つかの傷痕が、より強靭になったであろう巨躯に深々と刻まれているが、それは大鬼の歩んだこれまでの修羅を見せ付けられているようで、ゴクリと息を飲む。
「...最下層の入り口で再開するもんだと思ってたんだがな、どうした?気が変わって芽を摘み取りにでも来たのか?」
首元に巻き付いたレピィの分体から治療を受け、どうにか自力で歩ける程度には回復したリュウが軽口を零しながら大鬼の前に立ちはだかる。
目に宿した闘志は未だに途切れる事無く燃え盛り、かつて敗北を喫した大鬼相手に怯む事無く堂々とした態度で相対するリュウ。
「我とて不本意よ、小僧が鬼となったのは我が施した不完全な呪が原因。それ故に鬼神に目を付けられた小僧には同情はするが、こうなれば仕方がない、全てを、諦めろ。」
ズダンッと大鬼の暴力的な一撃が全てを壊す為に振るわれた。




